第112話 八尺様対策会議
おタヒが寝ている間、コーヒーを飲みつつグリセルダに八尺様のことを話すことにした。グリセルダにもインスタントだがコーヒーを淹れて手渡す。
「ふむ、八尺とは何だ?」
「ちなみに”八尺様”までが名前なんだけどな。八尺ってのは長さの単位で、大体8フィート。身長がでかい女なんだが、子ども、特に男子を狙って取り憑いて殺す、って怪異なんだ。が、なんかイメージと違うんだよなぁ……」
そう、あの八尺様には違和感がある。ターボばあちゃんもそうだが、言葉を理解するまでは分かる。
「何かとは?」
「そもそも怪物が意思疎通できるのっておかしくねえか?」
「……インテ嬢のお陰で言葉が通じるからでは?」
「言葉が通じるだけで意思疎通ができるなら、知性の高いモンスターは襲ってこねえだろ」
「……確かに」
俺は少し冷めたコーヒーを飲んだ。五臓六腑にカフェインが染み渡る……!
「そもそもさ、俺達ばあちゃんの運転でわりと疲れてたし、おタヒなんかぐったりしてるじゃん。そこでエリーゼばあちゃんと八尺様がタッグを組めば俺達を殺すのも余裕だっただろ?」
でもそうしなかった。おタヒの身を案じてセーフエリアで休めとも言ってくれた。
俺もおタヒも確かにキッズにしか見えないが、ただの子どもがここまで来られるわけがないのだ。
「ふむ……つまり、ただの親切な怪異ということか?」
「としか思えないんだけど、グリセルダ的にどうだ?」
「確かにそうだが、戦闘が好きで全力で戦いたいから回復してから全力でかかってこい、みたいな変わり者もいるからな……。ベルコフがそう言う男だった。まあ何十回も撃退したわけだが」
「マッチョ先輩マジ臭かったな……」
そう言うと、グリセルダは顔をしかめた。
「飲食中にそう言う事を言うものではない」
マッチョ先輩汚物扱いで草。
でもグリセルダ地味に酷いな。そう言う扱いは俺相手にしてほしい。
……いや、汚物は嫌か。俺だって『清潔さ』には気を使っている。『清潔感』に直結しているかは謎だが。
「まあそれはともかくだ、おタヒが起きたら話し合いをするのが良いのではないか? なんだかんだで話し合えば平和に終わる可能性もある」
「そうだな……エリーゼばあちゃんも話してみたら話の分かるばあちゃんだったしな」
「インテ嬢、このダンジョンのモンスターは通常意思疎通ができるものなのか?」
「いえ、まさか。言葉が通じるのは多少いますがそれでも基本的に襲ってくるはずです。意思疎通ができるのはかなりレアですね」
いくら同じ土俵で戦ったとは言え、まさかターボばあちゃんと意思疎通ができるとか思わんかったしな……。
案外、八尺様もどうにかなるかも知れない。
その後ゴロゴロしているうちにおタヒが起きたので、夕食を食うことにする。
テーブルの上には携帯食料があったが、試しに食べてみたが甘くもなくしょっぱくもない、無味無臭のクッキーという感じで食欲がわかなかった。
インテになにか夕食向けの食べ物を出してくれ、と頼むとヴィルステッド村で作ってもらった美味しいシチューを出してくれた。鍋一杯あったので三人分取り分けてた。
あと十人分くらいはありそうだ。
あと、パンを出してチーズ、干し肉などでファンタジーみの強い食事になった。
「うーん、麵麭も悪くないけど、この汁なら昨日みたいに白飯が良かったわね」
「あー、シチューにご飯も美味いよな。じゃあ、今度はおタヒの分はそうするか」
和風の国にお住まいのおタヒはやはり白飯が恋しかったようだ。今度塩むすびでも作ってインテの中につっこんで保存しておくのが良いかも知れないな。
