第125話 最後の晩餐
「インテ。画像生成みたいなのできる?」
「はい、そういう普通の機能もございますよ!」
「さすがインテだな。じゃあ我が子を食べるサトゥルヌスの絵をモスマンと姫に置き換えた画像作ってそこに投影して」
「……畏まりました」
一瞬で作成が完成し、そこには、まるでゴヤが描いたかのような渾身の力作、モスマンを食べるエト姫の絵があった。
「わ、わ、わ、私はこんな食べ方をしていたか!?」
慌てるエト姫。あ、この声聞いたことないタイプの声だ。ちょっと美味しいと思ってしまう自分のオタク心が嫌だ。
「そっくりだわ」
「そのものではないか」
『ポ……インテ、絵、うまい! すごく似てる!』
『ははあ、インテの姐御は絵もうまいんだねえ……! 美術館にありそうじゃないか』
大絶賛だが俺もそっくりだと思う。
「俺が20代後半の五年の時間と金を全部使って追いかけ続けたお姫様がこれなんだぞ。泣けるだろ……」
俺の目にはじんわりと涙が浮かんでいた。やっぱつれえわ……。
「チケン……もう忘れなさい。もっと楽しいことあるわよ。一緒に投扇興とか舟遊びとか双六とかしましょ……チケンの好きな遊戯でもいいわよ!」
「悪い夢を見ていたのだ。チケン、三十代とはいえまだまだやり直せる、諦めてはならぬ。きっとお前はその分長生きするとも」
「チケン様! インテも応援いたします! お二人のおっしゃるとおりですよ!」
『ポ! 私の故郷六十代若手、三十代こども!』
『旦那にはもっといい相手がいるに決まってるよ! あんなヌシのことなんか忘れな!』
エト姫は愕然とした様子で、インテが投影した画像を眺め続けているばかりだった。
とりあえず、エト姫はウサギヘッドを脱ぐことを辞めてくれるようだった。ありがたい。
ついでにインテがウサギヘッドに会うウサギスーツを作ってエト姫に進呈していた。
うーん、エト姫か……。何か、違うな……。
俺が想像していたやつからは遠いバニー姿すぎる……。
目が覚めたつむぎちゃんは、謎のうさぎがいることを訝しんでいたが、先程いた恐ろしい化け物がいないことに安堵していた。
しばらくエト姫にはウサギでいてもらおう。
「よーし、じゃあ何か飯くうか、腹減ってきた」
「賛成! 今日は何食べるの?!」
「良いな、ここで作るのか?」
「そうだなー、せっかくだし七層に行く前に皆で飯にするか。久々にカレー作りたいんだけど、パックご飯が足りなさそうなことだけが心配なんだよな。なあ、八尺様、鍋で米を炊く方法ってわかる? 鍋で米炊いたことなくて」
俺がそう聞くと、八尺様は嬉しそうな顔をした。
『ポ、できる、簡単。教える!』
キッズ達と婆ちゃんには遊んでてもらい、グリセルダは火を起こし、俺と八尺様は飯を作ることにした。
米と水の量を教えてもらうと、あとはそんなに難しくなかった。俺は水の量を炊飯器の釜に頼ってたから鍋の場合どうするかわかんなかったんだよな。
米を水に浸している間、ペッパードラゴンの干し肉や適当にありあわせの肉を水で戻し、ヴィルステッド村でもらった根菜や玉ねぎを刻んで炒め、鍋で煮る。
そして、カレールーをいれて溶かして完成。カレーは甘口を頼んでおいた。
俺は辛口でも行けるけど、おタヒもつむぎちゃんもいるしな。
米も水をセットしたあとは蓋をして沸騰したら吹きこぼれないような火加減で炊くだけだった。しかも、炊飯器より速い。もっとプロの技がいると思ってた。
「あ、あの美味しい汁じゃない!」
「カレーだー! つむぎカレー好き!」
匂いにつられて完成と同時に皆が集まってきた。足りるかヒヤヒヤしていたが、案外八尺様もターボばあちゃんたちも少食で、俺もおタヒもつむぎちゃんも食べる量はキッズなのでどうにかなった。
