第146話 靴を舐める姫君
「で、祭りまでどうすんの?」
後ろで汗だくになったファビエ社長がスキル【複製】をし続ける地獄を尻目に、俺達は打ち合わせを始める。
何も手伝えなくて申し訳がないが頑張ってほしい……。
「茅原氏、【隠密行動】使えるんだっけ? 持続時間何分くらい? あとうちに入庁しない?」
「使える。30分かなあ。おタヒが【ターン延長】使えるから最大15倍まで伸びる」
「えっ、おタヒ氏【ターン延長】使えるのか! どうかな、星間司法庁に就職などは考えてみないかい? 福利厚生と給与には自信があるよ!」
すごい、どこに行っても勧誘しまくってる。
「嫌よ、なんで宮仕えなんかするのよ。私のような高貴な身分の者が下々にかしずくわけないじゃない」
「いやー、私も第三王女、第一と第二はもう降嫁したから私が実質第一王女だ。君がうちに就職してくれるなら、臣下の礼として土下座の末靴くらい舐めてもいいが!?」
すげーな、エト姫が本当に目的のためなら手段を選ばなすぎる。おタヒがそうしろと言うなら比喩でなく靴くらい余裕で舐めそうだ。
「嫌よ! 私の沓は漆塗りで細工がついてるのよ、舐めたら汚れるし細工が剥がれるじゃない!」
「そっかー、残念……気が変わったらいつでも声をかけてくれ!」
その様子を後ろで箱を増やしつつ、ファビエ社長がすごく嫌そうな顔で見ていた。姉の悲惨な行動を見せつけられて可哀想に……。
しかし、エト姫はそれを見てもなお全然意に介した様子を見せない。このくらいメンタルが強くなければ偉い人というのはやっていけないのだろうか。
さすが俺の推し……自由で最高だぜ……。
でも俺はどっちかというと、靴を舐めたい方だ。実際に舐めるかどうかはともかくとして。
「で、俺は【隠密行動】で何をすればいいんだ?」
「昨日君たちが寝てる間に、このフロア中走り回って怪しいポイント見つけておいたから、そこに潜伏して現れた”お客様”とやらが出現した後、退路をこっそり絶って欲しい。頼めるかな?」
「それはいいけど、ちゃんと服を着て走り回ったんだろうな?」
「いや? 起きたときの格好そのままで走ってきた。誰もいなかったから大丈夫だったとも!」
ファビエ社長が衝撃で手を止めて口をポカーンと開けていた。何故なら起きたときの格好というのは、下着姿だったからである。
次から次へと衝撃の事実が明らかになって可哀想度が増していく……。
「で、その後は?」
「祭りというものがどう行われるかわからないしね、まずどんな犯罪が行われるのかを調べなくてはいけない。そして、現行犯で取り押さたいしねえ」
「なるほどな、では我らも祭りの一般参加者を装うということか?」
「いいわね、楽しそう! 私チケンと揃いの帽子にするわ!」
おタヒはこういうの好きそうだもんな。お祭りの時しかできない浮かれた格好ってあるよな。良くわからん光る剣とか、謎のお面とか。俺の耳付き帽子も例のテーマパークっぽくて浮かれてる。
結果、”お客様”の退路を断ちつつ、かろうじて現地民のフリができそうな俺とファビエ社長とおタヒは祭りに参加。エト姫とグリセルダは俺達の様子を遠隔で監視しつつ突撃してくるらしい。エト姫は面が割れすぎているしな……。
国民のアイドルにしてシゴデキプリンセス、それがエト姫の表の顔だ。
実際は……さておくとして……。
ファビエ社長はそれをげっそりとした様子で聞いていた。
「……まだ他に仕事があるのか、僕は荒事なんて何もできないぞ!」
「うん、それでもやってもらう! それもお前が法令違反をしたせいだぞ! 贖罪しろ、贖罪。徳を積め!」
「今すぐ死んで罪を贖えばいいかな?」
「ハハハハ! 可愛いお前が死んだら私が悲しむぞ!」
