第161話 仕事をしない幸運
話しているうちに、いくつか驚愕の事態が発覚した。
ヴェレルがマウ族の人々に作らせていたあのエロ衣装の元々のデザインが、日本のエロ同人誌だったのだ。しかも神子がデザインしたという触れ込みでファッション界で前衛的だと話題だったこと。
日本円で一着数十万〜数百万するのに売れてるらしい。マジかよ……。
日本出身の俺はそれを聞いて死にそうになった。その上知らん星のダンジョンで自国のエロ同人誌について、推し達の前で説明する羽目になるなんて、あまりにも辛すぎる。
俺もあの衣装に興味があるのかと二人に問われるし、俺のメンタルはボロボロだ。あんな紐、実在してたら興奮する前にドン引きする。
「俺はもっと健全な服が好きだ……普段の服があってこその夏服だからな」
「解かるっす、普段薄着のキャラが薄着をきても有難みがないんすよね……」
カハールカさんが俺の意見に同意してくれる。嬉しい。さすが水着エト姫の生みの親、物の道理というものをわかっておいでだ。
水着や夏服で大事なのは以前に比べて露出が増えることであって、年中薄い服に有難みはない。
熱弁する俺をグリセルダとおタヒは胡散臭いものを見る目で見つめていた。
「本当かしら、先程の薄い草紙のような服が好きなんじゃないの、チケン」
「誤解だから……おれはエト姫は制服の初代派なんだよ信じてくれ!」
誤解されている。辛い。これも全部ヴェレルのせいだ……。
話を変えて誤魔化すしか無い。俺はずっと気になっていた質問を投げることにした。
「そういやあのロボはなんでここ?」
なんで迷宮に版権の有る巨大ロボがあるのか気になっていたからだ。
社長の言うことには、ヴェレルがあのゲームを気に入ってカハールカさん(元ヴェレルソフト社員)経由で設定として存在した設計データをパクってきて勝手に作ったらしい。
デザインかっこいいからな……作りたくなる気持ちはわからんでもない。
「テオネリアに著作権法はないんですか?」
「有るんだけどね……」
「知財管理はちゃんとやったほうがいいですよ」
「だそうだよ、カハールカくん」
社長の言葉にカハールカさんは恐縮し、すみませんでしたを連呼しながら土下座していた。
アラサーのお姉さんの風情のカハールカさんが、幼女の姿の社長に土下座をしているのは大変有難みのある映像だった。
記憶に焼き付けておきたい。
俺も土下座する方になりてえなあ、と思いつつ、最近なかなかそう言う場面が訪れないので悲しい。多分これは誰に言っても理解されないだろう。
俺はあまり自分が過保護にされるのは好きではない。致命傷にならない程度の、絶妙な罵声を浴びていたいと思う。
そうしてるうちに日付が変わりそうな時間になり、明日に備えて寝ることにした。俺達三人以外の人は簡易セーフエリアを作ってそこで寝るらしい。俺達に聞かせたくない話とかもあるだろうしな。
ヴィルステッド村の人々に至ってはそもそも睡眠が要らない。なので、マウ族の夜型の人々と一緒にあれこれして遊ぶらしい。睡眠が要らないのだけは羨ましい……。
「ちなみにこのセーフエリアもこのボタンを押して個室モードを使えば、パーテーションで個室のように部屋が別れるから、好みで使い分けてくれ」
スフォーのおっさんが嬉しい情報を教えてくれた。
「やったー! じゃあ俺使う! 一人で寝る!」
「えっ、だめに決まってるじゃない。チケンは私と寝るのよ」
「だめに決まっている、チケンは私と寝るのだが?」
「いいなー、ケンイチくん人気者で。僕も一緒に寝ていいかなー」
俺の気持ちを理解してくれる人は誰一人としていないようだった。
あと王太子は眼鏡と寝ろよ。恋人同士だろうが。眼鏡も「拙者もご一緒したいでござるw」とかいいだすしよぉ……。
