第155話 新たな来訪者
エト姫の新作動画を諦め、泣く泣く俺は巨大ロボ、ゲーティアに登頂するために間近にあるヤシっぽい木に登った。
体重が軽いため、大人の俺なら大分苦労するところをスイスイ登っていける。
やっぱ幼女ボディーの効率は最高だな!
隠密行動スキルが効果を発揮しているとはいえ、流石に本体に取り付けばバレバレだろうし最短距離でコックピットまで行きたい。
この距離で機銃掃射とかされると流石に避けるのが辛いので……。
なので、木から飛び移って移動するつもりなのだ。
【視界拡張】を起動すると、後ろにモンスターの群れと戦うエト姫たちが見えた。観戦したいという誘惑に負けそうになりながらヤシの木から巨大ロボの胸部パーツに飛び移る。素早さカンストさせといてよかったなあ……。
ここからコックピットは5メートルほどである。流石に自分自身に攻撃はできないのか、まだ起動し終わらないためなのか、耳をつんざくような俺への警告メッセージが爆音で流れるだけである。
『警告します! 公務執行妨害は懲役三十五年五十万ルードの罰金に処せられる重罪です! ただちに機体から離脱してください!』
うーん、何かすごそうだけど知らん国の金銭だから全然実感わかないな。急いでコックピットに入ってしまおう。
コックピットの入口には厳重な扉があり、黒いパネルの下に知らない文字でこう書かれていた。『パスワードを入力してください』もちろん解るはずがない。
「インテ、パスワードわかる?!」
インテは俺に言われるまでもなく様々なパターンの入力をしているが、全部エラーが出る。
「うーん、公共物管理用のパスワードを片っ端から入れてるけど受け付けません! 姫様助けてくださーい!」
『十五年離れてたし誰とも同期してないから最新のパスワードなんてわからないよ、ファビエ知ってる?!』
『僕はただの王子ですよ、現場のことはわかりません!』
マジかよ、このまま特等席で巨大ロボが起動して島の住人を踏みにじっていくのを見るのだけは絶対に嫌だ。
しかし、パスワードなんて俺が解るわけもない。そこで、俺はあの一回も使ったことのない謎のスキルに頼ることにした。
【神頼み】■を5消費して成功する可能性が1%以上あるスキルや攻撃の成功率を大幅に上昇させる。ってやつだ。
■が何かはわからないんだが、他にすがるものがない。謎の■が俺に消費するほどあるかもわからないのだが……。
「【神頼み】! 俺が何かをひらめきますように!」
俺は初めてスキル【神頼み】を使った。1%でも確率があるなら、何かを思い出せるはずだ。
俺はスキル成功の金色の光とともに、あることを思い出す。
あの神子二人は、ものすごく自己評価と承認欲求が高い。何かキーワードになるものがあれば……あの二人をつなぐ言葉がパスワードじゃないのか!?
「えーと、なんだっけ……あの二人の聖女に共通するものは……デフォ名前だ!」
しかし、思い出せそうで思い出せない。
すっげーありふれてるけど、どっちの世界にいてもおかしくない名前だった。
そんで、俺はそんなもんを使わずにチケンという名前でプレイしていたのだ。なのでさっぱり思い出せない、何だっけ、あの名前……!
