第130話 審査に通る服
おタヒとグリセルダが選んだのは、実に穏当な夏服だった。
おタヒは白いワンピースに、白い花飾りの麦わら帽子をかぶっている。清楚な夏のお嬢様という感じだ。
グリセルダは少し丈の長いふわっとしたおしゃれなワンピースに、つばの広い帽子、レースでできたカーディガンを着て大人の女性という感じがする。
最高だ。これが夏イベのガチャだとしたら迷わずに天井まで引いても悔いはないだろう。
「二人ともすごく似合ってる!! 夏のお嬢様って感じで俺はすげー好きだな!」
俺は腹の底から心を込めて褒め称えると、おタヒはドヤ顔で、グリセルダは少し照れくさそうにした。
しかし本っ……当にすごく可愛い。俺はこういう普段着みたいな服に弱い。
さて、試着室は二部屋ある。つまり次は俺とエト姫なのである。
俺はやや困惑しながら着替え、外に出ると、グリセルダとおタヒが昨日のサトゥルヌスを見るような顔で先に着替えを済ませたエト姫を見ていた。
エト姫は面積こそさっきより増えたがスケスケ素材、ところどころレースやリボン、キラキラした石が付いていて、ギリギリ隠れているが動くとヤバそう、みたいな服装である。
俺は自分のやや恥ずかしい格好のことを忘れて叫んだ。
「このアホ姫が! そんなんだから水着エト姫だけFAN◯A行けとか、テオデジは林檎に賄賂渡して審査を無理やり通してる疑惑とかがでるんだぞ!?」
「だって暑すぎるし……スケスケのほうが涼しいに決まっているさ……」
夏エアプの意見すぎて聞いてるだけでも腹が立つ。
「よし、じゃあちょっとそのままの格好で外行って来い、日向にだぞ!」
「任せたまえ、茅原氏。この格好なら一時間でも二時間でも余裕だね!」
そう言うとエト姫はありえない格好で外に出ていったが、十五分ほどですごい顔で戻ってきた。
「無理だった、肌が焼ける! 茅原氏、済まないけど選んでくれないか、長時間活動できそうなやつを!」
いわんこっちゃねー。ずっと日陰にいるならともかく、外で活動するのにそんな格好してたら日差しで死ぬに決まっている。
エト姫の肌は赤く焼けかけていた。紫外線が強いっぽいからサングラスとかも欲しいな。
インテが呆れた顔で日焼け止めを塗ってあげていて偉い。と言うか後で全員に塗ってもらおう。
ちなみに俺の服装は、ネズ耳帽子とラッシュガード、ノースリーブワンピースにサンダルである。スカートなのが気に食わないが、尻尾がついてて思うように動かせるのは楽しい。
おタヒとグリセルダは俺を見てニコニコしているので、多分二人には許されたんだろう。
俺は適当にエト姫のために服を選びながらインテに話しかける。
「なあ、インテ。エト姫っていつもあんな感じなの?」
「……残念ながら左様でございまして、服はいつも侍従やジュスティーヌ様がお選びになるか制服なのであまり問題にはならなかったのですが……暑がりですぐ脱ぎたがるのですよね……」
「そっかあ……」
好きな人のプライベートって知らないほうがいいこともあるもんだな……。たしかに体型は素晴らしいとは思うが……。
しんみりしつつ俺は服を選んだ。センスはないので自信はないが、活動はできるだろう。
サンダルとワンピース、そしてUVカット素材のケープと麦わら帽子。これで少なくともさっきよりはマシに動けるようになるはずだ。
「しかし、なんであんなエロ水着売ってるんだろうな」
俺の疑問に答えてくれたのは、横でもう一度お茶を入れてくれていたクリームちゃんだった。
「布地が少ないと、一杯作れて一杯儲かるマウ~! しかも、なんか高く売れるマウ!」
あーなる、原料費的なことね……。言われてみればたしかにそうだな。しかし、どこから布を仕入れているんだ……? てか、買う人はどこにいるんだ?
