第138話 ジャンケン最強理論
「チケン、鑑定して!」
「はいはい、【エリア鑑定】!」
「お、茅原氏いいスキル持ってるじゃないか、うち入らない?」
エト姫は隙あらば勧誘してくるな……。
勧誘に負けずエリア鑑定を発動させると、バリエーション豊かな姿の割に、単一の表示が出てきた。
「ええと……全部『お客様の成れの果て/”アムブロシア”のユーザー。体質に合わなかったかわいそうな人々。弱点は太陽光』って書いてあるぞ、なんだアムブロシアって」
「私も知らん。インテ、ジュスティーヌに今すぐ調べさせろ!」
「畏まりました!」
こちらに気がついたモンスターはこちらに近づいてきた。夜目が効くのだろうか、動きに迷いがない。
「お客様って何?!」
「そう言えば、昼に聞いたな、この島にはお客様が来ると……」
「エト姫、このモンスター倒していいのか!?」
お客様は元人間の可能性がある。そう言うと、エト姫は少し考え込んだ。
「半殺しにしてサンプル回収したいんだけど、生かさず殺さずってできるかな、おタヒ氏とグリセルダ氏」
「面倒くさいから嫌よ」
「我らにメリットがなかろう」
なんともおタヒとグリセルダらしい言い様だ。
「じゃあ、一番サンプル数を確保できた人は明日一日茅原氏を貸し切れるというのはどうかなー?」
「俺の意思は!?」
「よかろう、了承した」
「いいわね、任せて!」
嫌だ、何されるか分かったもんじゃねえ!
「インテ、この姫なんとかしてくれー!」
「チケン様、無理です。テオネリアでの書類上チケン様はジュスティーヌ様の部下で、ジュスティーヌ様は姫様の部下なので……」
治験テスターはいつでも中止できる契約のはずなんだが?!
流石にそれは口頭でも契約書でもさらっとだが確認している。詐欺じゃねえか!
「初耳だが! バイトごときに正社員並みの業務を求めるなこのボンクラ姫がぁ!」
「星間司法庁はいつでも茅原氏の着任をお待ち申し上げているが?!」
「こんなブラック省庁絶対に就職するかボケェ!」
「そうよ! チケンは私の侍女になるのよ!」
「いや我が家の料理番だが?」
全員俺に人権を認めてくれ。俺には職業選択の自由があるんだ。
「まあいい、俺が一番サンプルを取ってくればいいんだからなーッ!」
俺は全力ダッシュでまず謎の円筒形のお客様に突撃する。一番近かったからである。
円筒形のガラスの筒に生首が三つ四つはいって、頚椎で一つになっているそれは、俺に向かって目からビームを発射してきた。怪しすぎるので避ける。
「インテ、鏡だして!」
俺はインテに一層や二層で使用した鏡を出してもらい、円筒形のお客様から発射されたビームを鏡でスパゲッティモンスター型のお客様に投げかける。
すると、一瞬にして空に浮いていたスパゲッティモンスターが口から泡をふき地面に落ちた。
やっぱ体に害のある光線だったか、危ねえ。
「あーっ、チケンずるい! 私は地道に式神で殴ってるのに!」
「なかなか頭が回るではないか」
おタヒが悔しがっている。大変に気分が良い。
あるものは何でも使う、それが効率厨ってもんだ。
味方が自分のビームで昏倒したことに怒り狂った光る円筒が数秒おきにビームを発射してくる。熱線ではないので普通の鏡でタイミングよく反射する。
俺、一時期音ゲーも結構やってたからな……何か楽しくなってきた。
「ちょっと茅原氏こっちに光線を曲げないでもらえるかな?!」
「ちょっと、雷公にぶつけないでよ!」
うーん、好きな場所に当てるのは難しいな。仕方ない、真面目にやりに行くか。
円筒くんがビームを発射するのに合わせ、鏡を合わせてまっすぐ円筒くんにビームをお返しする。するともちろん円筒くんは自分のビームで昏倒した。
よし、これで二匹だ。
五枚の翼の生えた手は手のひらの中に顔があった。
俺は砂を掴み、手のひらの中の顔がスキル詠唱しようとして開いた瞬間に砂を撒き散らし、目潰しをして額に拳をぶつけて気絶させた。まあ死んではいないだろ。
あと、二人が嫌がりそうなムカデも一応処分しておく。
ムカデはお湯に弱い。なので、グリセルダにお茶を入れてもらう用のポットがある。インテにそれを取り出してもらってお湯をぶちまけると、ムカデは絶叫を上げながらひっくり返って足を震わせ行動不能になった。
しかし、元気に足がプルプルしておりまだ死んではいない。これならサンプルとしても使えるだろう。
「よーし四匹サンプル確保!」
モンスターは十匹いた。残りは六匹だが、もうおタヒとグリセルダが三匹ずつ仕留めている。
「よし、俺が一番倒したな! 明日の俺を貸し切るのは俺ということで!」
あーしばらくぶりの自由時間だ。木陰でゴロゴロしてアイス食べて、脳内でメテクエのPTシミュったり、海で泳いだりポテチ食ったりコーラ飲んで優雅な時間を過ごすぞー!
