第132話 因習島とその信仰
謎の因習を聞いて俺達は一部を除き困惑している。
空から飯が降ってくるだの祭りだの生贄だの、どういうことなんだ。
「生贄を捧げると空から宝が降ってくる、ねえ……」
『む、茅原氏。それ、カーゴ・カルトってやつじゃないか?』
「なにそれ?」
エト姫の言葉を俺は知らなかった。
カーゴは荷物。カルトは宗教とかみたいな意味だよな? 単語自体の意味は解るんだが。
『地球の信仰の一つだ。外の世界からもたらされる自分の世界にない物品を神の恩寵として崇め奉るんだよ』
「なんでエト姫がそんな事知ってんの? 地球人の俺だって知らないのに」
『仕事先の文化は極力勉強するとも。それに、類することはこっちでも過去にあったんだ』
エト姫は、軽く過去の事例を話してくれた。
規制がほぼなかった初期に外宇宙に行った人間の中に、外宇宙で自称神になった人間がいたのだと言う。
その人間は技術の力で神を演じ、現人神としてその星を支配した。
現地のレアメタルや希少動物の取引、人身売買でそれが明るみに出たらしい。もちろん人身売買はテオネリアでも重い罪になる。
現在はテオネリアの重罪犯刑務所で懲役400年超えの最高齢の服役囚だという。
よく、アメリカの裁判とかで懲役300年とかいう実質終身刑があるけど、長命な星だとそれがガチで実現できるんだな……。
『流石にそう言うのは国の恥だから話したくなかったんだけどね、まさか三例目じゃないといいんだが……』
一例だけじゃないのかよ……。
『エトワールは本当に法務官とやらなのだな……信じられぬ。どちらかと言えば徒刑囚の立ち居振る舞いに見えるのに』
『何故だ。私は法律に違反することは何一つしていないのだが……』
『法律だけじゃなくてお行儀も守ったほうがいいわよ、エトワール……』
グリセルダの言葉とおタヒのツッコミに俺は思わず笑いを堪えるのに苦労した。
モスマンとスケスケ水着で大分点数がマイナスになってるもんな……。
「まあいい、もうちょっと休んでろ。俺はもう少し聞き込みをしてくる」
『頼んだ! 何しろ暑くてね! 何もする気が起きない!』
『ちょっとエトワール! 足を広げて大の字になるの辞めなさいよ!』
『エトワール、スカートをバサバサさせるな見苦しい!』
言われた先から自由に生きているエト姫が面白すぎるが、俺はビーチや村の他の場所などを散策する。
この身長と服、クリームちゃんのおすすめの帽子を被っているせいか違和感もなく溶け込めて、皆が割と気軽に話をしてくれる。
「すみません、このへんで光の柱ってないですか?」
「ん? この辺で見かけない子マウねえ……光の柱は夜にしか見えないマウよ。最近は光の柱も見える日と見えない日があるマウ。もしかして、光の柱に行きたいマウ?」
「駄目なんですか?」
「危ないマウ。あの周辺にはマウ達を食べる化け物がいるマウ。おすすめしないマウ」
うーん。化け物ねえ……因習村っぽくなってるようなそうでもないような……。
その後も聞き込みを続け、お祭りは明後日開催、その明後日に多分光の柱も復活すること。布や食料はチケットを所定の箱にいれると自動的に排出されることなどを教えてもらった。
逆に、何故この素朴な村にアイスキャンディーやアイスティーを作る設備があるのかと思ったのだが、それは村ができた頃からあるらしく、歴史がありすぎて誰も由来がわからないのだそうだ。
この村の人達には氷やアイスキャンディーは冷たすぎてすぐお腹を壊してしまうにでめったに食べず、客人に振る舞う専用になっているらしい。
なんだかよくわからないことが多すぎたが、俺達は追加で日傘を買い、ロッジに向かうことにした。とりあえず光の柱がなくては先にも進めないので二泊三日をここで過ごすことになる。
