第104話 風呂キャン撲滅システム
「ああ……また誤解を解けなかった。あとステータスの謎が深まってしまった……」
「何の誤解?」
「俺が女装愛好家みたいな……どこぞのおタヒのやらかしのせいで……」
俺が力なく愚痴るとおタヒがキレる。
「はあ? 私だけじゃないわよ! インテもグリセルダも、もっと見栄えのいい服を着せましょうって言ったら賛成したのよ!」
「私は女物を着せよとは言わなかったが?」
「グリセルダ様に同じくでございます。新しいお召し物は自分が考えるから任せておけとおっしゃったのはおタヒさまでは?」
誰もおタヒには味方しなかった。そんなことじゃねえかとは思ってたんだよ。
はあ……。おタヒやグリセルダは元の俺を知らないから気軽に女装させてこようとするんだろうが、俺は元の自分の顔を知っている。冴えない三十路のおっさんの顔だ。
年齢より数歳老けているとよく言われる。現物を知ってる人が見たら爆笑するだろう。
「しかし、今何時だ、チケン?」
「16時」
「微妙な時間に間食を取ってしまったな。夕食はどうする?」
「どうしよ、まあ軽くにするか」
「私はいっぱい食べる! MP使いすぎてお腹がペコペコよ!」
牛頭くんを召喚し続けるだけでもMP消費してるらしいからな。
じゃあ何か作るか……。
と考えていると、インテが声をかけてきた。
「あ、皆様! この部屋シャワーがございますよ。お食事前に入っていらしては? モスマンの鱗粉がまだ御髪についていたら嫌ですし」
「風呂あるのか、まああるか……」
「入る!」
「私も入るとするか……汗もかいたし鱗粉もついたしな」
インテが洗濯機の横に配置されたボタンを押すと、シャワーブースへの扉が出現する。なんかなんでも隠し要素になってて使いづらい部屋だな……。
「じゃあグリセルダとおタヒ入ってきたらどうだ? 俺は最後でいいよ」
そう言うと二人は素直にシャワーブースに入っていき、その一分後何もせずに戻ってきた。
「チケン! 使い方がわからぬのだが!」
「チケン! 湯船がないわよ!?」
「ええ……ちょっと待ってろ」
見てみるとたしかに何も無い四角い空間がある。上を見ても横を見てもシャワーっぽい設備も何も無い。
よく見ると、俺の目線よりちょい下に取説のようなものがある。
『自動人体洗浄装置/スイッチひとつで簡単に人体を清潔に!』
「なんかボタン押すだけらしいぞ?」
そして、取説の下にはボタンがあったので押した。
「それでは洗浄を開始します!」というアナウンスが流れる。
するといきなりシャワーブースのドアが締まり、一瞬で、本当にどういう理屈かわからないが一瞬でインテの腕のような触手が大量に俺達を取り囲み、一瞬で俺達の服を剥ぎ取る。
「うわああああああ!?」
「ちょっとおおおおおお! 何してんのよ!?」
「チケン何をした!?」
そして温かいがやけどはしない、絶妙な温度のスチームが出てきて上から強いシャワーを浴びせられ、汚れていた頭を触手が一気に洗い、別方向からは泡が吹き出してきて全身を覆う。
「うわーーーーインテこれ止めてくれーーーー!」
「チケン様、終わったら自動で開きますから我慢してください!」
そして、次の瞬間には大量のお湯が上からぶっかけられ、温風を吹きかけられ、怒涛のような三分間が終わり、軽やかな音楽とともに「洗浄終了です! お疲れ様でした!」というアナウンスが流れた。
俺達は呆然として全裸のままである。まだ拭き取りきれなかった水滴が髪からポタポタと落ちてきた。
申し訳程度にバスタオルが三枚落ちてくる。
「……ねえ、なんだったの、これ……」
「何だったのだ、これは……確かに身は清められたようだが……」
「ごめん、うっかりボタンを押したばかりに……」
「まさかこんなな風呂が存在するとは……」
ただ風呂に入るつもりが、なんか全然別だった。ショックが大きい。全裸でいたことを忘れるほどにだ。
いや、風呂キャン界隈にはありがたい装置かも知れないが……。
風呂って何かもっとのんびりしたいし、シャワーだけでも一息つく時間くらいは欲しい。不意打ちだったのもあってやりきれない気持ちがある。
俺達は全裸のままシャワーブースから叩き出され、インテに着替えを用意してもらった。
もはや全裸がどうこうとか騒ぐ気力もなく、黙って出された服を着る……はずが、二人はサクサクと着ているのにこの服どこから開けるんだ?
