第135話 正気の狂気
語り尽くした気がしなかったので、俺はまだまだ『良さ』を語ることにした。
最近スマホも触ってないしメテクエについて語りたい欲が溜まっていたのだ。発散したい。
「いやいや、まだ話すことはある。それでな、ゲーム性だけじゃなくて音楽も最高なんだ。エト姫のイメソンなんてカラオケで1200回くらい歌ったもんな。会社の宴会でも歌えって言われたらエト姫のイメソン歌ったくらいに」
そういうと、エト姫がぎょっとした顔になり、グリセルダとおタヒがエト姫の顔を見つめている。ファビエはばつが悪そうにあらぬ方向を向いていた。
「マジで名曲なんだって! この可愛いボイスで聞かせてやる! インテ、音楽流して、『恋の強制執行1秒前』!」
「……はい」
インテは諦めたかのように音楽を流してくれた。
うーん、この電波ソングのようなイントロたまらねえー!
「宇宙の果てからやってきたー! スーパー司法官エトワール!
君の瞳は不審者過ぎて~♪ なんだか、急に尋問したくなっちゃう!
ねえ、どうして、ドキドキしてる、この胸に湧き上がる気持ち!
こんな気持ちはきっと君のせいだね、だから今すぐこの手でTAIHO☆
尋問♡ 拷問♡ 強制執行♡ この気持ちの主文は後回し!
ほら、手を取って君もドキドキしてるね
それはきっと、君が有罪だから~!
さあ恋の罪状認否が始まるよ! ラララー ――――」
久々に気持ちよく歌ったな。せっかくの幼女ボディーを活かしてダンスもつけた。もちろん振り付けも全部覚えている。エト姫の前で歌うなんて光栄だなあ……!
と思っていると、全員がすごい顔で俺を見ていた。
「チケン、意外に歌うまいわね……でもなんなのその歌詞……」
「茅原氏、それ本当に実在する歌? もしや私が歌ったことになってる?」
「こんなにひどい歌詞の歌は初めてだ……」
「そういえばあったな。部下がやりたいって言うから適当にやらせてたんだがこんな歌だったか……コンサートで聞いた気がする……」
あ、これスタッフ発案だったんだ。大感謝だな。コンサートマジ楽しかった。
発案したスタッフと音楽制作チームに神の恵みがありますように。
「俺このCD三十枚買ったよ。家にある。ここに持ってこれたらサインもらうんだけどなあ。でもな、いいのは音楽だけじゃないんだ。グッズ展開も手厚くて受注生産で全キャラグッズ作って販売してくれて全てのオタクに手厚いサポートをしてくれたのだけはマジ感謝してる。俺もエト姫のアクスタは全バージョン保存用観賞用布教用実用で五枚ずつ買って――――」
その後俺は延々とメテクエの良さを語り続けた。俺が満足した頃には皆生ける屍のような顔をしていた。
「……なるほど、わかった。チケン、もう落ち着いたか?」
「俺は最初から冷静だが?」
全員がすごい目をして俺を見つめていた。何故だろう、わからない。
「とにかく感謝してるんだ。社畜のつらい時期をこのゲームのおかげで乗り越えて、楽しく生活できたからな」
これは事実である。空っぽなプライベート。厳しい社畜生活、貯金はできるが目標も楽しみもない。
そんな味の抜けきった鶏がらみたいだった人生を潤してくれたのがメテクエだ。
「二年前まで天井がなくて発狂したこととか、排出率が渋いこととかにはちょっと文句言いたいけど、それは俺が自制すればよかっただけの話だしな……」
不満点はマジでそのくらいしかない。
「そんで、このゲームがあったから俺はグリセルダやおタヒ、あとエト姫に出会えたからな。俺がガチャ廃人でなければここにはいなかったんだよ」
これも事実だ。だから俺はメテクエとファビエ社長他テオデジスタッフには感謝しかない。世界はありがとうでいっぱいなんだ。
「なるほど……そう言うこと……か……?」
「……チケンはそれでいいの? 大きな金子なのでしょう?」
「全然いいよ。どっちかって言うとそこまで貢いだエト姫が蛾を丸かじりしてたり、リアルで痴女水着だった方がダメージデカかったわ……」
そう言うとファビエはぎょっとした顔でエト姫を見つめていた。
「蛾はともかく、水着はちょっと涼しそうなのを選んだだけだろ! 私のセンスの良さを見せてやる!」
そう言うとエト姫はインテから紐状の何かを取り出すと、部屋の物陰に行って例の水着というのもおこがましいシースルー生地に絡まった紐を身に着けて戻ってきた。
それも結局買ってたのかよ!
