第152話 バ美肉おじさんズ
会場に立てられた櫓の中に、神子が二人並んで立っている。
「それでは、皆々様」
「審判の時間でございます」
マウ族の人々がひれ伏し、俺達も一応同じように行動だけ真似る。
「今年は皆様良く働かれました」
「去年よりも良く頑張りましたね」
神子の言葉に胸を撫で下ろすマウ族達。
「しかし」
「神は申されております」
空気がざわつく。明らかに悪いパターンだもんな……。
皆が面を上げ、神子の顔をじっと眺める。そして、厳しい顔で社長も二人を見つめていた。
「まだ贖いは足りていないと」
「十人の人柱を神は望んでおいでです」
神子は静かに言い放ち、すると、マウ族の人々に嘆きの声があがる。
「そんな! 先月の倍は頑張ったマウ!」
「前回も五人生贄に捧げたマウ!」
そんな村人の声は神子には届かなかった。
「生贄になった人は、今は神の国で皆さまを見守っておいでです」
「ですので、安心して贄をお出しください」
「自主的に贄を出した家には神の祝福を賜るでしょう」
誰も神子の言うことを疑わない。でも、受け入れられもしない。
この小さな村だけで生まれ育って暮らしていると、別の世界があることや別の考えがあることに気が付かないのかもしれない。
かと言って、今の俺は何もできず、何も言えない。心苦しい。
(姉上、少しいいですか)
(ん? ファビエどうした?)
(あの女二人、ヴェレルの副運用体です。先程見て確信しました)
副運用体ってサブとメインとかいうやつだよな。吉田さんとか清野さんがいっぱい作ってたやつ……。自分以外を作るのは法律で禁止されてるってやつだ。
おっさんが美少女になったって、要するに、バ美肉おじさんだよな……。
俺はあんまり興味ないけど、そうなりたいって人はいるよな。テオネリアの技術だとガチでバ美肉できるんだなぁ……。
バーチャルかどうかは議論の余地があるとは思うが。
俺も人のことは言えないか。俺もバ美肉おじさんっぽい何かだ……。
でもどういうことだ? あのバ美肉おじさんはどうやってグリセルダとおタヒを殺し、周回プレイをしたんだ?
(え、ヴェレルなの?! 全然顔違うじゃないか! 法律は?!)
(地球での活動用に作っていたやつです。僕は一回地球で会社を作る時に会ったことがあります)
さすがのエト姫も大慌てしている。
(関係ないわけないじゃないか! なんでその時に私に通報しない?!)
(そもそも姉上、メインはダンジョンにこもりきりだし、サブも別の星にいってるし、じいやも同じくでどうやって通報しろと言うんですか。そんな重要な情報流石に面識の無い人に言えませんよ)
ファビエは正論で殴っていた。エト姫を殴るには正論に限るんだな……勉強になる。
(うっ、確かにそうなんだけど……でもお前だって地球に勝手に来てるし)
(エトワール、今のことを考えよ。村民たちが困り果てているぞ)
(エトワールってやっぱりアホなのかしら……そんなことより、あの可愛いネズミちゃん達どうするのよ)
(そういや、さっきエト姫言ってたよな、俺が大臣に選ばれたのが都合いいって)
もしかすると、それが利用できるかも知れない。
(そう! 外宇宙の、テオネリア圏外の人間に危害を加えることは法律で禁止されているんだ。だから、大臣が茅原氏に手を出した時点であいつは重罪犯決定だよ!)
(あら、じゃあ、チケンと私、グリセルダで名乗りを上げればいいでしょう? 私達は他の国の人間だもの)
おタヒは覚悟が決まってんなあ……。俺は思っててもちょっと躊躇したんだ。
(よーし、三人で行くか!)
(よかろう、面白くなってきた。あの女に近づくチャンスにもなろうな)
(呪符いっぱい使っちゃお! 牛頭くんも準備しておいてね!)
(にょわ!)
