第142話 休日の終わり
その後、俺達は昼飯を食ったり、水遊びをしたりして楽しく過ごした。二人の楽しそうな顔を見るだけで俺は大分満足した。
美少女二人のキャッキャウフフはとても目の健康に良いのだ。
恥を忍んで女児水着を着たかいもあった。
水遊びの戦利品で作ったシーフードパスタを食べ終わると、インテがかねてから頼んでいた案件を報告してくれた。
「チケン様、例のご実家からの荷物回収の件無事に成功したようですよ!」
「本当か、よかったー! 高額フィギュアとかもあるし、気が気じゃなくてな……」
でもエト姫の真の姿を知ってしまっている。
1/4エト姫フィギュアを俺は今後飾り続けられるのだろうか。もはや特級呪物といえなくもない……。
「エト姫は一日何をしてたんだ。俺からインテを奪ってまでする作業なのか?」
「うん、インテは必要だった。私一人じゃとても無理な作業でね」
何処まで本当か謎だが一応信じておこう。
「まあインテは超高級天才高機能バッグだからな、流石だなインテ」
「お褒め頂き嬉しいです! さすがチケン様私の価値をよくおわかりになっております!」
しかし、こんなに有能なのに今まで褒めてやる奴がいなかったんだろうか。不思議だ。俺だけはこれからも全力で褒めてやろう。
「じゃあ、作業の成果を見せるとしよう……【防音結界】【魔力結界】!」
エト姫がスキルを発動させると、部屋が光の壁で二重に包まれている。
「で、これが昨日捕獲したサンプルから分離した、主人格だったモノ、かな……」
エト姫はインテからジュースの缶ほどのガラス瓶に詰まった、まるで亡霊のような顔のある渦巻く流体を取り出した。
ガラスの外に出たいらしく、何度も何度もその何かは暴れてもがいているが、瓶の外にはなんの音も振動すらも与えていないようだった。
「で、これがサンプルから分離した副人格。コンタミネーション……要するに、汚染物質だね。この複数の魂の欠片が、主人格を汚染する事によって暴走が引き起こされていたんだ」
エト姫はいくつかのガラス瓶を並べた。主人格、と言われるものよりは体積が少なく、乳酸菌飲料ほどのサイズの瓶に人の顔のようなものが詰められていた。その小さな顔のいずれもが、外に出ようとあがいている。
「……これ、なあに。気持ちが悪いわ」
おタヒがストレートな感想を口にする。
それ、中の人達に聞こえてないといいんだけどな……。
「それについては部下に調査させといたんだ。ジュスティーヌ、全員に説明しろ」
『はい! 皆様お久しぶりです、スフォーでございます。手短に解説させていただきますと、この主人格は”アムブロシア”と言う名前で売り出された延命薬を飲んだ人の魂でございます』
四方さんが久々に出てきてくれたが、薬を飲んだらああなったって、医療事故にしても程がある。
「薬がなんでそんな事に?」
命を延ばすはずの薬で怪物になるなんて誰も思わないだろうな……。
『薬にはつきものなのですが……体質に合わなかった、薬に細胞が負けた、などが考えられますが、制作過程の粗雑さも要因の一つに挙げられると思います』
「コンタミっていってたな。アレだろ、食品業界とか医療とか半導体で、雑菌やゴミ、虫なんかが混ざって大問題になるやつ。俺の国でもたまにそう言う問題起きるよ」
俺は食品も医療も半導体もやってないけど、学校の同期でやってるやつがいてすごい神経質に手を洗ったりエアシャワーを浴びたり、防塵服を着たりで大変なんだそうだ。
『左様でございます。需要の増大につれ、延命薬の制作を効率的にしたといえば聞こえはいいのですが……雑になっていったらしく、このように元の人格の欠片が残ったまま投与した結果、人格の変容を引き起こしたようですね……』
「……つまり、それは元々誰かだった何かが混ざってしまった、ってことか」
『はい、その通りでございます』
「生贄のマウ族の人たちもその材料に?」
『……はい』
そこで俺は気がついてしまった。
「……もしかして、元の製法のまま丁寧に作っていれば、気が付かずにこれからも流通してる可能性もあった、ってこと?」
『残念ながら……』
重い沈黙が流れる。誰も口を開かなかった。
何を言えばいいのかすらわからなかった。
「――――よし、ジュスティーヌ、よく調べたし説明した。お勤めご苦労。残りの作業を頼むよ」
『はっ! エトワール様、皆様、無事のお帰りを心よりお祈りしております』
今度はちゃんと四方さんは怒られずに通信をできたようで良かった。俺がいない間に相当怒られたっぽいからな……。
おタヒは”副人格”のサンプルを厳しい顔で見つめる。
「これなんで人間の顔してるの?」
「ああ、魂の一番外の殻のような部分、そこが残っているんだろうね。自分が人間である、という気持ちが顔の形を取っているんだ」
「……こんな風になっても気持ちは人間なのね」
おタヒには珍しい暗い声だった。
「エトワール、このサンプル達はどうなるのだ?」
「人格があれば体はまた作れるんだが、ここまで破損しているとどうだろうな……。この副人格の方は被害者で間違いないだろうが破損しすぎているし、主人格の方はまだマシだが間接的な加害者だ。この手の犯罪は今まで殆どなかったから、本星に持って帰って審議しないといけないだろう」
エト姫らしい発言だった。
明文化されている限り彼女は自分の気持ちよりも法を優先する。
「エトワール、この者たちはいっそ殺してやったほうが楽になるではないのか?」
残酷だがサンプルをこれ以上苦しませたくない、という思いやりではあるのだろう。
自分が死ぬに死ねないという経験をしたことがあるからだろうな……。
「この状態で本人たちに決めさせてもまともな返答は返ってこないからねえ。まず、精神を正常にしてからだね」
「確かに、この様子だとまともな応答はできないであろうしな……しかし、治せるのか?」
「どうだろうね……私がサボってた十五年に医療がどれだけ進化したのかにもよるが、一件ずつなら時間をかければ不可能なレベルではないね。ただ、何件あるか……」
手作業でしかできない作業を大量生産並の数を行わなくてはいけない、としたら相当大変なことになる。
俺は会社でやったことがあり、地獄を見た。もう絶対やらねえ。
未来の世界といってもいいテオネリアでも多分きっと手作業でしかできないような精度の作業は存在するのだろう。
そしてそこでも選別が発生し、救われるものと救われないものに分かれるのかも知れない……。
明日開かれるという祭り。そして、おそらくある延命薬の取引、人身売買。
それを一体どうすればいいんだ。
こんなの俺がやるような仕事じゃないのは確かだ。
でも、手伝ったほうが後悔はしないだろうな……。
そんな事を思っているとエト姫が俺達に笑顔を向ける。
「さて、じゃあ紹介しようかな。私の新しい下僕だ。ほら、ご挨拶なさい」
エト姫が急に何かを言いだすと、物陰にもじもじと潜む小さな誰かがいた。




