第14話 おタヒちゃん
昨日までのローレンツェン王国物語の傷はやや残っているが、今日もVR機器の治験はする。仕事なので。
「今日の検査もゲームですよ、茅原さん!」
「なんのゲームですか?」
「蘇芳宮の花嫁ってやつですね」
「あ、やっぱり乙女ゲーなんですね……」
「はい……」
正直俺はがっかりした。技師さんも申し訳無さそうな顔をしている。
でもしょうがない、これは仕事だ。諦めよう。
「そういえば、昨日のゲーム万人向けと言うには随分血生臭くありませんでした!?」
「僕、数件このテストやってますけど、あんなに血なまぐさいエンドばっかり引いたの茅原さんが初めてですよ、ああいうエンドは200くらいあるエンドの10個もないはずなんです」
「マジか……」
俺は好きな見た目と言動のキャラを追っかけてただけだったのに……。
そういえばオリンピックで俺が応援したチーム、ことごとく敗北してたな。そう言う感じのアレなのかな……。
今回の『蘇芳宮の花嫁』はよくSNSで広告が流れてくる『えっ? 家族内で虐げられている私がすごい男の花嫁になってなんかすごい力があって幸福になっちゃう?』系のゲームだ。
この系統、何か名前あるんだろうか。
しかし、ここでも何故か俺が気に入ったキャラが死ぬ……。
和風世界のゲームで、ヒロインはお后候補の一番下の序列の貴族の姫。うじうじして皆にいじめられつつも実は隠された力があり……というテンプレだ。
全く俺の趣味に合わない。
「渋沢が1枚、渋沢が2枚……」
俺は正気を保つおまじないを唱えつつ、右腕を斜め上に振り上げてSKIPを叩きつつゲームを進めまくった。
唯一気に入っていた『乙橘皇女』はこの作中では珍しい強気系のお姫様だった。
最終攻略目標である皇太子の母違いの妹姫だ。
符術が得意なのだが、主人公や主人公以外に狂犬のように突っかかっていって、最後は帝の勘気に触れたりとか色んなパターンで死ぬ。
現代だともはや定型文である「ざぁこ、ざぁこ♡」だが、身分を隠した帝にやらかすのだからこのエンドも理解できる。
他にもそれを太皇太后にやったり、摂関家の偉い人にやって流罪になった先で死んだり、普段の扱いを恨んだ無敵の侍女に食事に毒を仕込まれたり、よくもまぁこんな人を怒らせることばかり出来て、死に方のバリエーションがあるものだな、と感心する。
そして、ローレンツェン王国物語と同じ、周回で攻略キャラが開放されていくタイプのゲームなのだが、やはり乙橘皇女だけはまともなエンディングがなく、大体のエンドで死ぬか生死不明(多分死んでる)オチだった。
この治験でやるゲーム、俺が好きになるキャラばかりひどい目にあってるな……。
そう思いつつ今回はのんびりプレイしていたのだが、三周目くらいのエンディングで気がついた。スタッフロールを見るとローレンツェンと同じスタッフが結構いる……。
休み時間に検索してみると、ローレンツェンの制作会社の別チームが作ったのが「蘇芳宮の花嫁」だった。納得である……。
匿名掲示板での乙橘皇女の別称は「蘇芳のグリセルダ」「おタヒ」というらしい。
……なんか色々酷いな。
タヒは例の伏せ字と”おと・たちばなの・ひめみこ”の乙橘と皇女の頭文字を取っておタヒらしい。
可哀想可愛い……と言って良いのだろうか。
クセのあるキャラ造形だなと思ってはいたがシナリオライターがどうも同じらしい。このシナリオライター、俺の好きなタイプのキャラが嫌いなんだろうか。
でも俺の癖に刺さるんだ……。悔しい。
そんな感じで、治験第一週はあまり動きを要求されない乙女ゲーを延々プレイしていた。
金曜くらいになると、なんとなく乙女ゲーの文法にも慣れてきて、男とのデートにも慣れてきた。我ながら慣れって恐い。
とは言え、積極的に男とデートしたいというわけでは勿論なく、精神的な修行と思いこんで、心を無にして無表情でやり過ごしていただけである。
2Dゲームなら余裕で動画見ながら作業プレイで行けたと思うが、これはVRゲーム。
嫌でも男どもが俺に(物理的に)集ってくるのだ……。(物理的に)上から目線の男に色目を使われるのがあまりにもキツイ……。
しかし俺はイケメンではなく渋沢さんを接待していると思って耐えた。
正直に言うと栄一と諭吉以外の男と仲良くしたくない。
恋愛的な接触ならなおさら嫌だ。
俺は気合で攻略対象のことを札束か金塊だと思いつつプレイした。
でも、当たらずとも遠からずのはずだ。主人公はこのゲームをクリアすることでいじめられ環境から抜け出し、どの公達と結ばれても幸せになり富を手に入れる。
おタヒが手に入れられなかった幸福を手に入れるのだ……。
そう思うと、なんかわびしい気持ちになってくるな。
そんなこんなで翌日もゲームはサクッとクリアし、波乱万丈だった一週間は終わった。
週末は病院から出ることは出来ないが、飯も出るし自由にしていいらしい。
それに加え、技師さんから朗報がもたらされた。
「来週から新しい、乙女ゲーじゃないやつやりますからね」
「マジですか!」
技師さんの言葉に俺は喜んだ。
いくら男視点で女の子とデートするエンドとかがあるといっても、最初は男と付き合わないといけない。俺はデートするなら女の子とデートしたい……。
初日の王太子とのデートがややトラウマになっているのだ。
「でも、なんのゲームなんですか………?」
「フィールドを探索するアクションゲームですよ。しかも、未発売のやつです。制作会社はローレンツェンの会社だって聞いてます。あっ、もちろん極秘ですからね!」
「マジッすか!! もちろんです!」
VRアクションゲーやっぱ楽しそうなんだよな。レベル上げもアクションも。
ローレンツェンも蘇芳も画面めちゃくちゃキレイだったし、あの世界を冒険できるなら最高すぎるな……。
「体を動かすタイプのゲームだそうなので、楽しみにしていてくださいね」
「はい!!」
俺は歓喜に震えた。やっとゲームっぽいゲームが出来る!
俺の乙女ゲーのプレイスタイルは基本、右上に大きく腕を伸ばしスキップ連打する、だから、ゲームと言うか、作業だ。
だから、やっとゲームっぽいゲームが出来るのは本当に嬉しかった。
その日はいつも美味しい病院の飯が更に美味く感じた。
いや、実際にかなり美味かった。天ぷらなんて出ることあるんだな……。
俺はご機嫌で、ジンジャーエールで飲酒気分を味わいつつ(病院は禁酒なので)、久々にメテクエのダメチャレをしたり、どのハードでローレンツェンを遊べばいいかの調査などをしてその夜を過ごした。
治験を始めてから一番楽しい夜だった。




