第103話 隠されたもの
セーフエリアは中にいるだけで急速に疲労とMPが回復していく。
試験を受けた甲斐があった……。
一番MPの多いおタヒがそれが顕著で、ベッドの上でまるで温泉に入っているかのようにとろけた顔をしている。しかし、まだ寝かせるわけには行かない。
「おタヒ、起きろ。明日の打ち合わせをするぞ、ほら、ここに座れ」
「ずっとここにいたーい……」
気持ちはわかるんだがな。俺は二人にお冷をだしてやった。
「そういえば、そろそろスキルを振ったほうが良かろうな、今までは最初の1つで充分だったがこれからを考えると」
「そうだなー、俺もそういえば結構スキルポイント余ってるんだよな。なんか役に立つやつ取りたいんだが、【隠密行動】あるから回復系とれねえのがな」
最初は便利だった【隠密行動】だが三人で行動するようになってからはなおさら持て余すスキルになっている。最初は生きると思ってたんだけどな……。
「私は支援系の術を取ろうと思うのよね。攻撃力強化とか……あっ、これどうかしら、【ターン延長】ってやつ! 今かかってる術の効果を延長してくれるんですって!」
「お、いいじゃん。どのくらい延長されるんだ?」
「スキルレベル1で倍、2で4倍、3で7倍、4で10倍、5で15倍らしいわ。もちろん最大の5まで取れるわよ」
「ぶっ壊れスキルだな……」
そこで気がついた。実は隠密行動とエリア鑑定はけっこう持続時間が長い。
エリア鑑定は15分、隠密行動は30分の効果持続時間がある。225分……4時間弱エリア鑑定ができるのは罠がありそうなこのフロアにおいてかなり心強い。
隠密行動に至っては450分。7時間強だ。……とはいえ、この二人を置いて単独行動するようなことがあるのかはわからないが。
「チケン、私はこの【攻撃力強化】と【速度上昇】とやらを取ってみようかと思うのだが、どう思う?」
「いいんじゃねえかな。グリセルダのポテンシャルを活かしてると思う。おタヒのサポートもあったらなお良いだろうな。バフの重ねがけは正義だし。あと必中とかないか?」
人それぞれでスキルツリーが違うのが微妙に不便である。
「【命中率向上】があった。そもそも見えるものを外したことはないが、一応取っておこうかと思うのだがどうか」
「良いと思う、ほら、小銃とかも手に入れたし命中率向上があればかなり遠い敵にも当てていけるはずだ」
二人はダンジョンに慣れてきたのか自分なりの最適解をだしている。
問題は俺だ。スキルではなくステータスに頼る戦いをしているせいで何を取っていいかわからなくなっている。
立ち位置的にはシーフ的な感じだと思うがトラップ解除とかトラップ設置は器用が高くないと取れないんだよな……。攻撃スキルは力が必要だし。ヘイト集中みたいなスキルが有ればいいんだが、俺のスキルツリーにはない……。世知辛い。
「俺も何か取ったほうがいいんだろうけど、何取るかなあ……」
唯一あると便利そうで俺のMPでも運用可能な解毒も、隠密行動の制限のせいで取れないし。
結局【回避率向上】くらいか……。と思ってスキルをポチポチ上げたが、まだスキルポイントはある。
ツリーとにらめっこしているうちに【幸運の祈り】のスキルを上昇させられることを思い出した。
ヴィルステッド村で無茶をしたおかげで普段なら数十日かかるような熟練度溜めが一日で終わったからな……。
あと、アレのお陰でかーちゃんにフィギュア捨てられなくて済みそうだし。助かった。
【幸運の祈り】をレベルアップさせると、効果量が15から20に上がった。重ねがけで40増えるのか、クソつえーな……。
そして幸運の祈りのレベルを上げると取得可能なスキルが増えた。スキル説明を読んでみる。
――――【神頼み】■を5消費して成功する可能性が1%以上あるスキルや攻撃の成功率を大幅に上昇させる。成功の可能性がない場合■は消費されない。スキル使用に伴い失った■は自然回復しない。MPは消費せず使用できる。――――
うーん……めちゃめちゃ強そうなスキルだが、何が消費されるのかわからない。二人+インテに相談してみるか……。