「では食べようか」
心なしかグリセルダも美味しそうに食べており本当に作って良かった。
しかし、エト姫が手を付けず後ろで鎮座していた。
「あれ? エト姫食べないの?」
「食べて良いのか?」
「いいだろ、そりゃ。カレーや米が嫌いなら無理には言わんけど」
「……いや、嫌いな食べ物は存在しない。いただこう」
モスマンよりは人間の食い物だと思うんだが、食の好みは人それぞれだからな……。ビエネッ太さんとかアイスを主食におかず食べてたし。
「このかれーって汁美味しいわね、作り方を都に持ち帰りたいわ!」
「これはカレールーを作ってる食品会社が偉大なんだ」
「まことに美味だな。昨日のアレとは比べ物にならぬ」
流石にレーションとは比べないで欲しい。
ペッパードラゴンの肉がいい仕事をしている、というのもあるとは思うが。
あれが日本にいる動物なら絶滅するまで食い散らかされるだろうな。そのくらい美味い。
『ポ! チケン料理上手い!』
「おねえちゃんカレーありがとー! ようちえんのカレーくらいおいしい!」
『ほんとだねえ、旦那、これは美味いよ』
「ありがとう、お世辞でも嬉しいなー」
俺が照れてニヤニヤしていると、エト姫が難しそうな顔をしていた。
「これが……これが一般庶民の食事なのか……?」
「口に合わなかったか? ごめん、俺庶民の食事しか作れなくて……」
「あまりにも……あまりにも美味すぎる……何か薬物でも入っているのではないか? こんなに旨味がある食事などなにかの依存性があるのでは? 危険すぎる!」
言い出すことがマジでエト姫だった。
ゲーム内でもあったな、普段食ってるのが栄養パックで、他の人にはゲロマズだったっていう話が……。
そして、主人公の飯で食事というものの良さを知るという。
これ、現実のエピソードだったのかよ……。栄養パックじゃなくてモスマンな分現実のほうがひどい。
「旨味があっても食べすぎないように自主的に律していくのが人間からな。地球での価値観だからそっちの人間がどう思うかはわかんないけど」
「なるほど、常に食べすぎないという試練と戦っているのか……! 地球というのは戦いの星なのだな」
うーん、言うことが大げさだが、モスマンに比べりゃあのレーションだって美味いと思う。逆にどんな味か気になってきたな、モスマン……。
「そういや、スフォーのおっさんがカブトムシ食べたがってたな」
「ああ、虫は捕らえるのが楽で栄養たっぷりでタンパク質やアミノ酸が充実しているからな! 潜伏中の食事にぴったりなんだよ! 浄化スキルがなければ生食できないのが問題だが、我ら星間司法庁の前線活動職員は全員そのへんのスキルは持っている! 安心したまえ!」
エト姫は虫食を熱く語っていた。なんか、随分マッシヴな省庁だな……。
そしてそれを冷たい目で見るおタヒとグリセルダ。警戒しているのが見て取れる。気持ちは解る。
俺、エト姫が司法官とか言うから弁護士とか裁判官みたいな立場の人を想像していたんだけど、どっちかと言うとグリーンベレーとかレンジャー部隊とか、そういう感じのやつっぽい。
ベア・グリルス姫って仮称、あながちハズレでもなかったな……。
見かけだけならSSRの美人なのに、あの食いっぷりは夢に見そうだ。
「でも俺やつむぎちゃんの前で虫喰うのはもう辞めてくれよな、マジで怖いから」
「……心に留めておこう。反省している」
食後にお茶を出すと、それに対しても感動していた。褒められたグリセルダはやや嬉しそうな顔をしていたのが何よりだった。
しかし、テオネリアの食生活マジでどうなってんだよ。本当に怖い星だ。