その間何も起きないといいんだが……。
合流するために先程の木陰の村の工房に戻ると、エト姫がお腹を抱えて苦しんでいた。
「どうしたんだ?!」
「本当に馬鹿ねこの女!」
「呆れるほどアホだな、エトワールは」
「茅原氏、インテ、どうしよう……アイスキャンディー食べたらお腹痛い……」
「……何本食べたんだ?」
「味が5種類あったから2本ずつ食べた。あまりに美味で……」
10本とかアホか。俺の推しがこんなにアホだったなんてあまりにも辛い……。
「チケン様、応急手当キット出しますか?」
「いや……やめよう。痛くなければ覚えないという言葉がある。エト姫には必要な試練だろ、これ……」
俺だってアイス食べすぎて腹壊すとか小学生の頃に卒業したぞ流石に。
「ううー、痛い、歩けない……」
「チケン、エトワールは流石に担がぬぞ」
流石にエト姫も身長167センチとかあるから、そう言うわけにもいかないよなあ……。そうだ! 俺は妙案を思いついた。
「ほらエト姫、ここに乗れ」
「うへえ、そこかい、嫌だなあ」
俺は犯罪者収容ボックスを指さした。一辺が一メートル弱あるその立方体は、空に浮いている。エト姫がうずくまるくらいのスペースはなんとかある。
「ほら、牛頭くんを抱っこして腹を温めるんだ」
「嫌だけどしょうがないわね、牛頭くんに変なことしないでよね……」
「おほー、あったかい! ありがたく抱っこさせていただく!」
収容ボックスの上にエト姫を座らせ、牛頭くんを抱っこさせる。日を浴びた牛頭くんのボディーはもふもふの上温かい。すこしはエト姫の腹の痛みもマシになるだろう。
問題はこんなのを引っ張ってロッジまで歩かないといけない俺が可哀想なことだが、言い出しっぺは俺なので責任は取る……。
「に゛ょわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
過剰なエト姫のスキンシップに嫌そうな声を出す牛頭くん。もふもふに顔を埋めて深呼吸されるのが湿気と不快な温度でとても辛いらしい。
ごめんな、後で羊羹上げるから許してくれ……。
「チケン様、本当に申し訳ございません……スフォー様のしつけが行き届きませんで……」
「お前やおっさんのせいじゃないだろ……あれは野生のポンコツだ……」
インテのお詫びに目もくれず、エト姫は冷え切った腹を牛頭くんの暖かさで癒やすことに専念していた。本当にこの姫頼っていいのかな……。俺は心配になってきた。
工房を出て貸ロッジに向けて歩き出す。燦々と降り注ぐ太陽はきついが、俺以外は全員日傘を持っているし俺の分の日傘はインテがエト姫の分までさしてくれている。気の利くカバンである。
歩いていると、周囲がざわつく。
周辺の村人が俺達を見て跪いたり拝んだりしているのだ。
「”お客様”マウ!」
「まだ夜じゃないし祭りじゃないのに”お客様”マウ?!」
「とりあえず無礼のないように拝むマウ! お客様、ノルマの増加はお許しくださいチューッッ!」
俺とグリセルダとおタヒは目を合わせた。
明らかに何かこの層はおかしい。ちなみにエト姫はまだ腹が痛いらしく牛頭くんに顔を埋めて深呼吸しており、何かもうエト姫より牛頭くんの方がかわいそうになってきた。
そんな状態なのでエト姫は周囲を全く見ていない……。
とりあえず俺達は、あまり気にしないふりをしつつロッジへと向かう。
そして、ロッジがある、と言われた場所の近くには懐かしい設置物があった。でかでかと輝く、古びた電飾の看板。
『←この先セーフエリア』
「追試の前に、エト姫治すかあ……」
「そうだな……」
「そうね……このポンコツのままじゃ明らかに足手まといだものね……」
おタヒの容赦ない言葉に、俺は同意しかなかった。