俺は下着を着たもののワンピースを着ることが出来ずにオロオロしている。
「チケン、ほらこちらに来い」
グリセルダが何も無い、と思われたところからボタンを開けて俺に着せる。
「隠しボタンのワンピースだな、チケンに似合ってはいるが、向いていないな……なにか別の服を調達できれば良いのだが」
隠しボタンの服なんて着たことないから隠しボタンというものの存在を初めて知った。
着心地の良いスルッとした生地の服で、フリルやレースがふんだんに使われている。
心を無にして着ているが、俺を見るグリセルダとおタヒの目が心なしか嬉しそうに見える。解せぬ。お前らのほうがよっぽど見栄えが良いだろうよ。鏡を見ろ。
そして、グリセルダとおタヒの服も軽いワンピースのようで体型が見えて嬉しいが宜しくない。
グリセルダ、出るところが出ているが全身筋肉で引き締まった体格をしてるからシルエットがすごい。
ソシャゲならググプレや林檎の審査に落ちるか落ちないか微妙なラインだ……。
俺とおタヒはまだ未成長なので普通。おタヒは普通に可愛くて似合っている。
良いのか、こんなの見てしまって……。
俺が前世で何らかの徳を積んだとでも言うのか……。
まるでソシャゲのイベントでも起きているかのようだ。
推しが上品なパジャマを着て俺の前でくつろいでいる。
まるで何か男性向けソシャゲのスチル絵のような夢の光景が目の前に広がっている……。
俺はまぶたにこの光景を焼き付けることにした。本当に、スマホが持ち込み禁止なのが残念だ。
女装はこのガチャ天井まで引く代金だと思えば耐えられるな。
天井まで引いたうえで完凸するにあまりある光景だ。
「インテ、今脱がされた服はどうなったんだ? まさか没収なんてされないよな?」
「大丈夫ですよ、明日の朝までにはきれいにクリーニングされて出てくるはずです」
「そっか……もしかして前言ってた予備の服ってこれか?」
「はい! よくお似合いですよ!」
もう抵抗する気も起きなかった。
「チケンやっと大人しく着る気になったのね! 似合うわよ!」
「うむ、真によく似合っている。普段も着てはどうだ?」
「スカートで飛び回るの無理だろ」
適当に受け流して、とりあえず飯を食うことにした。
とは言え、大量のモスマンやレプティリアン、ヒュドラなんかと戦ったりして俺も疲れていた。
なのでインテにレトルトカレーとパックご飯を取り出してもらいお湯で温めてカレーにする。
おタヒはカレーを食ったことがないはずだがまあ大丈夫だろう。
インテいわくキッチンにレンジに相当する温め機能はあるらしいんだが使って爆発したら怖いのであえてお湯で温めた。
それを皿に盛り付けて出すと、意外に好評だった。
「見た目は悪いけど美味しいわね、この汁! 湯漬けみたいに白飯にかけるのも気に入ったわ」
「濃厚なスープを穀物にかけて食べるというのは初めてだが意外に美味だな、スパイスが多いのも佳い」
辛さ控えめにしておいたせいか、意外に喜ばれてよかった。
グリセルダは好き嫌いがないというのはあるだろうが、おタヒも喜んでくれて何よりだ。
久々に食べるカレーはレトルトでも美味かった。
カレーのストックは未だあるはずなので今度食用可のモンスターが出たら焼いて肉を乗せたり、フライにして乗せてカツカレー風なんかにするのも良いかもな。
成人男性だった頃はレトルトカレー1パックじゃ足りなかったこともあるが、今は余裕で足りる。
幼女ボディーは省エネで良いな……。
この体に慣れ始めているのを感じる。
慣れてはいけないとも思うのだが、しょうがない。諦めよう。




