第163話 お約束の謎
翌朝、いつもより快適だったせいか、ぐっすり眠ってしまい珍しく一番最後に起きてしまった。
「おはよう……って、ウワアアアア!」
俺のすぐ横に、真っ黒い黒モヤが横たわっている。
「ケンイチくん、おはよう♡」
「うわああああ! グリセルダ助けて! 王太子に呪われる!」
「こらディー、チケンを怯えさせるな!」
「えー、寝顔を見ていただけなのになぁ」
心霊案件かと思ってビビったぜ……。この刑務所、人が死にすぎてて実際にあっても驚かないからな。いや、王太子もう死んでるし、実際心霊案件そのものか……。
珍しくお茶と朝食がスタンバイされており、俺は顔を洗って朝食を食うだけでいいようだった。
昨日のザリガニの濃厚なスープに、サラダ、焼き立てのトースト、バターにカット済みのフルーツ。なんとも豪勢な朝食だ。
「チケンが起きるの待ってたのよ、食べましょ!」
「そうだな、食べよう。スフォー殿が話があると言っていた。待たせるのも悪かろう」
「そうだな、俺も腹減ったよ、食べるか」
何故か食べている様子を楽しげに見物している王太子と眼鏡。うーん、気になる。食べながら、気になることを話し合うことにする。
「しかし、今日でここも最後かあ、この下の方気温とかどうなってんだろうな」
「そういえば着るもののことも考えないとな……ここのように極端な気温だと困る」
「この層より暑い場所があったら困るわね……」
この層に来て思ったのが気温の問題である。ある意味、どんなモンスターよりも手強い。
流石にこの気温で春服だと行動するのすら辛いからな……。三十度前後あるし。
「えーとね……この下の八層は二層のダンジョンくらいひんやりとしてるけど、ところどころに暑い場所があるね。九層はローレンツェンの五月くらい、長袖がいいかな。十層は秋みたいな気温だから乙橘姫とケンイチくんは風邪を引かないように気をつけて」
王太子、いてよかったわ。貴重な情報である。
「王太子、役に立つんだな……」
「そうでなくては困る……」
グリセルダ、普段は苦労してたんだろうなあ、この王太子のコントロール……。エト姫よりはお行儀が良さそうなのが救いだ。
「うんうん、君たちのためだからね。婚約者と未来の愛妾のためだ、張り切って未来を見るとも!」
「愛妾って誰だよ?!」
「やだなーわかってるくせに」
「俺はぜってー日本に帰るからな!」
どこまで冗談なのかはわからないが、俺が王太子の愛妾になることは絶対にないと断言したい。
「じゃあついでにどんな感じの場所か言える範囲でいいから教えてもらってもいいか?」
俺の質問に嫌な顔一つせず、王太子の答えが返ってくる。
「うーん、八層はもう見せたよね。なんかずっとうるさい場所だよ。九層は記念碑が立ってて、うーん、霊廟って言っていいのかなあ? 薄暗くて静かでなんかお墓っぽいのがいっぱいあるよ。十層は入ったタイミングによってどんな場所か変わるみたいだけど……多分、君たちが入るのは図書館の書架でできた迷宮かな」
割とガチの情報をくれた。頼れるのに頼れない、微妙な男だな、王太子は……。
「ふむ……図書館ということは火魔法等使うと危険なのだろうな」
「そうだね、本も自分も焼けるよ、気を付けて。君たちの死体はまだ見たくないからね」
「お墓は何か出るの?」
「亡霊がたくさんいて、いくつかの関門があるね」
「まあ亡霊ならいいわ、慣れてるもの」
その他、八層には機械の見張り番(おそらくメカとかだろう )がいることやかなり広大なエリアであること、九層は門番の老人がいて狭いがセーフエリアがないこと、十層は出てくるモンスターが多種多様すぎて説明がしにくいことなどを教えてくれた。
「俺達三人と牛頭くんとエト姫でどうにかなるかね、そんな場所」
