第107話 ターボ家の老婆
今回はおタヒの新スキル【ターン延長】が効いているのであと数時間の間【エリア鑑定】が発動したまま歩ける。
文字情報が鬱陶しいと言えば鬱陶しいが、あるとトラップなどが簡単に発見できるので外すという選択肢はなかった。
『ブービートラップ/ 踏むと仕掛けられたトラップが爆発する』
……早速出てきた。執念深いな、追い剥ぎ。
「インテ、このエリア鑑定の情報二人にも共有することできない?」
けっこう踏んでいい場所と行けない場所がランダムに入り組んでおり説明が面倒くさい。必ず罠にかけて殺すという殺意がひしひしと伝わってくる。
これ、おタヒがターン延長取らなかったらやばかったな……。
「畏まりました、では皆様、こちらのゴーグルを装備なさってくださいませ」
簡素なプラスチックっぽいゴーグルを渡すと、二人は驚いていた。俺と同じものが見えているとすれば困惑するのも無理はない。
「これがエリア鑑定で見える世界か……思ったよりも罠が酷いな」
「えー……どこを歩けっていうのよ、これ牛頭くんを移動用に変えたほうが良いかしら?」
「我らはどちらでも構わぬ、消費MPと相談せよ」
「……うーん、計算してみたけど無理そう。形態変更にもMPを使うから。でもあそこ、飛び越えられる自信がないわ」
数十センチの範囲で踏むと爆発するエリアがある。
そして、それがランダムに配置されており1つが爆発すれば周囲の爆発物が誘爆でとんでもないことになりそうだ。
真っ直ぐ歩くとどこかでトラップに引っかかるようにできている。
よくできたトラップだが見えていれば何のこともない。
普通に飛び越せば良いが俺とグリセルダと牛頭くんはともかく、おタヒには飛び越えられない絶妙な幅だ。
「グリセルダ、ダメそうなところは運んでやってくれるか……?」
「そうだな、任せておけ」
「ありがとう~! グリセルダ大好き!」
おタヒとグリセルダが仲良くしていると俺も嬉しい。目が健康になる……!
最初に会った時は渋々運んでいたのに、今は全然嫌な顔をしないあたりこの数日で一気に親睦が深まっている。気がする。
トラップ設置ゾーンを通り抜けていく最中にモンスターが出たら最悪だな、と思っていたのだが幸いトラップ設置ゾーンにいる間は出てこなかった。
15分程そろそろと歩き、トラップゾーンを無事突破する。流石にここで大爆発に巻き込まれると完全回避とか言う次元じゃないからな……。
そこから30分ほど歩いたら給水所を中心にして左右に道が別れていた。
せっかくなので水を飲みつつ休憩しながらどちらに行くか相談する。マップを見るに、どちらからでも中央部には行ける。
「じゃあ右から行きましょ!」
「なにか根拠でもあるのか?」
「私が右利きだから!」
おタヒの言うことはいつも無茶苦茶だな……。
「どちらからでも行けるし、良いのではないか」
「右大臣と左大臣だと右大臣のほうが偉いんだっけ?」
お雛様の歌であるよな。赤いお顔の右大臣とか。右と左の大臣がいたはずだ。
「いや、それは左大臣のほうが位が高いわね……」
「……左にするか?」
「うん……」
うーん、いい加減で面白い。グリセルダも笑いを噛み殺している。しょんぼりしたおタヒと、なんとなく楽しい気持ちになった俺達。
左に曲がって歩いていくと、今度はサイレンの音がなる。
サイレンの音って室内で聞くとやや不穏な感じがするな……サイレンの音が鳴り止んで数秒後、空中から謎の生き物が現れた。
赤い目の白髪の老婆が十人ほど四つん這いになり、俺達を囲み威嚇している。
高速移動をしながらあおり運転でもするかのように高速でジグザグに進行方向に移動してはちらちらこっちを見てニヤニヤする。
「ヒーッヒッヒッヒッ!」
「ヒッヒッヒ……」
「えっ、何あれ……襲ってこないのは良いんだけど……」
「何の化け物だ……?」
二人は困惑している。しかし、前回と違い今回はエリア鑑定があるのでモンスター名もきっちり表示される。
高速で動いていて、名前表示も高速で動いており確認しにくい。
しかし、ゲームで鍛えた動体視力を持つ俺には余裕だ。
「えーと何々……。『ターボばあちゃん/ 高速で移動し遭遇者を煽ってくる』、か……」
そこまで呟いて、俺は叫ぶ。
「なんでだよ?!」
思わずセルフツッコミをした。
「ターボばあちゃん……?」
「ターボとは何だ……」
「チケン様、インテも初見でございます。ご存知なのですか?」
「いや知ってるけど……ターボばあちゃんて書いてあるよな? なんでこんなところにいるんだ!?」
「知らぬ……そもそも誰の祖母だ?」
なんでこんな場所に新し目の、地球発の、日本の妖怪がいるんだよ!?