タイミングを見つけて聞いたほうがいい気がするな。
「チケン、エトワール、あの箱の中の問題も、次の光の柱も見つけておらぬ。探さないとならないのではないか?」
「あー暑くて忘れてたねえ……」
グリセルダからの問題提起に、エト姫はほんのり拍子抜けする返事を返した。
たしかに暑いってだけで能力は多少落ちるもんなあ……。
「もう暑くて何も考えたくないのよね……こんなに暑い場所生まれて初めてよ」
「私もだ……氷系の魔法でも習っておくべきだったな」
「にょわー……」
もふもふの牛頭くんにはこの日差しは応えるだろうな……。
「……なんで茅原氏は平気な顔してるんだい?」
「だって日本の夏もっとあちーもん。湿度も温度ももっとあるし、俺の職場空調ないことも多いし」
そういうと三人共信じられないようなものを見る目で俺を見ていた。40度に慣れると30度が涼しく感じるんだよな。人体の不思議だ。
因みに今はインテ曰く33度。湿度は50%切ってるし。余裕の範囲だな。
日陰で風がある分にはかなり涼しい。
三人とも暑いのが苦手っぽいから、ここで休んでもらう。
その間インテと二人で聞き込みに出ることにした。三人にはまず暑熱順化をしてもらうところからだな……。
幸い、ここは魔法やスキルの消費MP30倍なんて罰ゲームじみた場所ではない。なので、エト姫のスキルで常時通信しつつ、ツッコミなどはいれてもらえるようにして聞き込みに出動した。
まず、日陰で休んでいる長老のロボロフさんに話しかける。耳も髭も尻尾の先もふわふわでモフりたくなるキュートなおじいちゃんだ。
「こんにちは、少しお話良いですか?」
「おお、お若いお客様。なんですマウ」
「このへんって泊まる場所とか、キャンプしていい場所ってありますか?」
「この先歩いて二十分くらいのところにロッジがありますマウ。紙のお金10枚か5ナッツで泊まれますマウ」
「紙のお金ってどんなのか実物見せてもらえますか?」
まさか、渋沢や諭吉じゃないよな? ドル紙幣とかでも困るが……。
ロボロフさんは懐からゴソゴソと紙を取り出し見せてくれた。
「これマウ」
どれどれ……紙幣と言うよりはチケット、と言ったほうがふさわしいサイズのその紙切れには俺の知らない文字で『食料配給券 大人一人分』『物資配給券』と書いてあった。
戦時中かよ……。俺は歴史の授業を思い出して、少し悲しい気分になった。
「なるほどー、これは誰にもらえるんですか?」
「月に一回お祭りを開くマウ。その時に来たお客さんがこれくれるマウ」
刑務所って出入りできないんじゃなかったのか!?
『初耳なんだが?! どういうことだ! このフロアに外部から直接出入りできるなんて聞いてないぞ!』
とエト姫が耳元で怒鳴りまくっている。新規ボイス誠に有難うございます。それはさておき、エト姫も知らんのか……。インテも初耳ですとか言っているし。
「あの服の布とか素敵ですねえ。どこから仕入れているんですか?」
『茅原氏ナイス質問! いいね、うちに転職しないかい!』
うわ、ちょっと心惹かれるけどエト姫はちょっと黙ってて欲しい。
「あれは、お祭りの後に成果報酬で交換してもらうマウ。足りないときは、村の若いのから生贄を差し出すマウ……」
「生贄?!」
なんだその急な因習村要素は……。
「マウ達は罪深い生き物として生まれたけど、神様がそれを憐れんでここで働くことで、その罪を許してくれてると祖父が教えてくれたマウ。必要なものがあるときは、生贄としてひとり差し出すことで代わりに残りのみんなの分の布や宝物が空から降ってくるマウ」
『えっ邪神でもいるの? 私の出番ね!』
『うーむ、詐欺師ではないか?』
『私も詐欺師だと思う。そもそも詐欺師は収監される方なんだよね、ここに』
『えー、邪神はいて欲しいわ、調伏したいもの!』
おタヒは相変わらず言ってることがひでえな……。
皆の会話は放置して、俺はまだ聞き込みを続けることにした。




