第145話 俺とTS幼女とティーパーティー
ドアをノックしていたのはクリームちゃんだった。
「おはようございます! お召し物を届けに来たマウ!」
「おはようクリームちゃん!」
「ご注文の品マウ! 合わないところがないか試着お願いしますマウ!」
「早朝よりの出仕、ご苦労です。今試着しますので少しお待ちください」
ファビエ社長が物陰で着替えようとしたが、中々出てこない。
「チケン君、ちょっといいかな!」
「ほいほい」
中に行くと、後ろ開きのワンピースを着るのに苦戦していた。幸いファスナーだったのでさっと上に引き上げた。何か難しい服じゃなくてよかった……。
「助かった、感謝する……どうも他の皆さんは女性だから気が引けてね」
「どういたしまして」
すごい、あのエト姫の弟と思えないほど常識的だ。それともTS幼女同士親近感を感じてくれているのだろうか……。
「仕立て屋さん、どうかな?」
ファビエ社長はお嬢様の夏のお出かけと言わんばかりの、淡い水色の半袖のワンピースにやはり尻尾とネズ耳の麦わら帽子が着いている。
この辺の子供服の定番なのかも知れないな。くるりと一周回ったがその所作も大変優雅である。
「お似合いマウ! きついところや動きにくいところはありませんマウ?」
「不具合は無いようだ。良く仕立てられていて素晴らしいよ。礼をいう」
「喜んでいただけてよかったマウ~! では今日はお祭りだから楽しんでいって欲しいマウ!」
そう言ってクリームちゃんは去っていった。尻尾がフリフリ揺れていて、可愛かった。
「さて、ファビエ、労働の時間だよ」
「何だ今度は!」
エト姫がハンドバッグから出してきたのは、あの犯罪者収容ボックスだった。
「ん? 収まれば良いのか? それなら普通に言えば入るが。むしろ喜んで入るが」
「違う違う! これ二十か三十個くらい【複製】して! 参加者のかなり多くを逮捕しないといけない可能性がある。インテと私の手持ちのボックスだけでは足りない。後でパテント使用料とかそう言うのは払っておくからじゃんじゃん増やしてくれ!」
ファビエ社長はがっくりと床に座り込んだ。すっかり涙目になっている。可愛い。
「こんな複雑な機械この体で【複製】してたらいくらMPがあっても足りるか! その足りない頭でも掛け算位はまだできるだろう!?」
あ、やっぱ【複製】って高難易度スキルなんだ……。
「だからこそ贖罪足り得るんだろ。MPが尽きるまでやれ」
「あ、これ握ってやると良いわよ。後で返してね、チケンのだから」
「じいやの杖か……心遣い感謝する……」
おタヒが杖を差し出した。あの、握ってるだけでMPが回復していくとんでも性能の杖だ。すると、グリセルダもファビエ社長に何かを差し出した。
「これを使うが良い。魔石だ」
小さな魔石を数個手渡していた。魔石は%単位で回復を行うため、MP容量の大きい人間ほど恩恵はでかい。多分ファビエ社長のMPは、あの姿になってもかなりあるはずだ。
「気遣いに感謝……する……」
「うんうん、いい心がけだねえ、ファビエ」
逃げ道を塞いだ二人にそれでも礼を失さなかったのは、さすがファビエ社長と言うべきだろうか。
MPがあるから、といってホイホイ高難易度のスキルを何回も使用できるかと言うと実はそうでもない。
MPの大量使用にも負担はかかる。百メートルを十秒で走れる人間がいたとして、最大HPが高くても一日何回それを再現できるか、というような感じだ。
消費三十倍エリアでおタヒが死にかけていたのもそれが理由だろう。
そんな行為を犯罪容疑があるとはいえ大量にやらせるのだからエト姫には人の心がない。
素晴らしいが悔しい、その矛先は俺に向けてほしかったのに……!
きれいなお姉さんに無茶振りされるなんてなんてご褒美なんだ……!
