第164話 必要経費
俺達は出発前にスフォーのおっさんに呼ばれ、会議という名の打ち合わせをすることになった。出足をくじかれたような気分になるが、確かに無計画に行くのもよろしく無いよな……。
俺は末席を選んで座ろうとしたが、吉田さんがニコニコしながら俺を上座へと運んでいった。やめてくれ、社長の隣、エト姫の向かいなんて照れちゃう……。
俺のもう一方の隣にはグリセルダがいて、おタヒは隣がエト姫で微妙な顔をしていた。
俺の気持ちなんか当然だが無視して会議は始まる。
「八層の化学プラントについてだ。書類上では化学薬品の生成となってるんだけど、やっぱり申請内容と違うようだ。さっきやっとエリアキーパーなんか三割は掌握できたんだけど、ほとんどが違法改造されて使い物にならないんだよねえ。なので、またエリアキーパーが暴走してモンスターを発生させてくると思う」
「なんとなく予想はしてた、というか王太子がモンスター出るって言ってた」
王太子は俺に向けて手を振っていた。王太子が美少女だったらよかったのになぁ……。
「化学プラントについて、ちょっと内容が不安だからうちから職員を派遣しようと思う。カハールカくん、ヨシュア、セーレ、君たちちょっと働いてきなさいね。カハールカくんはこれが初出動だね、頑張って」
「はーい!」
「了解しました!」
「えっ、やだぁ!!」
順に吉田さん、清野さん、カハールカさんである。カハールカさんは心から、全力で、死ぬほど嫌だという顔をしている。それを見て吉田さんが満面の笑顔になっているが、この人全然ブレないな……。
「うーん、じゃあカハールカくん、教育庁の大臣の尋問行くかい? 安全だよ。ちょっと見苦しいものを見るハメになるだろうけど」
「うげぇ! 嫌ッス!」
「もしくは昨日倒した半魚人の成分解析とかする? 病原体の塊だから危ないけど」
「今すぐ退職したいッス!」
「ふふふ、着任三日でやめた職員かあ。もう公的機関には採用されないだろうねえ。流石に紹介状出せないし。履歴も残ってるし民間でもどう思われるかな。三ヶ月頑張ったら正職員になれるしそこから一年続いたらどこにでも就職できる紹介状を出せるんだけどねえ。ぼくの名前で」
スフォーのおっさんは公的機関の長であり、王子と王女の教育係である。そんなクソ偉い人の紹介状だなんて、もう水戸黄門の印籠並の威力があるだろう。
そんな紹介状で就職したらもう席に座ってるだけで金が湧いてくるレベルなんだろうな……。
俺もそんな紹介状欲しい。地球で。
「うちはねえ、みんなが思ってるようなキラキラした仕事じゃないんだよね……その分待遇は良くしてるけど。きつくて危険で汚いこともやるから高待遇なんだよ。ちなみに準職員のままでも副運用体はすぐ一体作ってあげるよ、仕事してくれるなら」
「どれも嫌だけど副運用体と紹介状は欲しい……ッ!」
欲望に忠実でとてもいいと思う。自分に嘘を付くと後々色々大変になるからな……。
「で? どれを選ぶかな?」
「チケン氏についてくッス! チケン氏よろしくお願いします!」
「お、おう……こっちこそよろしく」
「脳内で比較検討した結果、チケン氏についてくのが一番面白そうと判断したっす」
カハールカさんの発言に、吉田さんはわかりみ顔で頷いていた。その選択の仕方、後悔しないんだろうか。
俺に選択権はおそらく無いと言うか、本当に着いてきてもらわないとどうにもならない事態があるんだろう。
それをよくわからん顔で見ている二人。
「何故そのような無力そうな者を同行させる?」
「正直、足手まといじゃない?」
「攻撃的にはそうなんだけどね、ほら。謎のプラントがあるから、それの内部分析とかしないと。溶媒の取扱とか資格がいるんだけど、持ってるのがカハールカくんと他の数名くらいで、今から呼ぶとあと三日くらいかかっちゃう」
「別に私達には関係ないわよ、勝手にやっておきなさい」
「同意見だ」
スフォーのおっさんが困った顔で俺を見る。助けてと言わんばかりだ。
