第134話 因習島に神降臨
俺達は結界越しにずっと探してきた追い剥ぎの正体に対面している。
それは、エト姫の弟であり、メテクエの制作会社の社長にそっくりな男だった。
「昨日ジュスティーヌが送ってきた書類によると、我が弟ファビエが地球で作ったゲーム会社。それがテオレア・デジタルエンターテインメント。その会社が作ったのがメテオライトクエスト。つまり、茅原氏の全財産を吸い取ったのは実質この男だな……本当に申し訳ない」
エト姫は本当に困ったような顔で俺に謝罪する。
そもそも、その謝罪は要るのか?
「なんと……ではやはり斬首にでもしたほうが良いか?」
「チケンのなけなしの給金を奪い取るなんて、とんでもない男ね!」
俺は驚愕でじっと男の顔を見ている。たしかにファンミーティングで見た社長を金髪から水色の髪に変えると、この顔だ……。
「なんだ、その男はうちのユーザーだったのか。どうだ、俺にチンケな給金をだまし取られた気分は! ハハハハハハハハ!」
ゲームの中のファビエそのものの声で男は高笑いをする。ゲーム内のファビエは人格者だから、こんな人を嘲るような言葉もしなかったし、喋り方も違う。
なんか違和感がある。
固有エピソードも、これで良いのかと迷う主人公に優しく助言したり、時として厳しく当たるファビエのストーリーに感動したユーザーは多い。
俺の相互フォローのファー姫さんとかグッズで神殿まで作ってたし、ファビエオンリー同人誌即売会とかもあるらしい。俺は行ったこと無いけど、ファー姫さんは同担拒否といいつつ買い漁っていたはずだ。
ファビエはモデルの社長ともどもメテクエの一部として(メテクエファンには)絶大な人気があった。俺も嫌いなキャラではなかった。
それが、こんな……。
一筋の雫が頬を伝った。こぼれた涙を手で拭う。
「こいつがチケンを苦しめて身売りさせるような真似をさせた首魁なのね。うふふ、殺すわ。生まれてきたことを後悔するような死に方をさせてあげる!」
おタヒが笑顔で叫ぶ。牛頭くんが槍を構え、風伯と雷公の二式神もすでに召喚が済んでいた。
「そうだな、私も尋問には一家言ある。お前で試すのも悪くない。足からか? 手からか? 顔からか? 場所だけは選ばせてやろう」
グリセルダが、サーベルを構えて出会ったときのような凄絶な表情をしている。よらば切る、という抜き身の剣のような険しい表情。
流石に、ちょっとエト姫も困った顔をしている。
エト姫は法律を重視するので基本的に現行犯でなければ強制執行や処刑はしない。そうでなくては司法が成り立たないからだ。
「─────……」
俺は声を上げたが、感情の高ぶりで声にならない。
「チケン、どうした。やはり己の手で処罰したいのか?」
「チケン、強化の術とかいる? 自分でボコボコにしたい?」
「違う、違うんだ!」
俺は溢れる涙を拭いながら、なんとか言いたいことを口にした。
「ありがとう、ありがとうございます……! ファビエ社長という現人神の存在に俺は今猛烈に感動しているんだ……!!」
俺はボロボロと溢れる涙を隠さずに叫ぶ。あ、鼻水も出てきた。インテはすっとティッシュを差し出してくれた。気の利くカバンだよ。
ファビエ含む俺以外の全員が俺のことをすごい顔で見つめていた。
「え、茅原氏? 正気?」
「チケン、お前の有り金を全部失ったのはこの男のせいでは?」
「ちょっと! チケンに変な術かけたんじゃないでしょうねこの男!」
「知らん! 何もしてねえ! そもそもこの結界は術なんか通さねえだろ!」
「え~、茅原氏ちょっと大丈夫か? 【精神異常回復】!」
スキルが効くはずもなく俺は感涙に打ちひしがれている。
俺は正気で感動しているのである。涙と鼻水が溢れている。ああ、幼女ボディーで良かった。おっさんボディーでこれだったら目も当てられん。
「どういうことなのチケン!? 【精神異常回復】! あれ? 本当に効かない……」
「チケン、どうした、何があったのだ?! 弱みでも握られているのか?!」