とはいえ、ファビエ社長には降って湧いた災難だろうな。替わってあげたいが俺にはそのスキルがない……。無念だ。
「ちなみにあの箱一個【複製】するのにMPどのくらい必要なんです?」
「……多分三百位だな。僕の今のMPだと十個も作ればMPが枯れる……まあ……やるが……」
「午後三時までに頼むよファビエ~」
「うるさい、口を開くな。お前が喋るだけで僕のMPが減る」
「ひどいなー、お前のためを思って業務を斡旋してるのに」
そんなちびっこになってもMP3000あるんだ……。すげえな。フルスペックの社長のMPどんだけあるんだろ。
「よし一個目行くぞ……【複製】!」
見本となった箱の横に、全く同じ箱が現れる。ただそれだけなのだが、神にも等しいスキルに見える……。
こんなスキルが地球にあったらありとあらゆる経済が崩壊しかねない……。札束なんて一瞬で複製できるだろうしな。
一個目からファビエ社長の息が荒い。600使ってたおタヒが息が上がってたから、そういうものなんだろうな。四つ目くらいで力尽きて、床にへたり込んで休憩していた。
増えた箱はインテとエト姫のハンドバッグの中に分けて収納していく。
グリセルダに頼んでお茶を入れてもらい、俺はインテからヴィルステッド村でもらった美味しいアフタヌーンティーのお菓子を取り出した。
「社長、少し休憩しなよ。美味しいモノ食べると少し元気が出るから。グリセルダのお茶も美味しいしな!」
「……姉上、これは僕が食べて良いものなのか?」
「お前が食べないなら私がもらうが?」
「僕が頂こう」
ついでに俺達もお茶にすることにした。エト姫は入れ違いでインテ越しに何か連絡しているようだ。
「あっ、これあの村で貰ったお菓子ね! この茶色い菓子美味しいのよ!」
「その菓子は茶に合うのだ。チケン、これをお前が作れるようにはならないのか?」
「無理言うなよ! レシピがあれば再現できるかもしれんけど」
俺達の会話を横に無言で真剣に食べるファビエ社長。まずいから真顔ではなく美味しいから真剣に食べているパターンの気がする。
「普段、食事は本星から持ち込んだ栄養食だったのだが、これは複雑な味がするのだな……うん、美味だ」
「美味いんだそれ。エト姫にとられないように今食っちまおうと思って」
だってエト姫がいたら絶対に一人で完食してもおかしくない……。
「なるほど、こちらの飲食物にあの愚姉が執着するわけだ……この茶も美味だな。菓子を引き立てるような味と香りで人を楽しませ、かつ調和している。手のかかった素晴らしいもてなしだ。僕のようなものには過分ではあるが、有り難く頂かせてもらった。これで少しは作業も捗りそうだ、感謝する」
水色の髪の幼女がにこやかな笑顔を浮かべて、一礼する。俺は社長にときめいてしまう。余りにも上品すぎる……これぞメテクエのファビエだよ……! しかも幼女の姿!
グリセルダもおタヒも、自分のおすすめやお茶が褒められて微妙に嬉しそうだった。
二人は俺の方も見て、社長も見て、それから笑みを浮かべていた。理由はわからないが……。
エト姫がひとしきり打ち合わせが終わったとき、ヴィルステッド村でもらったお菓子のストックが全部つきた。少し惜しいが、食べ物は食べてこそだからな。
「私の分は?!」
悲しいエト姫の叫びでティーパーティーはちょうど終わった。
「僕は作業に戻るかな」
「私は剣の手入れを」
「私は新しい符でも書くわ」
誰もエト姫の悲しい叫びに耳を貸さなかった。
「エト姫食い過ぎなんだよ、朝も朝飯に加えてレーションとモスマン食ってただろ……」
「ヤダーもっと食べたいー!」
「だから自制できるようになれって言ってるだろ……」
「だって美味しすぎるだろこれ!」
俺はため息を着いた。
「で、ファビエ社長は作業中だが、午後からどうするんだ? 何か作戦とかは?」
「ある! グリセルダ氏、おタヒ氏、ちょっと集まってもらっていいかな」
エト姫は一瞬で仕事に戻り打ち合わせモードの顔に戻った。
露出度と飯が絡まなければ有能なのになあ……。
昨日のあとがきに反応して絵文字を推してくれた皆様ありがとうございました!
いつもより多くて嬉しいです!
あとは番外編がいくつかあるんですが、これをどこに掲載するか悩んでいます……活動報告がいいかな?って思うんだけど、どうやってリンク貼ればいいんですかね……(困)




