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無職のおっさん、幼女にTSして悪役令嬢とダンジョン最下層を目指す 1/30完結  作者: 芥部


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第122話 チケン、自決する


 俺達はついにベア・グリルス姫(仮称)の元にたどり着いた。


 光の柱はいつもより眩しく輝き、姫の顔は逆光でよく見えない。

 しかし、挨拶をしてみるとまともに返事が帰ってきた。


「……うん、どなたかな?」

「俺は、チケンといいます。あなたを探すようにスフォーさんに頼まれてここまで来ました」


 こちらに近寄ってきていた姫の足が、二十メートルほど手前で止まる。


「チケン君か。……その後ろの方々は? 特にそのモンスターたち、見覚えがあるね。君も私を倒しに来たのか?」

「違います。本当に俺はスフォーさんに頼まれてここに来たんです。だよな、インテ」


「はい! エトワール姫様、お久しぶりです。インテリジェンスパック 1025-εΔ(イプシロンデルタ)でございます」

「……本当にスフォーのカバンじゃないか。なんで子供に仕えているんだ?」


 あれ? エトワール? まさか……。


「はい! 一層の『平和な草原』でスフォー様がお亡くなりになってしまい、脱出不可能になりましたので先日お会いになったこちらのチケン様に私を託されたのです」


「なるほど。で、その子供や女性、ダンジョンに配置されたモンスターはどういうことだ?」


「モンスターの皆様は調査の結果、姫がこのダンジョンに入る前に地球から攫われてモンスターに変えられた人々でございまして。翻訳ツールでこちらのチケン様がコミュニケーションを取り、調査した推測でございますが」


 インテの報告は淀みなく、それを聞く女性はモスマンやレプティリアンを襲って喰い殺す化け物とは思えないような冷静な声だった。


「ふむ……で、その女性と子供二人は?」

「いつの間にかダンジョンにログインされていた皆様です。こちらのグリセルダ様とおタヒ様については詳細が判明しておりませんが、こちらのつむぎ様は地球の日本で交通事故にあいまして、おそらく隠蔽のためにダンジョンに投入されたということが判明しております。こちら、犯人は、その……」


 言い淀むインテ。


「何故動揺している?」

「その、それが……つむぎ様をひき逃げしたと思しき犯人は、ファビエ、を名乗っておりまして……」


 やっぱファビエって重要人物なのか?

 あれ? そういえば、俺は実在するファビエを一人だけ知っている。ゲームオタクの金持ち外国人、テオレア・デジタルエンターテインメントの社長が、ファビエ・テオワールという名前のはずだ……。