おタヒとグリセルダは俺を心配している。
しかし俺は逆に何故二人が怒っているのかわからない。
「いや、そもそもなんで二人は怒ってるんだ?」
「だって、この男がチケンのお金をだまし取ったんでしょ?」
「この男がお前の生活を全て壊したのであろう?」
ああ、なるほど。そう言う勘違いか。
「違う。例えば、俺が酒で身を持ち崩し一文無しになったとする。それで酒屋を恨むのは筋道が通ってないだろ?」
「……そうね」
「確かにそうだが」
「俺は金をだまし取られたわけじゃない」
俺はガチャを納得ずくで回した。決して借金もしていないし、ガチャのためと思えばエアパスタももやし生活も楽しかった。
「俺は、メテオライトクエストというゲームにそれだけの出費をしても良いと思ったから出費した。結果的に貯金ゼロになって生活に困ったが、それは俺の未来予測の甘さと自制心のなさによるところが大きい。だからその点については全く後悔してないし、誰を責めるつもりもない」
冷静に語る俺の話を全員が神妙な顔で聞いていた。
「それに、俺は貯金は使い果たしたが借金はしてない。だからやり直せるつもりだったし、そのための治験のバイトだった」
「……そんなにそのメテオライトクエストというのは面白かったのか?」
グリセルダの質問。そりゃあもう、面白かったに決まっている!
俺はもう止まれなくなってしまった。
「すごく面白かった!! いやあ現在進行系で超絶面白いね! 全財産をかけて悔いはなかった! そのくらいストーリーとゲーム性を兼ね備えた、ソシャゲの枠を超えたゲーム史に残る存在だと思う! キャラもストーリーもいいし、ビジュアルが最高でバランス調整が神ってて、アプデするたびにゲーム性が替わって楽しかった! ここに居るエト姫の水着のデザインがやべーことが現実再現だったことも面白かったし、そんなんで林檎の審査に通ったのはどうしてなんだ? って疑問も毎年ネタになってよかったし、かといってエロ方面だけではなく本当に上品なお嬢様キャラとか、かっこいいおっさんキャラにイケメンもいてバランス取れてたし、エト姫の制服姿の3Dモデリングがまじ神ってて美術品レベルだし! そしてスキル名とか武器名も良くて、ファビエのスキルの『君の願いを叶えよう』とかエト姫の『主文後回し』なんて演出がもうすごすぎてさー!」
俺は興奮していた。なにしろ、原作者に思いが伝えられるのだ。今しかない!
「チケン様、ストップです! 落ち着いてください!」
「いいや、止まらないね!」
「チケン?!」
「ちょっと落ち着きなさいよ! 【精神異常回復】!」
「ファビエ……お前何を作ってたんだ?」
「え……テオネリアから引っ張ってきたエンジニアに金は出すから面白いゲーム作れって……命令したのそれだけなんだが……」
全員が何かを言っていたが、俺は全然聞いていなかった。あ、ファビエ社長の面白いゲーム作れってところだけ聞いた。
「それでさー! 何がすごいって、エフェクトがすごいのに古いスマホとか安いスマホでもかなりいい画質設定で遊べるようにチューニングされててプレイ感が損なわれないプログラミング技術が神業すぎるんだよな! 低水準言語とか使ってるのかな!? いいスマホできれいに遊べるのは当たり前! 安い機種でも最高のプレイ体験ができるのがメテクエなんだ! まさか泥OS8とかの老人向けスマホでも快適にプレイできましたって聞いたときはマジか! って思ったもんな。あのプログラマーは本当に神。それにしてもそんな神ゲーなのに、メインストーリーが感動の完結をしたら綺麗にサ終するのが、さり際の美学、桜の花のようで本っ当に……」
「わかったからチケン! 話を止めよ!」
「【精神異常回復】! なんで効かないの?! 明らかにおかしいわよ?!」
「正気で狂ってるタイプの人間にはスキルで鎮静はできないんだね、勉強になるなあ」
「日本の廃プレイヤー怖……」
メテクエを作った神の降臨。俺が狂わないわけはなかったのだった。