「まあまあ。ほら、お前らも吉田さんと清野さんの戦いっぷりは見てただろ? 吉田さんと清野さんが俺とカハールカさんの分まで戦ってくれるから大丈夫だよ」
「うーん、たしかにまあまあ良かったけどねえ、でも足手まといじゃない?」
「その二人はともかく、自分の身も守れぬものを随行させるのは……」
まだ渋い顔の二人。
「カハールカさん、質問」
「何っすか? 私本当に戦闘とかできないんで一言も反論できないんすけど……」
「いや、何かゲーム機とかスマホ持ってきてないですか?」
「2じゃなくて1の方とスマホなら持ってきてるっすけど」
「ちょっと1のほう貸してくださいよ」
カハールカさんから携帯用ゲーム機を借りると、俺は以前カードゲームで遊んだ時にちらりと見たゲーム、テーブルゲーム詰め合わせのソフトを起動させた。もちろん、たくさんあるゲームの中から囲碁を選ぶ。
「おタヒ、ほら、これ囲碁」
「えっ?!」
おタヒはすっと俺の横に寄ってきて、操作の仕方がわからないのでおタヒの変わりに俺が打つ。難易度は「えげつない」にしたが、おタヒは楽しそうに碁を打っていた。
やっぱこいつの碁の相手俺じゃ務まらねーわ。俺「かんたん」で負けたもん。ルール殆ど知らないからだが。
「中々やるわね、この箱! まあ私が勝ったけど!」
久々の趣味をエンジョイし大層ご満悦だ。ホットケーキ食べてる時と同じくらい嬉しそうな顔が見られてよかったよ。
グリセルダも子供らしくはしゃぐおタヒに表情を緩めていた。こうしていると昨日大臣をぶっ殺そうとしていた女の子達にはとても見えない。
「おタヒ、カハールカさんついて行っていいならそれくれるって」
「カハールカとやら、安心なさい! 私が守ってあげるわ!」
「ちょっと?!……と思ったけど、長官、これ経費で落ちるっすか?」
「もちろん構わないよ。何台でも買いなさい」
「やったー!! 税金でゲーム買えるなんて、なんとなく嬉しいっす!」
嬉しさポイントそこなんだ……。でも俺も多分経費でガチャ代とか出たら嬉しいだろうから気持ちは解る。だがおっさん、あまりにも緩くて甘い。いいのかそれで。監査とか大丈夫か?
おタヒは携帯ゲーム機を嬉しそうに抱えて、おもちゃを買ってもらった子供のようだった。いや、そのものか。
落ち着いたらおタヒ用にちゃんと設定し直してやりたいな……。
その後、大臣の処遇などについてスフォーのおっさんから軽く説明がある。もちろん生存しており、現在は両手を失った状態でスキルを封印され、審問の準備をしているそうだ。
また、教育庁の大臣以外にも、有名企業の社長や貴族なんかもいたらしい。今は王室や星間司法庁の関連組織である司法府などと協議をしているが、大変らしい。まあ、そりゃあな……。
俺達が進み次第簡易ポータルを設置し、危ないときは戻れるようにもしてくれる話もした。やはり下層にも上の層のように被害者がいる可能性がある。なので自由に動ける俺達四人でヴェレルを追い、必要に応じてサポートを出してくれるという。
エト姫は最終的な法律の判断とかをする必要があるので、結局ついてくることになった。大臣の尋問をするか最後まで悩んでいたのだが。
そういうところはメテクエっぽいな……。
俺はともかくグリセルダとおタヒ、エト姫がいるので俺は大船に乗ったつもりで進むつもりだ。何なら俺の出番が肉壁役になるだけの可能性だってある。それが一番楽でいいけど。
ヴェレルには、やったことの責任は取ってほしいと俺も思う。
「それで悪いんだけどね、出発夕方にしてもらっていいかな?」
「えっ、なんで?!」
「あのクズどもが逃げるじゃない!」
「そうなんだけどね、ちょっと必要な資材の搬入が間に合わなくてね……本当に申し訳ない。王太子の見立てだとまだ九層にいて、なにかごたついてるらしいから大丈夫だろう」
王太子はまたにこやかにこちらに向けて手を振っていた。声も出さないし、顔も見えないんだけどなんとなく表情が解るんだよな。不思議だ。
まあ王太子がにこやかにしているうちは大丈夫だろう……。




