第150話 舐められるチケン
「かわいいねえ……すぐ終わるから暴れちゃ駄目だよ……ヒヒヒ」
大臣はゆっくりと俺の足を口元に近づけて舐め始めた。
足フェチなのかよ……。
しかし最悪だ。足の指をしゃぶるな! 指の間に舌を入れるな! 生温い舌を絡めるな!
足先だけなのに思ったよりも精神ダメージがでかい。覚悟はしていたが予想以上だ……。
いい大人だけど泣きそう。つらい。
俺が気持ち悪さにのたうち回る様子を見て、大臣はますます興奮している……。
(ぎもぢわる゙いいいいい!)
(姉上! さすがにもうこれ以上は!)
(駄目だ、やはり私自ら手討ちにしてくる!)
(私も今行くわ! 待っててチケン!)
「もう我慢できません! 証拠も充分と判断します! 天誅!」
インテが俺愛用の睡眠毒付きナイフを大臣に発射。一瞬で大臣は泡を吹いて昏倒した。た、助かったぁ……。
「インテ、お前本当に最高のカバンだよ……!」
「チケン様ご無事ですか?!」
「一応体は……」
心は致命傷である。
それと同時に、ファビエ社長が近寄って声をかけてくれる。
「チケン君大丈夫ですか?!」
社長は心配そうな顔で手を握ってくれた。
やめてくれ、俺社長のこと好きになっちゃう! 心の傷が一瞬で三割ほど回復した気がした。
「だ、大丈夫です……多分……」
「よかった……姉上、チケン君に浄化スキルをかけても?」
と言った瞬間三人が血相変えて飛び込んできた。
「チケンは無事!?」
「大丈夫か?!」
「ファビエちょっと待って! 茅原氏、済まないけど証拠保全させてくれ!」
エト姫は俺の足についた唾液をなにかのキットで拭い取り、カバンに放り込んだ。
「ファビエ頼む」
「【浄化】!」
一瞬で俺の足のぬめりと気持ち悪さが消え、元のすべすべの足を取り戻した。しかし、感触の記憶まで消えたわけではない。やっぱり辛い……。
「エト姫……俺の犠牲を絶対無駄にしないでくれよな……」
「任せてくれ、とりあえず大臣に偽の記憶を植え付ける薬を投与して離れよう」
その薬を投与されると目覚めたときに自分がやろうと思っていたことを夢に見て高確率で現実だと錯覚するらしい。
なるほどなあ。確かに急に俺たちがいなくなったら疑問に思って騒ぎになるよな。
エト姫は大臣から幾つか証拠のアイテムを回収し、とりあえず俺たちは静かにその場を離れた。
「チケン、無事か!? 何か他にされたりは? あの豚はあとで屠殺して犬の餌でもにしよう」
「大丈夫だよ、まあちょっとっていうか、すごく気持ち悪かったけど……」
グリセルダは心から安心した顔で跪き俺を抱きしめる。
というかそんなの食べさせられても犬がかわいそうだ。絶対骨とかドッグフードのほうがいいだろ。
「チケンが穢されなくてよかった! 安心して、この豚は私が生きながらに焼き殺してあげるから!」
「おタヒもありがとうな。でもそいつはエト姫に任せよう、俺たちの仕事じゃない」
二人は俺を挟むように抱きしめて、優しくも怖いことを言う。でも、それも俺への思いやりから来た言葉だ。だから過激だが、強く否定はしない。
ほんの少しだけ先ほどの気持ち悪さを忘れ、俺は二人の温かな体温に癒された。
だが、まだ何も終わっていない。
「エト姫、俺と同じ目に遭ってる村人がまだいるんじゃないのか?」
「そうだった、昨日村中に忍び込んで国勢調査するついでに監視カメラ置いたんだよ! 今チェックする!」
数分後。
「三人いた! ここから近い、ちょっと茅原氏とインテ、隠密行動で行ってくれ。方法はさっきと同じで、両方とも意識を奪ってきてくれ」
「了解。じゃあ行くか、インテ」
「はい、チケン様!」
俺が走り出すと後ろから騒ぎが聞こえてくる。
「エトワール! チケンをもっと労りなさいよ、自分でやりなさいよね! あとあなたの弟も危なかったのに何なの? 守護職の意識あるの?!」