「何だその見苦しい紐と布のコラボレーションは。せめてもっと服らしい服を着ろ! 本当に王族なのかこの女!?」
ファビエ社長は信じられないものを見る目で、エト姫を見たり見なかったりしていた。視線を合わせると紐水着が目に入るせいだと思う。
視界に入れたら自分もエロ同人の世界に行ってしまいそうで不安になる衣装だ。
「あの、もしかしてテオネリアでこれが普通だと思ってたんだけど、違うのか?」
「そんなわけあるか、この恥さらしがテオネリアの標準だと思われるのは甚だ遺憾だ!」
「法律には違反してないぞ!」
ファビエは絶叫していた。やっぱりそうだったのか……。色々疑問が解けてよかった。
さて、本題に戻るか。
「で、なんでそんな名作を作ったファビエ社長がひき逃げなんて犯罪を?」
全員が俺を見つめる。
……俺、なんかした?
ため息を付いて、エト姫が話を進めた。さっきの紐水着のままで。
「そもそも、お前、色々犯罪してるらしいじゃないか。まずひき逃げの理由から話せ」
「轢きたくて轢いたわけじゃない。生け垣の下から飛び出してきた子供なんて避けられない」
つむぎちゃんの家の前にある歩道はは生け垣に囲われていて、自分の家への直通通路としてつむぎちゃんは生け垣をくぐって猛ダッシュしていたらしい。
安全運転でもそれは避けれない可能性があるな……だからといって、救護義務があるし、許されるわけではない。
「それで、ヴェレルに相談した。ヴェレルは子供を連れてくれば全てをなかったことにしてやると……」
「何もかもが駄目じゃないか……現地の警察なり医療機関なりに通報するべきだろそれは。それに、そもそもそういう事態に備えて自力での運転は王室典範で禁止されてただろ?」
「そうなんだが、気がついたら運転席に座ってたんだ」
姉であるエト姫は深くため息を着いていた。しかし紐水着があまりにも違和感がすごいので、一旦制服に着替えてもらうことにした。
エト姫は不服そうな顔をしていたが、俺はこの点においてファビエの肩を持つ。
「お前、しかも婦女暴行だの窃盗だのしてたらしいな?」
「……婦女暴行はしてない。そんな自分の寿命を縮めるようなことするわけない。戸籍はヴェレルが買ったし、喧嘩なんかもしたらしい。気がつくと相手が倒れてたり知らない品を手に持っているんだ……でもちゃんと治療費や慰謝料や代金は後で振り込んだし示談も済んでいる」
示談成立してるんだ……。腑に落ちないがそれならまだいいのだろうか。
ファビエのその言葉にグリセルダが問う。
「その婦女暴行をすることが自分の寿命を縮める、とはどういうことだ?」
「ああ、テオネリアの人間はね、自分の子孫から寿命を前借りしてるんだ。だから長命なんだけど、その代わり子供を作ると数十から百年くらいだけど寿命が確実に縮むんだ。テオネリア人にとって子供を作るのは人生の大問題なんだよ」
エト姫は真面目に回答した。そういえばそんな話も聞いたな。子供を作るのに寿命を削るって想像のつかない世界だ。
いや、実際地球でもお母さんは命がけで産んでいるとは思うが、父親側もなのか……。
「気になることは色々あるが、昔はお前も可愛い弟だったのにな。何がお前をそうさせたのか……」
エト姫は天井を仰いだ。空虚な光を放つ照明がそこにあるだけだった。




