第102話 入室試験(実技)
試験官(?)に召喚された巨大なモンスターが、威嚇の叫びを上げる。
「ガアアアアアアア!」
叫び声で空気が震える。鼓膜がおかしくなりそうだ。
俺の視界に入ったのは、三つの首と羽、如何にも硬そうな銀色の鱗を持つ西洋風の竜だった。
「チケン、鑑定を」
「ほい、【鑑定】! えーっと……」
文章を読んでる間にも、竜はブレスを吐き、グリセルダや牛頭くんを襲い続けている。焦りながら鑑定結果を読み上げる。
「『シルバーヒュドラ/ 銀色の鱗を持つ多頭竜。雷属性に弱い。強い再生能力を持つ。ブレスには毒があるが食用可』だってよ!」
「雷ね、任せて! 【雷属性付与】! ついでに【防御力上昇】!【速度上昇】!」
流石に消費30倍ペナルティのないおタヒは強い。俺達全員にあっという間にサポート魔法をかけ終わる。
というかいつの間に取ったんだ、あのスキル。とはいえ、あっても腐らないスキルだ。やっぱあいつ頭いいんだな……。
おタヒのサポートもあって軽やかにブレスや爪を回避しつつ、グリセルダと牛頭くんが力いっぱい武器を振り下ろす。
ヒュドラは首の一本一本がまるで巨木のような太さだ。
いくら力があっても人間の体格的に一発で切り落とすのは何のサポートもないと厳しい。いい感じに斬撃が入ったものの、首を落としきれずに何度も再生する。
「あ、そうだ。あのナイフが!」
俺はインテが作ってくれた誰でも昏倒させることが出来るナイフを取り出す。狙うのはもちろん、ブレスの予備動作で大きく開けた口の中だ。
「それ!」
俺が軽く投げたナイフはシュッと喉の奥に吸い込まれるように飛び込んでいく。これが幸運カンストのパワーだ!
喉の奥に竜にしてみれば小骨のようなサイズとは言え、金属製のナイフがグッサリと刺さり、しかも喉と言えば食道を始めとして気管や動脈などの重要な器官が多くある場所だ。かなり苦しいだろう。
「グオオオオオオオ……」
ナイフが喉に刺さった頭は苦しく蠢いている。よし、じゃんじゃん投げよう。更にナイフを残りの頭二つに投げて、一つには見事命中したがもう一つには命中しなかった。
二回もブレス中の予備動作を狙われているので、警戒されてしまったか。
ドラゴンは俺達には目もくれず、苦しみで地面をのたうち回っている。
ただのたうち回っているだけだが巨大な尻尾や首、爪がランダムに襲いかかってくるのでそれはそれで危ない。
だが、流石に慣れているのかグリセルダも牛頭くんも軽々と避けていく。
「グリセルダ、どうしようこれ?」
「暴れ馬のようなものだろう、近づくほうが危険だな」
「あ、そうだ。試験官、これ拾った武器使うのは許可されてる?」
『許可します』
よし、使ってみたかったアレを使おう。
「インテ、小銃の弾に小細工できるか? あの毒を弾に塗ってくれ」
「畏まりました、終了です!」
インテはぽいっと空中に小銃を放り投げた。それを俺は受け取って、インテの上において簡易なバイポッドにする。
「よーし、グリセルダ、牛頭くん、どけてくれ、撃つぞー!」
「任せた」
「にょ!」
俺は照準はつけてみたものの、当たるかどうかは幸運値任せだ。気軽に小銃を向け、セーフティーを解除し引き金を引いた。
激しい銃撃音が鳴り響き、数秒で数十発の弾がヒュドラに直撃する。鱗にいくつかは弾き返されたものの、柔らかい腹の部分にあたった弾は無事中にめり込んだ。
数十秒もすると、ドラゴンはのたうち回ることを辞め動かなくなっていた。
グリセルダと牛頭くんが、無事二人で首を切り落としてくれる。
「試験官とやら、これで終わりでいいのかしら?」
おタヒの問に数十秒の沈黙があった。
『Aランクでの合格です! さあ、どうぞセーフエリアで一晩おくつろぎください!』
ヒュドラが消えると同時に、後ろの壁が消えてファンファーレとともに豪華な金色のドアが発生した。隠しドアだったのか。エリア鑑定ができれば発見できていたんだろうか……。