「ああ、八層だけはスフォーさんの部下がついてきてくれるみたいだよ」
「マジか、俺達後ろから歩いてついてくだけで良かったりする?」
そういうと、王太子は上品に笑って答えなかった。つまり、そんなことはないってことか。夢を見すぎていたようだ……。
十一層には何があるんだろうか。それについては何回聞いても教えてくれなかった。よっぽど言いにくいことなんだろうな……。あんまり考えたくないが。
思い悩んでいると、ドアが開いてエト姫がやってきた。
「おはよう、諸君! さあ、ブリーフィングの時間だ、こちらに集まってくれたまえ!」
「鰤遺品……?」
おタヒは微妙に横文字に弱い。打ち合わせの意味だと伝えると納得していた。
そういえば、この迷宮に入ったときから謎の翻訳機能が働いている。
おタヒや四方さん達と話が通じるのは解る。おタヒの国は平仮名と漢字がある日本ライクな国だし、四方さんたちは日本で結構な期間社会人として活動している。
しかし、グリセルダやスフォーのおっさんと話しが通じるのは解せない。現に、俺は翻訳機能のふりがながないと現地語の読みができないのだ。そして書くこともできない。
なんだか不思議ではある。グリセルダとスフォーのおっさんの言葉も本来なら理解できないはずなのだ。
迷宮ならではのご都合主義といえばそうなのだが、多分そうじゃないんだろう。これも聞けば理由がわかるのであろうか……。
ドアから一歩外に出ると、元々草地だった広場にびっくりするほど立派な平屋の建物ができていた。一軒家くらいのサイズがある。セーフエリアよりでかい。
「うわ、どうしたんだこれ?!」
「えっ、だって姫と王子と長官が居られるんですよ、ちゃんとしたお部屋を用意しないといけませんし……流石に持ち込み資源に限界があるのでこのくらいですが」
四方さんは説明してくれたが社長はともかく、十五年モスマン食ってゴロゴロしてたエト姫と、五十年前後風雨にさらされて白骨死体をのんびり晒してたおっさんにそんな配慮いるかな……と思っていると、清野さんからのサポートが入る。
「しばらくはこの七層をベースにすることにしたんでちょうどいいかなと。まさか現地民の家を徴用するわけにもいきませんしね……」
マウ族の人の家、ご休憩に使う場所以外俺みたいな子供くらいの身長に合わせて立ててあるからエト姫たちには小さいだろうし、そもそも徴用自体が良くないよな。
入ってみると見た目より明らかに広い。
「あら、空間を広げる呪法ね。身分の低い術師が使っていたわね。私は広げなくても屋敷が広いからそう言うのは必要なかったけど!」
おタヒの言い方よ。さすが腐っても悪役令嬢だ。でも、便利だな……資材がなくてもコレクション部屋とかを増築できるのか。
「ふむ、便利そうな魔法だ。この魔法を使ったのは?」
「僕ですよ。でも空間拡張術は姫もお使いになれますよ!」
清野さん有能そうだもんなあ。
「エトワール、意外に有能なのか?」
「姫は性格以外は大変に有能ですので……」
「いいなー、俺もそう言う魔法使いたい」
エト姫こんな難しそうな魔法も使えるんだ。
ドヤ顔をするエト姫を俺は久々に推しを見る目で見つめていると、おタヒが私も使えるわよという自己主張をし始めた。ウザ可愛いやつだ。
中の廊下を進んだ先に会議場が設えてあり、すでに社長や魔法メガネ、スフォーのおっさんが席に着いていた。
「よく来てくれたね、じゃあ少し話をしようか」
穏やかな顔でスフォーのおっさんが宣言し、内容不明の会議が始まった。
作品とは全然関係ないことなのですが改名しました。
内容は変わらないし、これからもこの作品を完結するまでは作品を書く予定です。
詳細が気になる方は活動報告でご覧ください~!
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