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第1話 ダンジョンにて 1


 その時、俺達はダンジョンにいた。

 ダンジョンはうす暗くじめじめしていて、石造りの廊下が延々と続いている。よくゲームで想像されるあれだ。


 もちろん、太陽の光は届いていない。

 しかし何故か見るのにギリギリ困らない程度の薄暗さでキープされている。


 そのダンジョンを進むと突然現れた体育館ほどの広場に中ボス的存在であろうカマキリ型の巨大なモンスターがいた。



「チケン! まだいるぞ!」


「解った!」


 俺=チケンはスキル【視界拡張(ワイドビュー)】を発動させる。

 なるほど、俺の前には巨大なカマキリ型のモンスターがいて、それだけでも厄介なのに後ろから蜂型のモンスターがわらわらと襲ってくる。


 スズメバチどころではない、ペンギンくらいのサイズの蜂がブンブン飛んでくる。

 しかも高速だ。避けられるが結構恐い。毒とかありそうで。


「虫ばかりだな!」


 パーティーメンバーである悪役令嬢のグリセルダが忌々しげに言う。


「俺がひとまとめにするから、必殺技を撃ってくれ! そしたら一発で済む」

「だが、お前に当たれば……」


 グリセルダは女騎士。そして超ゴリゴリのパワー型だ。当たれば命はない。


「俺は素早さカンストしてるからお前の攻撃も避けられる! 一匹ずつ倒してる時間はないぞ!」


 俺は素早さにステータスを極振りしている回避型だ。幸運も上げており完全回避値も結構ある。

 いわゆる回避タンクとか回避盾とかいうアレだ。

 必殺技を一回避けるくらいなら問題はない。複数回だと厳しいかもしれないが。


 悪役令嬢らしくない迷いを見せつつ、厳しい表情のグリセルダが頷いた。


「わかった、頼むぞ、チケン!」


 俺は、蜂に小石をぶつけてヘイトを集めつつ、グリセルダの必殺技、パワースラッシュが撃ちやすいように敵をまとめる作業をしている。

 大体、射線に収まるくらいにはまとまったかな。


「グリセルダ、撃て!」

「承知!」


 グリセルダのパワースラッシュは強力無比ではあるが溜め時間がいる。俺が敵をまとめながらその時間を稼ぐ。

 数秒の後に、タメ時間が終わったのか、グリセルダの剣が輝いていた。


「いくぞ! 怨敵よ滅べ……【パワースラッシュ】!」


 力強く振り下ろされるグリセルダの光り輝く大剣。

 剣が振り下ろされると同時に、周囲を衝撃波が満たし、虫たちは木っ端微塵に砕かれていった。


 うーん、本当に当たったら命ないなこれ。生きててよかった。


 カマキリが砕けた瞬間、俺とグリセルダが光りに包まれる。

 俺は2レベル、グリセルダは1レベル上がった。カマキリと大量の蜂のおかげだ。


 ホッとしながら俺は気持ちの悪い粘液だの虫の欠片だのの中から使えそうなもの、食べられそうなものを探していく。


 このダンジョンでは普通に腹も減るし喉も渇く。ところどころに泉があるので水はどうにかなるのだが、食べ物だけは自給自足しないといけない。


 そして、悪役令嬢……とはいえ、本当に令嬢であるグリセルダは料理ができない。

 仕方ないので、パーティーメンバーである俺が食べられるものを探している。


 虫というのは外骨格で覆われている。らしい。うろ覚えである。

 つまり、エビみたいなものなのだ……と、サバイバル食系の動画チャンネルで言ってるのを見た記憶がある。カマキリは食べられる可能性がある。


「グリセルダ、食べられないものはあるか? 具体的にはエビを食べると発疹が出るとかそういう意味での食べられないだ」


 好き嫌いはもうどうしようもない。空腹か我慢の二択だ。だがアレルギーがあったら困る。今の所持アイテムでは治療できないからだ。


「私はこれでも士官学校を出ている。一般の兵と同じ食事でも大丈夫だ。食べられぬものはない」


「わかった、ちょっと待っててくれ。火の準備だけ頼む」

「任せろ」


 公爵令嬢なのに言うことがかっけーなー、こいつ……。

 でも、悪役令嬢なんだよな。


 グリセルダは「ローレンツェン王国物語」というVR乙女ゲーの悪役令嬢、と分類されるキャラらしい。

 別ゲーであるこのVRダンジョンゲームにいる理由は俺は知らない。


 ローレンツェン王国物語は自由度の高さが特徴のゲームで、他のキャラはプレイアブル化や攻略対象になっているが、何故かグリセルダだけはプレイアブル化も攻略対象にもならない。

 これはプレイヤーの中での謎の一つとされている。


 グリセルダはミルクティー色の髪、すみれ色の瞳。本当に顔はクール系の美人だ。

 色々あって王太子妃候補になったんだが、身長175センチ。その上剣術や格闘の心得もある。生半可な男ではグリセルダに勝てない。


 そんな自分よりデカくて強い婚約者を嫌がった王太子は運命の相手を見つけてしまう。


 恋人は身長155センチ体重40キロ。華奢で可憐で守りたくなるタイプで、ルートによっては王太子は恋人をかばって死ぬイベントがあるほどだ。


 王太子の恋はグリセルダ的にどうでも良かったらしいのだが、そのヒロインに最低限の護身術と教養、マナーを身に着けようとさせたグリセルダはヒロインをいじめる悪役扱いになってしまった。


 まあガタイのことは好き好きだけど、王太子も大概クソ男だよな……。

 何年も婚約した相手をちょっといい女が出来たからってポイ捨てとか、ゲームの中とはいえちょっと倫理観が終わってると思う。


 まあ、グリセルダもグリセルダで同級生に


『貴公の臭いは洗ってない犬にも劣る』


 とか


『この学園にいるつもりならばマナーを身に着けよ。今のお前は人の言葉を喋る猿だ』


 とか言っちゃうからなぁ。俺はこう言うキャラ好きだが。大好きだが。

 まあ……悪役令嬢の分類になってもおかしくはないな……。




 ちなみに、ルートによっては革命が起こりヒロインは革命の立役者の妻になり、ヒロインの密告でグリセルダは民衆に惨殺される。

 ゲームだからとは言えちょっと……手心を……。って最初見たときはなった。


 そんなキャラ? 人物? が今は横にいるのだから、人生とはよくわからないものだ。


 そんな事を思い返しているうちに、食えそうな部分を見つけた。カマキリの筋肉のような部分と、蜂の体内に溜め込まれていた蜂蜜の塊のような部分。


「鑑定しとこ」


『カマキリの足の肉/ 茹でると美味 空腹を回復する』

『蜜の原石/ 高価な甘味 あらゆる疲労を回復する』



 よし、食えるな。あとは鑑定してみたがゴミしかない。邪魔にならない場所に寄せておけばスライムが食って自然に帰るだろう。



新連載です!

前作同様最終回まで毎日更新していきますのでよろしくお願いします!(完結は年内予定です)


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