その後勝手に俺を巡って争いが起き、くじ引きで誰がどこに寝るかを決める羽目になった。結局、いつも通り俺が真ん中で寝ることになった。
幸運が仕事をしていない、と思ったがターン延長で延々と【幸運の祈り】を繰り返している。そのせいで補正込みの幸運が、この二人も1+99とかになってるんだよな……。
数値的に本当にカンストしているのか、実際は上昇しているのか知る手段がないのだが聞けば教えてもらえるのだろうか。
聞きたいことが多すぎるのだが皆忙しそうで二の足を踏む。
ひとまず王太子と眼鏡は社長と一緒の部屋で寝るらしい。事案を起こさないでほしい。
結局、俺は独り立ちを許可されなかった。
「挟まれると暑いからやなんだけど……」
「じゃあ空調を強めに入れておこう。ここから調節できるよ、チケンくん」
スフォーのおっさんまで俺の逃げ道を潰してきた。酷い。
その夜、諦めて三人で同じベッドで寝たが、天井からほんのり涼しい風が吹いてきて今までの不快さとは天と地ほどの違いがあった。
すやすやとぐっすり寝るはずだったのだが、しばらくして目が覚めた。
(……ちょっと寒いな)
部屋には非常灯しかついていなかったが月明かりが差し込んでぼんやりとした明るさがあった。
少し空調を効かせすぎたらしい。肌寒いのでインテの中から上着を取り出すか、はたまた空調を弱くするか……と思って目を開けると、おタヒが表情のない目でじっと俺を見ていた。
俺が起きたことに気がつくと、ぱっといつもの顔に戻った。何か気になるな。
俺はグリセルダを起こさないように小声でおタヒに囁く。
(眠れないのか? 暇なら話でもするか?)
(チケンがどうしてもしたいなら聞いてあげるわよ!)
いつもの俺ならじゃあ寝る。というところだが、今日は下手に出る。
(じゃあ話すか、なんか防音の魔法よろしく)
おタヒは慣れた様子で指を動かし、俺とおタヒの周辺に一瞬だけ青く弱い光が発生した。防音結界らしい。
同じスキルなのに、地味に個性があって面白いな……。グリセルダの防音魔法は白でエト姫のは金色だった。
「同じ防音スキルでも人によって発動の色が違うんだな、面白い」
「結果が同じでも多分術の組み立てが違うからだと思うわ」
結果で10という答えが出ても、9+1なのか100÷10なのか、計算式は全部違うというそういう話なんだろう。
「面白そうだな。俺に基礎知識があれば詳しく作用機序を知りたいんだけどな。聞いてもさっぱり理解できなさそうなのが残念だ」
「基礎が大変なのだけれどね、でもいっぱいあって楽しいのよ! この迷宮の件が終わったら教えてあげるわ!」
「マジか、そりゃー楽しみだな!」
一体どういう理屈で魔法やスキルが動いてるのか俺はそのへんを全然知らない。そもそも地球に魔法がないもんな……。もし教えてもらえれば俺も魔法使いになれるかもしれん。
「術は調べれば調べるほど楽しくなってくるの。一生こればっかりやっていたいものだけどね……」
そう言うとおタヒは、一瞬だけさっきの虚無の目をした。
気がついたが、俺はグリセルダの事ほどはこいつを知らない。二人っきりになったこともなければ蘇芳宮の花嫁もそんなにやり込まなかった。
蘇芳宮の皇太子のモデルは源氏物語の光源氏だと言われていた。そのくらいおタヒの兄である皇太子の下半身は令和のゲームにあるまじき緩さだった。
おタヒのウザ可愛さを覆いつくすほどの皇太子とヒロインの倫理観のない物語に苛つきつつプレイしていたのであまりやり込めなかったのだ。
キャラクターの不快さは蘇芳のほうが上だったので……。
世間的には皇太子はともかくヒロインは大和撫子と評判だったらしいので、世間と俺との感性の格差は感じる。
ここですこし、おタヒのことを理解するきっかけになるような会話ができればいいんだが……。