あっ、コーラにアイス乗せてアイスフロートにしよ。
自信満々に俺が叫ぶと、グリセルダとおタヒは視線を合わせた。
「いいえ! 私とグリセルダは!」
「我らは戦果を共有する!」
「つまりどういうことかな、おタヒ氏、グリセルダ氏?」
「合わせて六匹。チケンより二匹多いわ!」
数秒迷ったあとに、エト姫は満面の笑顔を浮かべた。
あんまりゲーム中で見なかった顔じゃん。貴重だ、スクショしたい。
「了解。じゃあ茅原氏、明日一日二人を頼むよ! 私はやることがあって忙しいんだ!」
「そんな後出しジャンケンありかよ! 法の不遡及の原則は?!」
「明文化されてない法は私の守備範囲外だ、まあ悪いけど二人のお守りを頼むよ!」
「最悪だー! ガチャ代返せポンコツ姫ー!!」
「ハハハハ、それはファビエの領分だな!」
俺はさっきスクショしたいと思った気持ちを一瞬で忘れた。
たまには俺だって一人でのんびりしたいのに……。
エト姫は俺のがっかりを無視してサンプル回収作業をしており、インテもそれを手伝っている。そしてその間、俺は二人に詰められていた。
「ちょっと! 私と遊ぶのが嫌だっていうの?!」
「チケンは私が嫌いか?」
「ひどいわ、私はチケンと一日一緒に楽しく遊びたいだけなのに!」
「我らと今まで過ごした時間は不快だったのか、チケンよ」
うわー、言い方が汚え!
こんなの「そんなことないです」って言われるの待ちだろズルすぎる!
こういうのは正直に乗り切っていくしかない。
「嫌いじゃないです! でも俺はこのダンジョンに来てグリセルダと合流してからプライベートの時間を一秒も持っていません!」
「……それで?」
「だから何だというのだ?」
うわ、斜め上の返事が来やがった。
「一人になる時間がないとメンタルが崩壊する生き物もいるんだよ、具体的には俺」
二人は難しそうな顔をしている。
「私は常に侍従や王太子、同級生が横にいる生活だったからそう言う気持ちは全く理解できぬ」
「うーん、生まれてこの方一人で放置されたことがないから、私もそう言う気持ちになったことがないわね。呼べば誰かがいる生活しかしたことがないもの」
そっかーお姫様にはプライベートって概念が無いのか~……そっかー……。
そうだよな、着替えも自分でできない服を着ていたり、風呂すら入れない人種がおつきの人間無しで生きていけるわけ無いもんな……。
「まあ、お前らにはまだ早い概念だったな……」
「何よその言いよう!」
「うーむ、微妙に腹の立つ物言いだな」
「じゃあ明日は皆自由行動ということで。二人ともプライベートという概念のすばらしさを知るといい」
そう言ってロッジに向かおうとすると、二人に肩を掴まれた。
「そんなわけないでしょ!」
「それはそれ、これはこれだ」
うやむやにして自由を取り戻す作戦も失敗した。うう、たった一日すら俺には自由がねえのかよ……。




