第11話 連鎖する悲劇
「茅原さん、お疲れさまです。やっぱり臭いとかしました?」
「しましたね、作中のシナリオと、作り込みのせいかな。最後も血なまぐさい気がしたし……」
医師は不思議そうな顔をしながらメモを取っていた。
「とりあえず貴重なデータですので、午後もプレイしていただけますか?」
「はい! やります!」
もちろん貴重なデータのためではない。
二次元だとも解っている。それでも、このグリセルダというキャラが救われるところが見たい。できれば自力で。
そう思ってしまったのだ。
そうと決まったら腹ごしらえだ。
実際には機械に繋がれ寝っ転がっていただけなのだが、ゲーム内の俺は剣術の修行をしたり走り回ったりしていた。そのせいか何故か猛烈に腹が減っていたのだ。
昼ご飯の洋風ランチも相変わらず美味だった。
俺の舌は貧乏舌なので何を食っても大体美味いんだが、こんなに美味い飯に慣れてコンビニ飯や雑な自炊に耐えられなくなったらどうしよう……。
そんなしょうもない心配をしてしまう。
食後はナースステーションの前の談話室でお茶を飲みつつSNSを眺めたり、いつものデイリーを消化して、SNSに書き込みをした。
ここに来てから日課のメテクエのスコア報告書き込みがないのでフォロワーに若干心配のリプを貰っていたのだ。
メテクエBOTとか時報って言われてたもんな、俺の書き込み……。
『ちょっと仕事で忙しくてする暇なくて、落ち着いたらまたやります!』と書き込んでおいた。
すると『えっ、チケさんがメテクエ休み!?』『お体大丈夫ですか!?』と更にいくつかリプが来た。
サービス開始から毎日、どんなに仕事が忙しくても睡眠時間削ってでも、何ならサ終してもメテクエはやってたから……。
『体は本当に大丈夫です!』とダメ押しして書き込みをしておいた。
ふと視線を感じて振り向くと、ガチ勢らしい看護師さんが、俺のことを腕組みして微笑みながら見つめているのに気がついた。
仕方がないだろう。初見の悲鳴ほど栄養のあるものはなかなか無いからな……。
俺の悲鳴で良ければ存分に味わっていくがいい。
俺もオフライン版で始めたメテクエ初見勢の悲鳴を味わいまくってたからその気持は分かるのだ。
昼休みが終わる前に軽くストレッチをし、俺は次の攻略プランを立てた。
ヒロインも駄目、王太子もマッチョも無理。他の攻略キャラならグリセルダたんの顔面筋を緩めることが出来るかも知れない。
攻略サイトを見ることも考えたが、それは最悪家に帰ってからでもできる。
ローレンツェン王国物語は俺の持ってるハードでも販売されているので、3DVRの臨場感こそないものの普通に遊べる。画質は落ちるけど。
なので、今は自力攻略にこだわりたい。グリセルダルートを開拓したい一心だった。
明日からは別のゲームでテストをする。なので、グリセルダたんとVRで面会できるのはこれが最後だ。俺は気合を入れて午後に挑んだ。
が、どれもこれもうまくいかない。
グリセルダたんは王太子の婚約者だ。なので、ものすごく身持ちが固い。
男と話すときは常に塩対応。もしくは無視されるのがデフォ。
女キャラも駄目。ヒロイン以外でもお茶会もお散歩もショッピングも全部お断りされる。
剣術部の女性メンバーが少し剣筋について教えてもらえたくらいで、他のキャラは全滅。
その女性キャラは結局同じ剣術部のメンバーとのハッピーエンドだった。
学校の教師や用務員、王太子の侍従、色々なキャラでスタートし、1ポイントでも好感度の上がりそうな行動を片っ端から試してみたが何をしても好感度の上がる音がしない。
俺はこういうの大好きだが、残り時間を考えると焦る。
俺は初心に帰り、結局ヒロインならどうにかなるのでは? ということで、王太子の侍女になるルートを目指すことにした。
攻略サイトは見ない、と言ったが最初のルート全開放最短コースを調べた時に目に入っていたのだ。
しかし、侍女ルートで俺を待っていたのはさらなる悲劇だった。
ヒロインチケンちゃんは王太子と王太子妃グリセルダの二人に仕える城の侍女になるのだが、その過程で他国の使者と恋に落ちてしまう。
(俺は勿論嫌だあああああ! と絶叫したがゲームには一切影響しなかった)
このゲーム、ある程度進むとルートが固定されて一本道になるんだよな……。
俺はバンバンSKIPを叩く。出てきたシナリオも0.5秒で把握し、躊躇なくスキップして進めてく。俺、ゲーム限定だけどシナリオ読むの超早いんだ。
このルートは最終的にヒロインと恋に落ちた使者が隣国のスパイだった。恋に絆されたヒロインは悪気なくドバドバと機密情報を隣国に流す。
最終的に革命が起き、王太子を逃がそうとするグリセルダは、剣を持たない民衆に囲まれて、なぶり殺しにされた。
王太子は逃げ延びたが妻を盾にしたクズの王太子として悪名を高めた結果逃げた先で死ぬまで男の風上にも置けないクズと言われて死ぬまで嘲られ続けた。
なのに、一番の原因であるヒロインは共和国体制になったきっかけとして『光の愛し子にして共和国の聖女』と言われ、隣国の傀儡になったことに気が付かず、その後は平和に暮らしたのだった。
これが、俺の体験した『革命の聖女』エンディングである。
なんかさー、確かにそういうの現実にありそうだけどさ。
ゲームでそういうのは求めてねえんだよ!!
「くっそおおおおおおおお!」
俺は思わず叫んでしまった。これが治験バイト中であるにも関わらずだ。
不思議とグリセルダが死んだ時に流れた血の匂いがまだ鼻に残っているような気がする。
グリセルダは死ぬ時に、殴られ続け、石をぶつけられ続けても表情を変えず、ただ諦めきった目で王太子が逃げ切る時間を稼ぐ覚悟をしていた。
あんなクズ守らなくてもいいのに……。
「すみません、ギブアップします。今日は終わりにしてもらってもいいですか……」
まだ45分ほどあるはずだが、俺のメンタルがもう終わりだ。これ以上このゲームを続けることは出来ない。
つらすぎるシナリオを連続で摂取したせいで心身の疲労が限界だ。
程なくして世界は暗転、そして現実に復帰する。
俺は安堵のような、がっかりしたような、複雑な気持ちでため息を付いた。
たかがゲームだが、VRだからか3Dだからか、臨場感がすごくて心に来るものがあった。