 イケメンだから社員がキャラのモデルにしたとかいう話で……。箱の中の男とは全然似ていない顔だ。


「ファビエらしい行動はあったか?」

「スキル【複製デュプリケイト】を使用しておりました。こちらの収容ボックスの中に沈静化して収容しております」


 インテは触手を伸ばしてボックスを姫のもとに押し出すと、姫の足元にすべらせた。

 箱を見て、逆光の姫君は深くため息を着いた。


「ああ、なるほど。それは……言い逃れはできまいよ。事実関係の記録はしてあるか?」

「勿論でございます」


 足早に近づいてくる姫。


 まるで空のような水色から濃い青へのグラデーションのつややかな髪。

 深い宇宙のような、濃い青の瞳。鋭く端正な顔。

 純白のスーツに、真っ白なブーツ。


 そして、片手にむしられたと思しきモスマンの腹部がある……。

 モスマンの一部からは、ドロリとした粘液質の液体がゆっくりと流れ落ちていた。


「なるほど、ある程度は理解した。詳細は後ほど聴取する。チケン氏といったか、申し訳ないが今は食事中でな。後ほど詳しい話を聞かせてもらっても構わないかな?」


 俺の前にしゃがみ込み、俺に声を掛ける姫。声をかけつつも、よほど空腹なのかモスマンをもぐもぐと食べる姫君。


「……え」

「エ?」

「エト姫…………」

「うーん? 何故そのような名で私を?」


 俺の頭はまた破壊され始めている。

 自制が聞かない。あまりにも、あまりにも、あまりにも見覚えがある。


 この十年に限っては一番見た顔。


「すいません、不躾とは思いますが、ちょっと叫んでみていただけませんか。『なんだ、ゴミのくせに口があるのか、さえずるな』と、犯罪者を見た気持ちで」

「うん? まあ良いが……なんだ? ゴミのくせに口があるのか。さえずるな」


 間違いなかった。数千回、数万回聞いた声。


「うわあああああああああ! 俺はもう駄目だあああああああ! 死にます! 今死にます! 思い出がきれいなうちに俺は死ぬうううううう!! もう耐えられない!」


 俺は一瞬でグリセルダに近づいてホルスターから拳銃を抜いてセーフティーを外す。


「これは夢! 絶対に夢! 死んだら目が覚めて俺はアパートか実家で目を覚ますはず!」


 自分に言い聞かせ俺は銃を自分に向けた。

 よーし、グッバイ、ナイトメアワールド。

 俺のエト姫が蛾を襲って食ってるとか、あまりにもひどい夢だ。

 早く現実に戻らなくてはならない。目が覚めたら俺は無職ではないし、メテクエもサービス継続してるし、貯金も半分残ってるはずだ。


『旦那?!』

『ポ?!』

「チケン、落ち着け!」


 皆はそう言うがこれは夢だからね。早く起きて現実に帰らないと。


「イメトレ終わり! また来世!」


 イメージトレーニングよし! いざ!


「チケンダメだってば! あっ、そうだ。【精神異常回復サニティ】!」


 おタヒが消費30倍をものともせずスキルを使うと、俺の意識は反動でブラックアウトし意識を失った。




 次に目を覚ましたのは何分後かわからない。


「あれ? おはよう……何か悪い夢を見ていた気がする」


 久々に地面で目を覚ました。見慣れたおタヒとグリセルダと牛頭くんが心配そうに俺を見つめている。ホッとしているイツメンの顔。

 そして、八尺様の膝の上に俺はいた。優しい。嬉しい。

 よかった、さっきのは夢だった。


「どんな夢を見たのだ?」

「俺のエト姫……五年の年収のほとんどと貯金を全ツッパした最推しのエト姫が蛾とトカゲを主食にする実在する人物で、俺の眼の前でモスマンをバリバリ食べてるとかいう最悪な夢だった……」


 グリセルダが心底俺を憐れむ顔をしている。嬉しい、ご褒美だ~!

 おタヒは心底俺を馬鹿だと思ってる顔をしている。照れるな~。

 そして、横から誰かが顔を見せた。


「ふむ……どういうことだ? たしかに私はエトワールだが」


 硬そうな蛾の頭をバリバリと噛み砕くエト姫。

 口の周りには蛾の体液がついていて……これが現実であると俺に知らせており……あとモスマンを潰したときの匂いがエト姫から漂っており……。


「ぎゃああああああああ! やっぱり死ぬ! ナイフ! 俺のナイフ!」

「【精神異常回復サニティ】!」


 俺は現実に耐えられず二度目の発狂をした。

 おタヒがすかさず魔法をかけてくれて冷静さを取り戻す。

 二度目なので致命傷で済んだ。


「ちょっと、エトワールとやら! 面でもつけていなさい! チケンがおかしくなるでしょ! あとそんなモノ手づかみで食べるんじゃないわよ!」

「それは私に責があることなのか?」


 エト姫はバリバリと音を立てつつ何かを飲み込む音がする。しかし、グリセルダが俺の顔を手で隠し、それを見せないようにしていた。見ていたら多分発狂するだろう。


「お前に責がなくとも、見るとチケンが狂うからな……。何故かは解らぬが対症療法しかあるまいよ。それに、姫ともあろうものが人前でそんなものを食べるべきではなかろう」

「しかしこれは栄養が豊富でだな、アミノ酸とタンパク質、ビタミンも水分も豊富で」


 エト姫がそう言うと、今度は別の騒動が始まった。


「わああああああああん! ママー! おばけいる、怖いよー! ママ助けてー!」


 モスマンをバラして食べているであろうエト姫を怖がったつむぎちゃんがギャン泣きしていた。まあ、怖いよな……。


 モスマンだけでも怖いのに、その死体を調理もせずにむしゃむしゃ食べながら近寄ってくる美女……。


 いや、美女とかそんなの関係ない、巨大な蛾を丸かじりしてるのがこわいんだ。

 我が子を食らうサトゥルヌスを彷彿とさせる食べ方だからな……。


「うーんやっぱり栄養のある味がする、必須アミノ酸やマグネシウムの味は良いね」


 エト姫は呑気にそう言っているが聞いているだけで気が狂いそうだ。


 どうしよう、俺はとんでもない世界に紛れ込んでしまった……。

 俺のエト姫が、4桁万円前後と私生活の全てを注ぎ込んだ俺の推しが、こんな……こんな……


 脳の過負荷で俺はまた気を失った。





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更新はこちら!↓

無職のおっさん、幼女にTSして番外編
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― 新着の感想 ―
まぁだいたい想像はついていた。 想像のうん倍ひどい結果だった。 チケンくん、なむー。
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