第165話 オカルトと抵抗力
これ以上何もできないので、会議は終了した。
「では準備ができ次第お呼びするのでそれまで休憩していただけると。……ああ、チケンくんだけちょっといいかな?」
「はい」
「えっ、チケンになにする気?!」
「チケンがいるなら私達もここに居るが」
うーん、二人が過保護。というか俺なんかおっさんなんだから放っておいてくれよ、と思うんだけど。
もういっそ俺の写真でも投影してもらおうかなと思ったけどどの写真が残ってるかわかんないし、俺は自撮りする習慣がないのでまともな写真もない。フルダイブする直前の微妙な顔とか社畜時代に更新した免許証の目つきの悪い顔を出されても嫌だな……。
「何の話?」
「地球の話を聞きたくてね」
「私も聞きたいわ!」
「同じく」
スフォーのおっさんは笑顔だが困ったな、という顔をしている。
「具体的に何を聞きたいんだ?」
「一般的な話を聞きたいんだ、地球のね。もちろん、地球は国ごとに慣習などは違うのはわかっている。体質などの話を聞きたいんだ」
「……いいけど。それならこの二人もいてもいいだろ? 体質って、具体的にはどんな?」
スフォーのおっさんは指を動かすと、会議室の俺達のテーブルが、一層で見た白い石の境界線に囲まれた。よっぽど聞かれたくないらしい。
「……何この結界、こんなの指一本で使えるなんてずるい! 私はこの強度の結界作るのに半紙一枚使うわよ!」
「一応ね。おタヒ姫の結界は作り駄目ができるから羨ましいよ、私は一回一回作り直さないといけないからね」
そう言うとおタヒの機嫌は直ったようで、ニコニコと着席した。うーんチョロい。
「……さて、聞きたいのはね、大したことじゃないんだ。地球人は魔法やスキルを使えないって聞いた。合ってる?」
「あってる。今俺がなんで使えてるのかはわからんけど、基本的に地球では魔法やスキルはオカルトで、存在しない。あるって言ってる人もいるけど、地球上に居る99%の人は魔法もスキルも使えない。物理法則しかない世界だよ」
本当は100%無いと思っているが、無いものは証明できないので99%にしておいた。それを聞くと、ぎょっとした顔でグリセルダとおタヒが俺を見る。
「妖怪や魔物はいると聞いたんだけど?」
「現代的な解釈では、当時の理屈では説明のつかない現象を妖怪と呼んだということになってる。精神病、見間違い、勘違い、嘘、デマ、向精神薬で見た幻覚の類がほとんどだよ。それでも説明のつかないことってのは有るんだけど、年を重ねるたびに、そういうった現象は実は物理法則のあれこれで、こういう現象が起こって勘違いした、ってわかってきてるんだよな。心霊写真なんかもデジタルになってほぼ絶滅したし」
そういうと、スフォーのおっさんは少し考え込んだ様子をし、二人は俺をじっと見つめている。
「なるほど、本当に実在しない世界か……」
「魔法と地球、何か関係あるのか?」
「あるんだ、ちょっとだけ検査をさせてもらっていいかな?」
俺は一応了承したが、今の俺の体はフルダイブするために自分でパーツを選び、制作されたものらしい。この体を検査することになんの意味があるのだろうか?
カハールカさんが呼ばれて、俺のいろいろな場所に計測器具を当て、そのたびに弱い光が漏れる。カハールカさんとスフォーのおっさんは、とても渋い顔をした。
「カハールカくん、ちょっと悪いんだけど、エトワールが管理しているボックスも検査してきて」
「急いでいってきます!」
カハールカさんは、来る時まで面倒そうな顔をしていたのに、慌てた様子でダッシュしていった。
「……もしかして、俺、死ぬとか?」
「いや、私達と体質が違うからびっくりしたんだよ」
「何を検査していたんだ?」
スフォーのおっさんは、腰に下げたポーチから同じ計測器具を取り出して、自分に対して検査すると、ピカッと勢いの良い光が放たれた。
「今調べていたのはね、魂の外殻……つまり、魂の強度の検査なんだよ。多分、君は呪詛や精神系の魔法に極めて弱い。注意しないといけないなと思って。魔法のない国の住人なら、無菌状態で育つ乳児のようなものだろうからね……」
「……なるほど、そういえば王太子に術をかけられてゴロゴロ転がっていたな……」
グリセルダが俺の黒歴史を呟く。そう言うところは思い出さなくていいから。でも、あれ? 王太子って魔法得意じゃないのか?
「えっ、王太子ってじつはすごい魔法使いとかじゃないの?」
「……ディーのまともに使える魔法は千里眼のみだ。おそらくエミールが教えて、面白半分で唱えてみたら成功したのであろうよ。おそらく我が国の者にはまともに通るような強さの魔法ではない」
「……つまり、精神魔法をかけられなかった今までが運が良かっただけ?」
「そうなるね」
おっさんの言葉に俺はゾッとした。たしかに、精神魔法をかけてくる敵はいなかった……。いたら、今頃この二人に危害を加えていたのかもしれないと思うとあまりにも怖い。
「精神系の魔法って、こちらじゃ殆ど通らないから誰も覚えないし、効果がないから廃れたんだよね。一応技術として残ってはいるんだが……。だからここのモンスターは精神系魔法を使わないんだ。ただ、ヴェレルはおそらく地球人の体質を知ってるだろうからね。この先対策をしていくに越したことはない」
「ちなみに、グリセルダとおタヒは大丈夫なのか?」
試しに二人に検査器具をあてると、凄まじい閃光を発して二人に検査し終わった時に中のパーツが焼き切れた。俺の光が切れかけの豆電球、おっさんの光が天井のLEDとすると、二人のはスタジアムの照明レベルだった。比較にならない。
「……なるほど、お二人は魂が強くていらっしゃる」
「そういえば私本人への呪詛は一回も貰ったことがないな。私には政敵も多かった。呪詛などもらってもしかるべきだったが、そういう体質だったのか……」
「私も。何回も死んだけど、すべて原因は物理的なものだったわね……父君に呪われたときもびっくりして転んで仏像に頭を打ち付けて死んだだけだったし……」
うーん、ちょっとゲームと違うんだな、そこは……。悲しい死に様だが、生き返れてよかったのだろうか、悪かったのだろうか……。最初から死なないのが一番良かったのだろうが。
「じゃあおタヒは王太子の何に怯えてたんだ?」
「私の記憶、見ようと思えば全部見られるはずよ。そんなの怖すぎるわ。チケンにはわからなかったかもしれないけど、目線があった時に魂の奥底まで見られているような感覚があったもの」
それはこわいな……。俺にも思い出したくない思い出の一つや二つある。それを口にされたら大分ダメージを食らうだろう。
「だから、すこしチケンくんのための装備を準備させるよ。夕方まで少し待っていてくれないかな?」
「よろしくお願いします」
「私からも頼む」
「私も何か作ろうかしら……チケンのために護符とかあったほうがいいわね……」
「スフォー様! 対精神魔法装備の追加をお願いします!」
俺はもちろん了承し、頭を下げた。グリセルダとおタヒ、インテも口添えしてくれたのは嬉しかった。
それにしても俺にそんな明確な弱点が有るだなんて、知らんかったよ……。しかも、地球人全体に。
俺はそこで思い出した。地球の、それも日本の、ターボ婆ちゃん達と八尺様を。




