第124話 スフォーの死
やっと泣き止み疲れ果てて寝たつむぎちゃんに配慮し、インテは小声でスフォーのおっさんの最後を語り始めた。
「スフォー様がこのダンジョンにいらしたのは、実はファビエ様のお誘いでした。久々に一緒に誰もいない場所で昆虫観察でもしないか、というスフォー様のお人柄を知り尽くしたお誘いでございました」
……わかるわ。数時間しか一緒にした時間はなかったけど虫が好きすぎたもんな。おかげで俺はメープルオオカブトなんか食わされたわけだが。
「ああ……スフォーなら罠とわかっていてもそれは引っかかるであろうな」
白兎(エト姫)はうさぎの着ぐるみの頭で頷いた。
「もちろん罠でございまして、中に入るとファビエ様は居らず、しかしそれを気にすることもなく大きなカブトムシを探して歩いていたのです。一応、古いものでしたがダンジョンのガイドブックもありましたのでモンスター対策はしておりました」
ああ、あれな。初版が600年前とかいう古文書のやつ……。
「しかし、気がつくと後ろからいないはずの一角鹿がスフォー様の背中から心臓をずっぷりと貫いており……」
インテは深い溜め息を着いた。インテはカバンなので呼吸をしないはずだが、そういう気分だったんだろう。
「スフォー様が緊急治療キットを使おうとしたその時、数百メートル差向こうにヴェレル氏が居りまして。それで、緊急治療キットよりも魂の保護を目的として結界を張りました。この結界は内部にある魂を正常に維持し、変質を防ぐための目的のものです」
「スフォーは自分の命よりも魂の変質を防ぐ方を選んだのか」
エト姫が確認するかのように質問する。
「左様です。このダンジョンは特殊な立地にあるため死んでも数百年は魂がとどまり続け、所定の手続きを踏むことにより肉体を復活させることができます。元々、このダンジョンは制作者の『ゲームのような激しい冒険と臨死体験をしてみたい!』という強い要望で作られたものでございまして……」
すごい金持ちもいたもんだな。明らかに変態じゃん……。
「おかげで、ヴェレル氏からの魂の干渉はなかったのですが、スフォー様は結果としてお亡くなりになりました。そして、ジュスティーヌお嬢様の救助を待つことにしたのですが中々救助がきませんで……あまりの暇さに持ち込んだ判例典範全1521巻を三周くらいしておりましたね」
50年近いって言ってたもんなあ。
「そこで、ジュスティーヌお嬢様に遣わされたチケン様と、それと知らずに出会い、チケン様に私を託して最下層に向かうように、と命令されて今に至る次第でございます」
そこでインテの話は終わった。そして、エト姫の顔がこちらに向く。あまり俺の方を見ないで欲しい。
「チケン君といったか、詳しい話を聞いても?」
「いいけど、俺の方見ないでもらえます?」
「何故だ」
「夢が壊れるからです」
俺が死ぬほど嫌そうな顔をすると、おタヒとグリセルダと八尺様の刺さるような視線がエト姫に刺さる。
「あんたさっきのモスマン食べてる姿、民に見せられるというの!?」
「絵姿なり写真にして国民に配布したらさぞ話題になるだろうな、虫愛づる姫君よ」
「ぐっ…………」
そう言われてみればそうだな、血税で食わせてるはずのお姫様がモスマンを食らうサトゥルヌスになってたら、皆愕然とするだろうな……。
そして、絶対にウサギマスクを取らないことを条件に俺は話をすることにした。
「まずどこから話せばいいんだ、メテクエの話からか、治験の話からか……」
「前提条件があるならまずそこからでいい、わからない場所は後で質問する」
「わかった」
俺はまず、メテクエというソシャゲの話をする。
ゲームのストーリーはソシャゲあるあるの主人公=プレイヤーは世界を守るために立ち上がるやつ。それを導くファビエや他の味方のキャラクターや、そこに出てきたエトワール姫が性格が悪く強い、悪役令嬢タイプのキャラだったことなどだ。
他にテオデジの社長の名前がファビエ・テオワールという名前であること。
テオデジの社長がイケメンゲームオタクだから社長をモデルに作ったキャラがファビエだと言われていることなど、を話す。
そして、そのゲームでエトワール姫というキャラクターにドハマリし、収入と貯金を全部突っ込んでガチャを回していたことなどもサラッと告げた。
「性格の悪い女に金をつぎ込む……?」
自分のことなのに何いってんだてめえ、と言わんばかりのエト姫。
そこは流してほしかったな。
「俺は我の強い女のほうが面白いと思ってるんで……あと普通にデバフ系の戦術と防御系で鉄壁になれるタイプのキャラが好きだからですね」
「まあいい、続けたまえ」
俺の性癖は正直放って置いて欲しい。
引き続きそれで金がなくなったので治験に行ったこと、治験ではVRゲームをして、そこでグリセルダとおタヒを知ったこと、最終的にVRダンジョンにログインしたら戻れなくなって、スフォーのおっさんと出会ったこと、などを話した。
エト姫は、ウサギのマスクをしたまま深く考え込んでいたが、いくつか質問を返してきた。
「チケン君、ファビエ社長ってこんな顔かい?」
エト姫の指さした場所に水色の髪の美男子が映る。
「はい、これをプラチナブロンドにするとファビエ社長ですね。でもこっちはどっちかって言うとゲームの方のファビエに似てます」
「ああ、なるほど……」
「この箱の中の男の顔とは別人?」
「別人っすね。俺、ファンミーティングで社長の顔一回だけ見たことあるけど、別人です」
そう、俺はメテクエの数少ないオフラインイベントは全て皆勤している。
そのために有給も極力キープしてあった。
「なるほど。事情はある程度理解した。それで、その寝ている子供をひき逃げしたのが箱の中の男、ということでいいのかな?」
「つむぎちゃんが言うにはそうらしいです。たしか、つむぎちゃんを殺そうとして探し回っていたと。だよな、エリーゼばあちゃん?」
『ひえっ、急に話を振らないでおくれ! そうだよ、このガラの悪いチンピラはいつもガキはどこだ! 隠し立てしたらお前らも殺すぞ! と銃を構えながらうろついていたもんさ……』
そこまで酷かったのか……。
それでも守ってくれたんだから、根は善良だったんだろうなばあちゃんたちも……。
そして、インテ経由で送ったメモの画像データをエト姫に見せる。多分、その方が俺が説明するよりは速いだろうからだ。八尺様、つむぎちゃん、婆ちゃん達についてのデータがまとまっている。
『……ポ。もしかして、このヌシ、偉い人?』
「多分そう」
『……ポポポ、ねえ、ヌシ、この子、お家に返してあげて』
八尺様は自分ではなくつむぎちゃんの心配をしていた。いきなり奪われた自分の人生だって取り返したいだろうに。
「そうだな、それは請け負おう。ただ、すぐにとは行かない。無力さを詫びるしかないが数日待って欲しい。それと、あなた達の事情を知らずモンスターだと思ってしまって襲ってしまったことも謝罪したい。本当に済まなかった」
エト姫は本当に申し訳無さそうに謝罪した。
『ポ。わかった。私達怪我ない。それはもういい』
エト姫の話を聞いたばあちゃん達もホッとしている。
「そういうわけでこれ、もう脱いでもいいかな」
エト姫はウサギヘッドを指さした。正直、まだ顔を見る勇気がない。
そこで俺は一計を案じた。