そもそも、パックご飯にも限りがあるので炊飯器を使わずに俺が飯を炊けるか、という問題はある……。
米はあるんだが、肝心の俺の調理技能がな……。
俺も白飯は恋しいがそこそこの味で栄養とカロリーが取れればあまり問題はない。
メテクエガチャのための節制で鍛えられた能力である。人生で大切なことは全てメテクエが教えてくれたのだ……。
食後、グリセルダがインテの指導のもとに緑茶を入れてくれた。
正直俺がいれるよりも十倍旨く、そしてペットボトルの茶の遥か上を行く香り高さだった。あったかい緑茶をうまいと思ったのは久々だ。
「久々に美味しい茶を飲んだわ!」
「喜んでもらえて何よりだが、こんな時間に茶を飲んでいいのか? 寝られなくなるのでは?」
「大丈夫よ! 寝る直前に飲んでも特に問題ないわ」
「日本人はカフェイン耐性が強めだって言うし、東の国の人間もそうなのかもな」
「ふむ……それは羨ましいな。茶は好きなのだが夜に飲めないからな」
「俺は酒が強いほうが羨ましいな」
結局人は、己にないものを欲するのだ。
ちなみに俺が酒を飲んでみたい理由は、なんかマイナス20度のビールとか、はやりのストロングな炭酸の酒を飲んでみたいという理由だ。法律的には飲めるんだが、記憶をなくしてしまうのはよろしくない。
俺は炭酸飲料が好きなので飲めないのに気になってしまう。
「そういえばおタヒ、おタヒの国にも八尺様とかいた?」
「あのエリーゼお婆ちゃんのお友達よね? いないわ、強いて言うなら身の丈七尺の天狗とかはいたわね、色々あって私が退治したことになってるんだけど」
「ことになってる?」
気になる言い回しだったので詳細を聞いてみる。
「天狗だと思ったら渡来人だったのよ……船が難破して東の国にたどり着いたの。面白いから色々話を聞いたんだけど、無一文で帰れないらしいから私の小遣いでお土産を持たせて船に乗って帰れるように手配したわ。あのあとちゃんとたどり着けたのかしら……」
意外におタヒが人格者だ……。見知らぬ外人にぽんと渡航費を出せるあたりさすが皇女兼斎王の凄みがある。俺には無理です。
「おタヒさ、その天狗以外に退治した化け物っていっぱいいるだろ。その中で、意思疎通のできた話し合いに応じられるような人格と知性のある化け物っていた?」
「うーん、意思疎通できるふりをするやつはいても、本物の化け物はやっぱり意思疎通なんかできないわ。まあ、人間だって意思疎通できないやつはいっぱいいるけどね……」
ヒトコワはともかくとして、やっぱり意思疎通のできる人外は少数派なんだな。
これなら明日、八尺様と話し合いをすればなんとかなるかも知れない。
その後、明日の準備をして俺達は睡眠を取ることにした。
何故か今日もグリセルダとおタヒに挟まれて寝た。二人が寝息を立てはじめた後も、俺は一時間ほど緊張と興奮で寝付けなかったのだが。
やはり、今がチャンスだ。例の話をインテにするしかない。
(インテ……一生の頼みだ。この光景を写真に撮って俺のスマホに転送してくれないか……)
(ダメです)
(できれば俺の存在を消しゴムマジックで消して画像を転送してほしいんですが)
(駄目です)
(そこをなんとか)
(だーめーでーすー!)
交渉は決裂した。やはりダメか……。
インテのコンプラ意識の高さには目を見張るものがある。たまには俺のためだけに緩めてほしいけど、そうも行かないか。
このままでは寝付けないので、俺は別のベッドに移って寝ることにした。ありがとう何故か五つあるベッド。
これで、やっと落ち着いて眠れる……!
いくら女児ボディーとは言え心はおっさんだ。
存在自体がセクハラにならないように気をつけていきたい。