ヒュドラの素材が回収できなかったのはちょっと残念だった。
試験官に促されて中に入ると、白が基調だが未来的で、かつ機能的な部屋があった。しかもキングサイズのベッドが五つ。
俺達が入ると、ドアが勝手に閉じた。
設備をチェックするとシャワールームとバスタブ、五人分の椅子とテーブル、テーブルの上には飲み物などがあった。読めない文字だったのでインテに読んでもらうと飲料水と携帯食料とのことだった。
俺達はとりあえず、モスマンの鱗粉やレプティリアンの血で汚れた着ぐるみを脱ぎ、グリセルダは汚れたコートを脱いだ。
『洗濯機』という表示があったのでそこに入れておく。インテいわく一枚あたり数分で元のきれいな服に戻るそうな。便利だな。
「試験官さーん、ここって調理設備とかあります? お茶を飲んだりしたいんですけど」
そう言うと、壁だと思っていたところが開き、その奥に簡単な調理ができるスペースがあった。今までの野宿を考えると大分天国だ。ヴィルステッド村は例外にしておこう。
「じゃあ動いて腹も減ったし、何か食うか。なんでもいいか?」
「蘇や醍醐、甘酒って言っても出てこないんでしょ? 甘いものがいいけど」
「私は食えれば構わぬ、甘いものがあるなら嬉しい」
「にょ!」
「チケン様、お手伝いします!」
背中の後ろからインテが声をかけてくれた。頼もしい。牛頭くんも手伝いたそうにじーっとこっちを見ているがもこもこの蹄で料理は無理だと思う。諦めて欲しい。
色々考えた結果、好き嫌いもあるだろうということでとりあえずお湯を沸かし、ティーバッグで緑茶と紅茶を入れた。自分用にはコーラを準備した。俺は炭酸飲料が好きなので……。
インテのバッグからクッキーと羊羹、チョコレートなんかを皿に適当に盛る。
なんか、じいちゃん家のテーブルを思い出すなあ。遊びに行くといつもテーブルの上にお菓子があったんだ。何か地味なやつ。食べると美味いんだけどな。
「ほい、俺がいれたから適当だけど白湯よりいいだろ。お菓子は適当にいくつか盛っておいたから好きなの選んで食え」
「感謝するぞ、チケンとインテ」
「やったー! 甘味よ甘味!」
そういいつつ、俺は自分用に買っておいてもらったポテチを袋からバリバリ食べ、コーラをごくごくと飲む。
ポテチは今回はコンソメ味だ。うすしおとどっちにするか悩んだが、コーラとのマリアージュを考えるとコンソメだろう。濃い味に濃い味をあわせる。最高の気分だ。
お菓子はいい店の商品だけあって俺もちょっとつまんだが結構美味い。二人も満足してくれるだろう。
「この羊羹美味しい、宮廷で出すやつより美味しいんじゃないかしら!」
「この茶色いクッキーもほろ苦くて美味だな……」
「にょわーん!」
三人とも美味しそうにお菓子を食べており、俺も嬉しい。牛頭くんもちょっとだけ羊羹を貰ってご機嫌のようだ。
美少女がお菓子を食って笑顔になっている様子は絵になる。
好きな人にご飯を食べさせ続ける性癖の人の気持が少しだけ解る。だってあんなかわいい顔ずっと見続けていたいもんな……。
「しかし、チケンそれは酒ではないのか」
「違う、コーラっていう飲み物だよ。泡はあるけどアルコールは含まれてない」
「えー、それ美味しいの? 色が微妙そう……」
「別に飲まなくてもいいぞ、俺のだし」
「でも気になる……それにしてもなんで瓶から直で飲んでるの、行儀が悪いわ」
「ジャンクフードだからな、これがマナーなんだよ。お行儀よくコップで飲むときもあるけどな」
それでも飲みたがったので飲ませると、案の定むせつつも、おタヒはコーラを気に入ったし、俺が食っていたポテチはグリセルダに横取りされて「ワインのつまみに良いのでは?」なんて言われてしまう。こんな所で飲む気なのか?!
しかし、そんなしょうもない、学生時代のようなやり取りがたまらなく楽しい。
これもある意味女子会と言っていいのだろうか。
自分が女子会に混ざれるなんて、失業した時は一回も考えたことはなかったな。
人生って本当に面白い。




