第101話 入室試験(筆記)
「よし! 数に入れよう! もし入れなかったときのほうが怖い。それにもう仲間だろ、事実上」
「そうねえ、確かに牛頭くんはともかく、インテには世話になってるし」
「私もそれが良かろうと思う」
そんな結論に至ると、牛頭くんとインテは喜んでいるようだった。
「にょわん!」
「えへへへへー! 多分私が宇宙ではじめて個体として認められたインテリジェンスパックかも知れませんね! 誇らしいです!」
喜んでいるなら何よりだ。ここまで世話になってるしな。
「じゃあ、五名です!」
『了解いたしました。それでは五名で入室テストを受験していただきます。出題は全三問です相談や役割分担などをしても構いません』
俺達はドキドキしながら設問を待つ。空中から、一枚の紙と筆記用具が現れた。
『これから読み上げる文章について、作者の気持ちを一行で書きなさい』
「現代文かよ!!」
「何だその胡乱な設問は……」
「えー、なにそれ禅問答か何か……?」
そうか、そもそもグリセルダとおタヒの時代は読み書きや計算などの知識詰め込み型な教育がほとんどで、こう言う読解力についての教育がないのか……。
やべえ、こいつらの回答聞きたいけど回答はさせないほうがいいだろうな……。
「わかった、読み上げてくれ」
しばらくすると、情感たっぷりの朗読が始まった。
――――昔あるところに猟師と二匹の犬が暮らしておりました。二匹の犬はいつも猟師を助け、クマや狼にも向かっていく勇敢な犬でした。
しかし、ある狩りの時、犬は狂ったように猟師を吠えたてます。静かにするように言い聞かせても全く言うことを聞きません。
こんなにうるさくては獲物が逃げてしまいます。
怒った猟師は猟銃を持ち、言うことを聞かない犬を撃ち殺してしまいます。しかし、息も絶え絶えに犬はそれでも吠えようと頑張っています。
よく見ると、犬が見ているのは猟師ではありません。後ろです。
後ろを見るといつの間に近寄ったのでしょう、大樹のような大蛇が猟師を狙っていたのです。
猟師は慌てて猟銃を大蛇に向け、その頭に命中させました。大蛇がドスン、と音を立てて倒れるのを見て、犬はゆっくりと息を引き取ります。
猟師は大蛇のことを忘れて、犬の亡骸を抱きしめ一晩中泣きました。
その後猟師は生涯猟犬の冥福を祈り続けたということです――――
うーん、設問意図はわかりやすいな……。一応二人の意見も聞くか。
「グリセルダ、おタヒ、一応聞くけどどう思う?」
「えっ、猟師がアホってこと? 犬がかわいそうだからこの猟師から開放してあげてほしいわ」
「私も同じ感想だ。猟師の愚かさをあげつらったのであろう? この犬は主を変えるべきでは?」
予想はしてたがこいつらに任せては多分駄目だ。現代文苦手だがやるしかねえのか、俺が……。
「はい、駄目です。俺が書きます……」
「えー? だってアホでしょこの猟師」
「事実ではないか?」
まあそうなんだけどよぉ……これは駄目だろ。
俺は成績がそんなよくなかったけど二人の答えが駄目なことくらいは解る。
「なあ、俺日本語しか書けないけど日本語でいいか?」
『了解しました。日本語でも受験可能です』
空中に現れたテーブルで、紙に書き込んでいく。
『命の尊さに上下はないことと信頼関係の大切さ、冷静な判断の重要性を読者に伝えるため』
それを横から見たおタヒが野次る。
「えー? 何その綺麗事。ないでしょそれは。あとあんた字汚いわね」
「うっせーな、いいんだよこれで……見てろ」
『採点は50点満点中40点、合格です! では第二試験に移ります!』
良かった、俺の予想は正しかった。どっちかって言うとこれ、道徳のテストだ。
「そんな答えなの!?」
「……そんな生ぬるい答えでいいのか?」
「文章題っていうのはそう言うもんなんだよ……俺も好きじゃないけど……」
自分の感想を素直に言わないのが現代文や読書感想文のコツだからな……。
俺は読書感想文で素直に感想を書いたら先生に呼び出し食らって怒られたことがあるから知ってるんだ……。
『それでは第二試験です! 簡単な常識のクイズです!』
あっ、やべえ。この世界の常識なんか一ミリも知らん。
「私には無理だぞ、これは」
「私も……」
「インテ……頼めるか?」
「はい、お任せを!」
やはり出題されたのはこのテオネリアの法律に関する知識だった。
百問以上にわたる一般常識……例えば、盗みはいけないことだとか殺人はしてはいけないことだとかの俺達にも解るような常識から、外部惑星を発見してしまったときの公的な手順、被害者への謝罪、被害の深さによる量刑の変化など俺達には知りようのない知識の問が後半大量にあった。
聞いていると日本の刑罰とはだいぶん違うようだった。
死刑がない代わりに『被害者と同じ体験を擬似体験する』刑罰なんかがあるらしい。
ある意味死刑より怖いな……。数十人を殺したサイコパスは、数十人分の臨死体験と苦しみを味わうらしい。
こんなの俺達に回答できるわけがない。
数々の質問をインテが間髪いれず回答してくれた。心無しかインテが生き生きとしているような気がする。
本当にインテを頭数に入れてよかった。これでインテをいれてなかったらセーフルームに入れず終わる可能性が出るところだった……。
『採点は200点中199点! 一問だけ十年前の法改正で変わった箇所がありましたので減点いたしました。もちろん第二試験も文句なく合格です!』
「インテすげえな!」
「一問だけミスがございまして、お恥ずかしい限りでございます……」
「いいのよ一問くらい! 合格できて偉いわ、あなた本当に賢い鞄ね!」
「インテ嬢の知恵なくしてこの試験は通過できなかったであろう。心より感謝する」
「にょわー!」
皆に褒められてインテは嬉しそうだったが、まだテストは残っている。油断はできない。
待っているとアナウンスが流れた。
『それでは第三試験は実技テストです。このテストの間だけ消費MP制限は解除されます。ここで使っていいMPは全員で100までとします。敵モンスターが出没しますので力を合わせて討伐してください、それでは10分間で戦闘準備をしてください!』
「は? 今度はモンスターかよ!」
「おタヒ、準備いいか?!」
「任せて! えーっとどうしよう……何の魔法を使えば?」
俺が考え込むと、グリセルダが口を開けた。
「まず、私と牛頭くんが足止めをする。出てきたモンスターがわからないものならチケンが鑑定。鑑定結果を踏まえて魔法を変える。これでどうだ?」
「わかったわ、チケン、鑑定頑張ってね!」
「努力はする……ただ、素のレベルが低いからなあ、期待しないでくれ」
俺の鑑定は一応スキルLvMAXになっているが、敵のモンスターが強すぎる場合失敗することもある。き、緊張する……。
グリセルダと俺は武器を構え、牛頭くんも自信満々にもふもふの槍を構える。
そろそろ十分経つ。
『それではモンスターが登場します。健闘を祈ります!』
ザーッという音がして、20メートルほど先になにか巨大なモンスターが地面に落ちる、重い音と衝撃が俺達の場所まで響く。
よーし、久々の大物だ。やるぞ!