「なあ、なんか幸運の祈りをあげたら【神頼み】ってスキルが出てきたんだけど、スキルや攻撃の成功率がめちゃめちゃ上がるんだが、何が消費されるか書いてないんだよな……」
「えっ、なにそれ」
「詳しく説明文を聞かせてみろ」
俺は先程の説明文を読み上げると、二人も悩む。
「強そうなスキルだけど、消費されるものが何かがわからないのは怖いわ」
「もし魂や寿命ならとんでもないことになるだろうな……」
「やめてくれよ、そういう怪談みたいなの俺苦手なんだよ」
「インテ嬢、何か知っていることはないのか?」
「……大変申し訳無いのですが、守秘義務に抵触する項目ですので申し上げることは出来ません。ただ、チケン様がここぞという場所で使われるにはふさわしいスキルかと存じます」
インテは司法庁長官の鞄だっただけあってこういうところでも地味にコンプラ意識が高い。ただ、俺に向いているということは寿命や命が消費されるわけではないのだろう。
「一体何が消費されるんだろうな……」
悩んでいると、インテに張ったステッカーから四方さん達の声が聞こえてきた。
『茅原さん、セーフエリア入室されたんですね、しかもAランクじゃないですか!』
「ありがとうございます、Aランクって何で分かるんです?」
四方さんいわく、入室試験のあるセーフエリアは成績によって部屋が割り振られ、成績が良いほど設備のいい部屋が割り振られるらしい。なるほど、刑務所で言う模範囚ってやつか……。
一応最低ランクのDランクのセーフエリアなら試験無しで入れるらしい。ただ本当にモンスターが出ないだけで人がひとり寝られるほどのスペースに、水道があるだけでコンクリート打ちっぱなしの床にごろ寝するしかないという。
うーん、それはちょっとやだなあ。
俺はともかくおタヒとかが耐えられんだろうな……。
「あの、すみません。いまスキルで悩んでるんですけど、【神頼み】ってスキルで消費されるのは何が消費されるんですか? 表示されなくて困ってるんです」
『それは言えないことになっているんですよ……。ただ、ステータスで見えるものが消費されるわけではない、とだけ』
「つまり隠しステータスがあると」
『お兄さんわかってるじゃーん、あとその服かわいいね! 似合ってるよ!』
『こら! カハールカさん勝手に割り込まない!』
「俺の服については見なかったことにしてください」
俺は一応何かあってもすぐ外に出られるように着ぐるみを着ていたのだ。つらい、女装の誤解もまだ溶けていないのに。
「ちょっと、私の着物には何も無いの!?」
『あ、チワワちゃんちーっす! チワワちゃん羊の着ぐるみめっちゃ似合ってるねぇ、きゃわ!』
「チワワ……?」
カハールカさんやめてくれ、こいつが暴れ出すと何するかわかんねえんだぞ。
「かわいい動物の名前だよ」
俺は嘘は言ってない。ギャンギャン煩いからチワワって愛称がついたなんて話は絶対に口にしない。
「できれば羊ちゃんって言ってほしかったわね。本当に可愛かったのよ、羊!」
良かった、おタヒがチョロくて……!
「あ、ちなみに例の件、大丈夫そうです?」
『バッチリですよー、お任せください!』
吉田さんが朗らかに応えてくれる。頼むぞ、吉田さん。そしてもうひとりの俺。
『じゃあ明日か明後日こそ姫の回収お願いしますね! では!』
「あっ待って待って待って隠しステータスの詳細を教えて……」
今回も謎が残され、俺の名誉が回復されないまま通話が終わった。
とても辛い。一応【神頼み】は取得しておくことにした。
でも、使うようなことがないことを祈る……。
100話記念にご反応いただいた皆様ありがとうございました〜!
年内かはわかりませんが半年以内できっちり完結する予定です
(時々土日や連休前日に1日2回更新をしつつ)
お時間のある時に読んでくれると嬉しいですよろしくお願いします!
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