俺は覚悟を決め立ち上がって手を上げた。
「はーい、じゃあ俺生贄になりまーす!」
「私もやるわ!」
少し遅れてグリセルダも到着する。
「私も生贄とやらに興味がある。まさか後出しで拒否などするまいな?」
神子は祭壇から立ち上がった。その様子を見て、マウ族の人々もお客様もざわざわし始めている。
「お客様がなんでマウ?!」
「お客様じゃなかったマウ?!」
「昨日祟り神を倒してくれたお客様が何故マウ?!」
マウ族の人は、まさか部外者が名乗り出るとは思っていなかったのだろう。
「お前達は……!」
「もっと上の層で野垂れ死にしていたはずじゃ……!」
神子達の顔色が悪い。明らかにグリセルダとおタヒを見てビビっている。
「久しいわね、蘇芳郎女。この斎王の顔を忘れてないわよね?」
「久しいな、光の愛し子にしてライトナーの養女。お前の主の顔、まさか忘れておるまいな?」
グリセルダはいつの間にか普段の軍服に着替えを済ませて剣を携えている。
おタヒもいつもの白絹の斎王装束に身を包み、手には杖を持ち、もう片方の手に呪符を持つ。そして、雷公、風伯、牛頭くんの三式神が戦闘態勢を整えていた。
もう気温がどうとかそういう次元ではなかった。
とは言え、俺は女児ワンピースのままです。メイン装備はステータスなので……。装備は飾りなので……。
俺もかっこいい戦闘服欲しいな。
「くっ……いいでしょう! 神子の実力を!」
「思い知らせてあげましょう!」
神子は口を揃えて叫ぶ。
「お前たちの小賢しい力など全て粉砕してくれる!」
二人はおどろおどろしい表情で、全力で魔力を練り上げている。魔力の強さに、空間が陽炎のように歪んでおり、数名のお客様が地面に盛大に食べたものを吐き戻していた。
俺は、おそらくインテのおかげで無事である。あとで褒めちぎろう。
「エト姫! 村の人々を避難させてくれ!」
「任された! 【集合】! 【退避】!」
エト姫なんか随分便利なスキル持ってんなあ。マウ族の人々は困惑しながら一定の方向に揃って駆け出していった。多分、魔力抵抗がない人にしか効かないんだろうけど。
残されたのは俺達とお客様、そして神子であり、乙女ゲーのヒロインであり、バ美肉おじさんヴェレルである。
「久しいな、ヴェレル、そして大臣他自称貴族上流階級の諸君、私の顔、覚えているかなー?」
楽しげに現れたエト姫。もちろんわかりやすく制服だ。驚愕し、ざわつく神子とお客様。
そりゃー、国民のアイドルエト姫がいきなり現れて、自分たちを犯罪者扱いしてくるのだ。驚くだろうな。
「エトワール姫! お前、フィンに殺されたはずでは!?」
「フィン? 誰だそれは」
「ファビエを食い尽くした男だ!」
「ファビエならここに居るが~?」
そういってエト姫はファビエ社長をつまみ上げた。
「この駄目姉、離せ! ヴェレル、僕の残りの体、返してもらうぞ!」
地面に飛び降りてファビエ社長が怒りながら言う。うーん、可愛い。可愛すぎる。正義のヒロインの風格がある……!
神子はそれを見て驚いていた。よほど社長を殺したことに自信があったんだろう。
そして、場に残ったのは星間司法庁チームと、チーム犯罪者のどちらかだけになった。
しかし、ふと神子が疑問そうな顔をして俺を見る。
「そのピンクの仔ネズミは何処からわいてきたの?」
「何も聞いてないわ。テストプレイヤーは全滅したと聞いているし……というか、全滅するような装備しか渡していないはずだし……」
俺に注目が集まる。俺のことを知ってる人間なんているわけがない。
王太子妃。お姫様にお姫様と王子さま。
お客様も皆金持ちで、大臣や上級国民がぞろぞろいるんだろう。そんな中にいる、無職三十代バ美肉おじさん俺。
大変いたたまれない。しかし、三人にとってはそうじゃないらしい。
「星間司法庁の優秀なエージェントだ! 今入庁が決まった!」
「違うわ、私の侍女よ! ゆくゆくは尚侍にするの!」
「いや、我が宮廷の有能な料理人、もしくは私の側仕えだ。次代の侍従長にするのもアリだ」
皆適当なことを言っている。面白いけど、誰も正しいことを言っていない。
「全部ウソです! 信じないでください! 俺はただの一般市民です!」
ファビエ社長だけが俺を憐れむような顔で見てくれた。
ありがとうございます、ご褒美です。
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すみません投稿ミスしてました!見なかったことにしてください(号泣)




