第141話 間話14:その頃の皆さん
地球の関東某県某市。
「カハールカさん、おめでとうございまぁす!」
吉田ことヨシュアが満面の笑顔で拍手すると、セーレとスフォー主任も同じく笑顔で拍手する。三人とも笑顔なのに、カハールカにはとてつもなく悪い予感があった。
「贈り物です、さあ、どうぞ!」
本星の超高級テーラーの紙包みを渡される。王室御用達の店だ。
この包みを受け取ったが最後、絶対に面倒な事態に巻き込まれる。そんな確信がある。
「……いや、いいっす、自分服には困ってないんで……」
「あ、司法取引もお辞めになりますか?」
「くっそおおおおおおおおお、やり方が汚くないっすか?!」
「そういうお顔のカハールカさん、可愛らしくて素敵だと思います!」
久々の悲鳴を聞けたヨシュアは心から晴れ晴れとした笑顔を浮かべて包みを渡した。
紙包みを開くとやはり中にあったのは星間司法庁の制服だった。しかも、いつ採寸したのかサイズもぴったりで。
「給料倍以上に増えますよ!」
「しばらく休みは諦めてもらいますけど、後でたっぷりとってもいいですから!」
セーレとスフォーが笑顔で励ますが、カハールカはそもそもそんなに金を使わない。
ゲームもするが基本的には作る方に時間を取られておりゲームを少々と食事、家賃などの細々した金しか使わないのだ。給料よりも休みが欲しいタイプの人間である。
「ゲーム作りたくて来ただけなのになんでこんな面倒くさいことに……」
「うちは人手が足りないんですよねー」
「そんな事無いでしょ! 星間司法庁ったら官公庁就職ティア表で五十年首位の人気省庁じゃないっすか!」
星間司法庁は外宇宙の管理と司法という華やかさで皆が憧れる部署だ。
ドキュメンタリー番組やフィクションの題材にも良く選ばれる。日本でいうところの裁判所と外務省を足して二で割ったような部署だ。
なので志望者は多いがペーパー試験でまず多数が脱落し、体力試験で脱落し、面接でもほとんど人間が残らない。
「私記念受験したらペーパー200点中45点だったんですけど受かったんですよ。なので、きっとカハールカさんも大丈夫ですよ!」
ヨシュアがサラッと爆弾発言をする。それは星間司法庁どころか大体の官公庁に合格できないレベルの点数だ。
「なんでそれで受かったんすか!?」
「謎なんですよねぇ~、体力試験はまあ余裕だったんですけど!」
「あ、副運用体作るなら三体まで百%補助出ますよ。三体以降も自己負担十%で!」
でも副運用体三体まで全額補助には心が揺れた。
副運用体は自分と同じ姿のものなら特に規制なく誰でも作れる。
但し、高額だ。地球でいうちょっといい車くらいの値段がするので一般市民は一体持つのがやっとで、持てない人間も少なくない。
それをあと三体公費で作れるとは……。
自分が働いてる間、自分が三人増えてゲームを作ってくれる。その考えは果てしなく魅惑的だった。
「わかったっす! やります!」
カハールカの発言に三人が拍手した。
「地獄へようこそ!」
「一緒にクズどもの悲鳴をエンジョイしましょうね!」
「ちなみに次の仕事は査問官として例のダンジョンへの突撃です! 楽しみにしていてください!」
スフォーが満面の笑顔で新しく作られたカハールカの身分証を手渡しした。準職員としての正式な、銀色に輝く身分証。
皆が欲しいと望み、カハールカには不要だった物が手の上に有った。
とんでもないことになった、そう思ったが後の祭りであった。
――――その頃のダンジョン第一層。平和な草原。
夕方と夜の中間の時間がかれこれ120時間ほど続いている。あと20時間ほど立つと夜になり、レイスやゴーストが湧いてくるだろう。
「やれやれ中々助けが来ないものだ、チケンくんはどこまで行った、インテリジェンスパック1026?」