そこに、懐かしい、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
『茅原さん、サラですよ! 蘇芳が漢字で沙羅双樹の沙羅、ローレンツェンがカタカナでサラです!』
「えっ、なんで吉田さんが?!」
『早く試してみてください!』
「インテ頼む!」
しかし、駄目だった。流石に短すぎるか。じゃあ、何かを足すはずだ……。
俺はふとかーちゃんが使っていたパスワードを思い出した。(かーちゃんはモニターにパスワードのメモを貼り付ける人種だった)
かーちゃんはペットの名前に形容詞を付けて『MASYUMARO@KAWAII』ってパスワードにしていた。ちなみに、ソーシャルハッキングにさえ遭わなければこのパスワード強度は結構高い。
あの二人なら、きっとパスワードを自己表現の言葉にするような気がする……。
俺は思考を巡らす。パスワードにできる程度の長さで、”サラ”を含み、自己評価の高さを表すようなパスワード……。
ゲームのWikiでみた主人公の説明文を思い出した。
どちらも主人公の説明に『親しみやすい笑顔だが、時に陰のある神々しい美しさを見せる少女』と書かれていたのだ。
「――――インテ、こっちの言葉で『神々しく美しいサラ』か『美しく神々しいサラ』って入力してみてくれ」
「えっ!? そんな恥ずかしいパスワード存在するんですか?!」
インテが動揺しながらも現地の文字で『神々しく美しいサラ』、と打ち込むとコックピットはオープンした。マジかよ。インテもドン引きしている。
あの二人本当に自分のこと好きすぎだろ……。気持ち悪さを超えて恐怖すら覚える。
衝撃の余韻が残る中、時間がないのでサクッと中にはいった。
コックピットのコントロールパネルは複雑で全然解らなかったが、インテが光学標識で押すべきボタンを指示してくれる。コックピットに人がいる場合、人間が操作しないと動作しないようになっているのだそうだ。
「えーっと、ここ押して、ここ押して……そしてここ?」
「はい! 最後にこちらを!」
インテの指示通りにボタンを押すと、電子音が鳴りアナウンスが流れた。
『公務執行シークエンス、終了します。任務お疲れ様でした。起動レポートは自動的に作成され、本部に送信されます――――』
ピーッという音がして起動シークエンスが強制終了され、立ち上がろうとしていたロボは膝をつき、動作を停止した。
これであとはエト姫達に任せればどうにかしてくれるだろう。しかし、コックピットかっこいいな。記念に写真を撮ってSNSにアップしたいくらいだ。
「エト姫、そっちどう? こっちは終わったよ」
『うんうん、いま八割くらい倒したところ。あとの残りは部下にやらせとく!』
「部下来てるんだ?!」
俺は驚き、コクピットから飛び降りた。軽減障壁のお陰で着地のダメージはほとんどない。着地すると、そこにはグリセルダとおタヒが笑顔で立っていた。
「チケン、やるじゃない! 褒めて遣わすわ!」
「うむ、誠に素晴らしき働きだ。偉いぞ」
おタヒが俺に飛びついてきて倒れそうになるが、それをグリセルダが支えてくれた。おっさんボディーなら余裕で受け止められるんだけどなー、と思っているとグリセルダは俺を抱き上げ頭を撫でる。
嬉しいけど恥ずかしい。一向に慣れないな、これ。
「子供扱いするなよ、俺はおっさんなんだぞ!」
「子供扱いしているつもりはないが……目線が遠いのでな。嫌か?」
「嫌じゃないですけど……」
「ならば良い」
その返事にグリセルダは満足そうに頷いた。こんなお姉さんに俺が逆らえるわけないんだよ。悔しいけど嬉しい、3%ほど含まれる程よい屈辱感に脳が破壊されそうだ。
戦闘明けで血の匂いとかしてそうなのに、何かめちゃいい匂いする。助けて。
深呼吸したら怪しまれそうだけど深呼吸したい!
「……と、ところで、吉田さんが来てるみたいなんだけど、どこに?」
なんとか冷静さを取り戻し質問すると、グリセルダが指差す方向に、巨大な剣を持って無双している誰かと、それにバフを掛けている誰かと、何か見覚えのあるシルエットの人と、エト姫に頭を下げまくっている人がいた。知らない人もいる。
あれ? なんかポニテの人が社長に土下座してる。誰だろう。
それに、なんか黒いモヤの人がいっぱいいる。まさか、マウ族の人になにかあったんだろうか……。
「チケン、何か客が来てるらしいわ。ほら、あの声だけで色々喋ってた四方達とか」
「えっ、本当に?! 地球から来たのか……?」
だって本体だと言う体とともに、三人は自分の予備を全部地球においていたはずだ。
俺は訝しみながらグリセルダの腕に抱かれてエト姫一行のいる場所に移動することにした。