「ターボってのは……ええと車……機械で動く馬車みたいなやつなんだけど、それを高速で動かすための部品だ。高速道路とかに現れて高速で走って煽ってくるからターボばあちゃんって言われてるんだが……」
「……それは有害なのか?」
「邪魔そうではあるけど……」
まあ確かにそう。襲ってくるとかそういう話は聞いたことはない。
時速100キロで煽られて事故った時に無事でいられるか、というのはともかく。
「いや、おかしいのはそこじゃない。このモンスターが俺の国で生まれたのはこの50年くらいの話だと思う。そんな新しいモンスターが何故こんな場所にいるんだ?」
「……それは後で四方達に聞くしかなかろうな」
こうして困惑してる間にもターボばあちゃんの群れは俺達を取り囲み、四つん這いになって下から見下すかのような視線でニヤニヤ笑っている。ちょっとムカつく。
襲ってはこないのだが足元をジグザグ走行してとにかく鬱陶しい。
そして気がついた。なんかこのヒヒヒ、という笑い声に何かパターンがある気がする。
「インテ、このターボばあちゃんの言ってること解析できる?」
「はい! ええと『おやおや、のろまな囚人共だねえ、ろくに走れやしないなんて』と言っておりますねえ……」
なんだ、その走り屋みたいな謎の価値観は……。でもなんかカチンときた。
「おい、ターボばーちゃん。つまり俺がお前より早く走ったらこの鬱陶しいグルグルをやめるってことか?」
「ヒーッヒッヒヒヒヒヒヒ!」
「ヒヒヒヒ!」
「ええと、『こんなガキに出来るもんかい』『面白いギャグだねえ』と言っていますねえ」
あ、何かちょっとムカついてきた。俺はこの刑務所で一番素早さを極めた男(?)である自覚がある。耐久力や器用さはさておく。
「おい、ターボばあちゃん。この先に高速で走れる通路はあるのか?」
「ヒヒ……」
「『ついてきな』、だそうです」
「チケン、あまり相手にするな」
「そうよ無害じゃない」
まあ確かに無害だ。鬱陶しいだけだし。
しかし、何か好戦的な気分になった。昨日久々にマ◯カやったからかな……。あと、殺傷しなくていいバトルは気分が楽である。
「うるせー、こんな集団で煽り運転しかできないようなババア共に本物の走りってやつを思い知らせてやる!」
「まあお前がやりたいのなら構わぬが……」
「チケン、意外にアホよね……」
「お心が若くていらっしゃるのですよ、ほら。外見通りに。5歳くらいですかねえ」
そういいつつも二人+インテは付き合ってくれるようだった。
ターボばあちゃんに誘導され着いたのは、巨大なサーキットというか、グラウンドと言うか……。広大なだ円形の広場だった。地図で見るとそんなに大きく見えなかったんだけどな。
「ヒヒヒヒヒヒヒ! 」
「『さあ、ここで思いっきり勝負と行こうか、クソガキ!』だそうですよ」
「クラシックカーは大人しく博物館に入ってろ、令和の速度ってやつを見せてやる!」
俺はターボばあちゃんに宣戦布告をした。
ぜってー勝つからな!