「その通りだエトワール、なぜお前が行かない。靴だって舐められるのだから豚共の相手もお前でよかろう?」
二人は大変な勢いでエト姫にキレていた。
「隠密行動はレアスキルなんだ、だから茅原氏に頼んでいる。スキルホルダーの私でも持ってない希少スキルなんだよ。この場で村人を穏便に保護できるのは茅原氏だけなんだよ、許してくれ!」
仲裁は後回しにしよう。俺は走りつつインテに質問する。
「スキルホルダーって何?」
「スキル72種を取得した人間に贈られる称号でございます。テオネリアには千人も居りません。姫様は更に上位の144種取得したダブルホルダーでございますね」
やっぱエト姫すっげえな。これでもうちょっとだけ常識を持ってくれれば最高なんだが……。
インテ経由でエト姫の指示した場所に向かって窓から中を覗き込むと、半裸にされたうさ耳の少年をじっくり眺めてカメラっぽいもので撮影している女性の姿があった。少年は半べそだった。
女だろうが男だろうが、変質者はやっぱ気持ち悪いな……。
(エト姫、これは明らかに法律的にアレでは)
(あー、これは法令違反だね。それ以上エスカレートする前に二人共やっちゃって)
俺は空いていた窓から堂々と侵入し(【隠密行動】があるので)、まずうさ耳少年を気絶させてから女性を気絶させた。インテがカメラから証拠映像を回収しているうちに、脱がされた服を軽く着せて次の被害者にも同じことをする。
証拠はエト姫が追加で回収してくれるらしいので、被害者の手当は後続に任せた。一応、怪我もないがしばらく眠ったままでいてもらう。
寝ている間に法務官と裁判官しか使えないスキル【記憶操作】でこの数時間の記憶を消去、もしくは封印するらしい。
「そうね、こんな記憶ない方がいいわね……」
「エトワール、本当にどうにかするのだろうな?」
「お疲れ様茅原氏。もちろんだとも、もう少しで助っ人も到着するはずだ……」
「えっ、誰か来るんだ!?」
「ルートがわかったからね。近場に部下を待機させていたから、祭りが終わって延命薬の取引の現場を直接押さえて最大の成果を上げる」
しかし、グリセルダとおタヒは不満そうだった。
「でも刑務所ってこの迷宮みたいな場所なのでしょう? 全然更正にも罰にもならないじゃない。正直楽しいもの」
「だからこの刑務所は廃止されたんだ。今はもっと厳しい施設だね。それに、君たちは王族や上流貴族の生活を知ってるだろう?」
エト姫は二人に納得させるために考えながら喋っているようだ。
法治国家の住人と、力こそパワーの国の住人では話を合わせるのも大変だとは思う。
「知っているが、だからどうした」
「あいつらは公の場で、全国民に配信ありで、自分の現行犯を証拠付きで裁かれるんだよ。君たちならそれがどれだけ致命的で苦しい罰か解るだろ」
グリセルダとおタヒは納得した。確かにあの画像が全国放映されるのはあまりにやべえな。名誉なんか一発で粉砕されるだろう。
頼むからその時は俺の顔にはモザイクを入れて欲しい。
「まず名誉を消し去るのか。確かにそれは良い罰だな! その後さらに重い処罰があると更に良いが」
「それなら納得だわ! 誉れを捨てた殿上人は地に落ち物を乞うて生きるのが筋だもの!」
うーん、この二人怒らせるとやっぱり怖いなあ……。
俺がしみじみしていると、村中に響くような大きな太鼓の音が鳴る。
「そろそろ本祭が始まるようだ。おタヒ氏と茅原氏、様子を見てきてくれないか?」
「社長はどうするんだ?」
「僕も行こうか、回復スキルなら自信がある。……あと、確認したいことがある」
このパーティーあんまり回復いなかったから社長の存在は心強いな。
急いで俺達は本祭が行われる浜辺へと向かうことにした。