「姉上が悲しむ顔は見たいな、死ぬか」
「いや、社長。俺が悲しいんで俺に免じて生きてくれ……」
その様子を見ているグリセルダとおタヒ。
「うーむ、こうしているとまるでチケンとファビエは姉妹のようだな」
「水色と桃色の髪でなんか可愛いわよね」
「服も揃いのようで良いな……もっと良い服を着せたくなる」
「わかるわ……見栄えのいい侍女っていつも側においておきたくなるのよね」
こいつらも酷い。俺と社長のことをなんだと思ってるんだ……。
俺は社長のことをメテクエの創造神と思って崇めているだけなので、変な想像はしないで欲しい。
ただTSした社長が可愛いのは確かにそう。メテクエ2があったらミラクル☆ファビィは実装してほしいな……。天井まで引きたい。
「そういう事言うならお前らだって俺のためにもっと薄着をしてくれてもいいんだぞ!」
「エトワールと我等の露出度を足して二で割ればお前の希望の数値になるであろう、それで我慢せよ」
「エトワールみたいな格好できるわけ無いでしょ!」
「あんな格好しろとか一言も言ってねえよ!」
「私の格好の何が悪いと言うんだ、茅原氏」
「センスが最悪なところだよ!」
そんなしょうもない話をしているうちに予定していた時刻になった。
なんとかファビエ社長は二十五個の犯罪者収容ボックスを複製し、疲れ切った顔で目に隈ができていた。エト姫が回復スキルをかけていたが、全快はしなかったようだ。
スキルも万能じゃないんだな……。
おタヒは死にそうな顔のファビエ社長を牛頭くんに乗せて祭りの会場に向かい、エト姫とグリセルダは有事に備え祭りの会場付近の物陰に潜む。
そして俺とインテは隠密行動を取り、エト姫調べの怪しい場所……要するに、昨日の祠の周辺に隠れた。
午後四時近くになると、村人が集まって祠の近辺のまだ残っていた岩を苦労して横にのける。すると、祠の中にはシェルターの扉のようなものがあった。
機械の動く大きな音が地面の奥底から聞こえる。下層から何かが運ばれてきているようだ。
正装らしき服を着た長老以下の数名の村人が、シェルターの扉の前に跪き礼拝をする。
後ろに控える村人数名が、金属製の楽器を鳴らし、太鼓を叩く。
本格的な行事っぽくて見ていて緊張するが、それ以上に何が出てくるのかわからない。音楽が鳴り止むと、カーンと高い鐘を鳴らすような音がして、同時に扉が開いた。
扉からまだ明るいこの時間ですら更に眩しい、太陽のような光が放たれて、一瞬目が眩む。そして、中から厳かな歌声とともに飛び出してきたのは、例の犯罪者収容ボックスの群れだった。
ボックスの群れは祠の上空に滞空する。数えてみると、ボックスは30個ほどで、最後に現れたのは箱ではなく二人の少女だった。
金髪の西洋風の聖女のような服の少女と、黒髪の和風の巫女のような少女。
二人共、どこかで見た顔だ。ただ、グリセルダやおタヒのように強い顔はしていない。穏やかで華奢で、一般受けしそうな顔だ。
一瞬、金髪の少女と目があった気がした。まだ【隠密行動】は有効なはずだから、気のせいだろう。気のせいだと思いたい。
案の定、金髪の少女と黒髪の少女は俺には目もくれない。よかった、気のせいだった。
「さあ、皆の者」
「準備は整いましたか?」
二人が厳かに問うと、長老はひたすら平伏したまま応える。
「整いましてございますマウ」
二人は満足そうに頷く。
「では」
「参りましょうか」
ふわりと二人は空を飛び、村の中心部へと向かっていく。その後を、ゆっくりと犯罪者収容ボックスが空を飛んで追いかけていき、それを更にマウ族の人々が追った。
さて……そろそろ俺の仕事の時間だな。