黒モヤの形を取ったジュスト・ド・スフォーは座り込んで、己の死体の腰に下げた小さなポーチに話しかける。
「……現在第七層ですね」
「なかなかいいペースじゃないか。スカウトしたいねえ。インテリジェンスパック1025はどうしているかね?」
「先輩はめっちゃはしゃいでます。チケン氏が先輩を褒め称えてるので調子に乗ってますね。個体名までつけてもらってます。実際割といい仕事はしてますが」
スフォーは常に有事に備えて生きている。なので、インテリジェンスパックも予備を所持していた。
そして、インテには層を超えてもどこにいるか分かるマーカーが装着されており、居場所はずっと把握している。流石に、層を超えての通信は障害が強く、場所を把握し時々インテの会話を傍受するくらいのことが限度だったが。
「まあそろそろ、査問部を説得できるだけの物証は揃えられただろうし、お迎えがくるだろう、今のうちにゴロゴロしておこう」
「……主、私も個体名欲しいです。個体名があるとかっこいいです」
「ふむ、希望は?」
「1025の個体名はインテだそうです。それよりかっこいいのでお願いします」
「難しいことを言うねえ、お前は。カバンに名前をつけるなんて思いもしなかったが……よし、考えてみようかね」
どうせ助けが来るまで暇なのだ。スフォーは地面に名前の候補を書きつけて時間を潰すことにした。
――――その頃の第四層ヴィルステッド村。
「うおー! やれー!」
「がんばれー!」
村の広場に設けられた特設スクリーンには、チケン対エリートターボ婆ちゃんの白熱のレースが映し出されている。
『うおおおおおおおお!』
『ヒーヒヒヒヒヒヒ!』
馬でも叶わないほどの速度でダッシュする幼女の姿のチケンと四つ足で走るターボ婆ちゃん。その速さに村人は大興奮している。
ターボ婆ちゃんのクラッシュやチケンの回避など、中々見どころは多い。
「すげえ! 馬より速い人間がいるなんてな!」
「チケンさまー! 頑張ってくださいましー!」
「あっ、危ない! チケン様ー!」
村人たちは全員チケンを応援していた。
ターボ婆ちゃんという謎のモンスターにやはり疑問を抱きつつも、眼の前に繰り広げられているバトルに夢中になっている。
それを後ろから楽しそうに眺めているのはローレンツェン王国の王太子、ディートリヒ・フォン・ローレンツェンと、その侍従エミール・フォン・フリースランドだ。
一昨日ふらりとヴィルステッド村を訪れて世話になっていた。
村長のヴィルステッドが二人に話しかける。
「どうも村民のために良い魔法を有難うございます、お二方」
「僕の婚約者が君たちに世話になったみたいだし、ささやかなお礼だよ。楽しんでもらえたかな?」
「この村の数少ないお客様でしたからねえ。皆様が今どうしているのか案じていたのですよ、元気そうで何よりですな!」
王太子は千里眼の力で過去のチケンの姿をスクリーンに映し出している。スクリーンは侍従にして男から女にTSした恋人、エミールの力作だ。重低音の響くサウンドを出すスピーカーも付属している。
「にしても殿下、三層出てきて良かったんでござるか?」
「どうにかなるだろ、僕達がアンデッドナイトでいるうちは出口閉じないだろうし。そろそろ色んな人が来るからね、ここで道案内が必要だろ?」
「なるほど、そういうことでござるか」
「あと、普通に三層つまんないだろ。変なモンスターしかいないし。ここで歓待を受けながらゼルダやケンイチ君の勇姿を眺めてるほうが、皆が幸せになれると気がついてね!」
「それは誠に名案にござるね!」
二人は無事ターボ婆ちゃんに勝利したチケンに拍手を送りながら、次の戦いの上映まで村人と楽しく歓談をすることに決めた。
次の上映は、チケン対ギガントケルベロスの予定である。
勝手に二人はチケンをコンテンツ化していたが、もちろん本人が知る由はなかった。




