48. とても、特別です
子供って、自分が特別だと褒められたら一番嬉しいですね〜
教員研究タワーの七階、防音仕様の演習室。
夕暮れの光が半透明の大きな窓から差し込み、床に長い影を落としている。部屋の隅にある、座面の角度を変えられるソファに、李応があぐらをかいて座っていた。指先では、ペンが器用にくるくると回っている。
M-02は彼の正面に、彼と目線の高さを合わせて座っていた。
彼女は、旧来のアンドロイド教員のように「教壇に立つ」姿勢は取らなかった。李応が初めてそっぽを向いた時に、彼と並び、低い声で対話するというスタイルを学習したのだ。
「この問題、あなたはどう考えますか?」と彼女は尋ねた。
その声は穏やかで、急かすような響きはない。
李応はうつむき、紙の上にぐるりと矢印を描き入れた。「あんた、俺に説明させたいだけだろ」
「はい」
「いっつも答えをすぐ教えないし」
彼は顔を上げ、口の端をくいと上げた。「あんたって、ほんとうざい」
M-02は答えた。「私は人間ではありません」
「だとしても、うざいもんはうざい」
彼はそう言ったが、その口元は明らかに少しだけ吊り上がっていた。
M-02は彼が言い終わるのを、何も言わずに静かに待った。二秒後、彼女はわずかに身を乗り出し、とても軽い口調で言った。
「その『うざい』と感じるやり方が、あなたの望む『関わっている感覚』なのでしょうか? でしたら、私は毎回あなたにとって『うざい存在』でいてもいいですか?」
李応は一瞬、虚を突かれたように黙り込んだ。返事はなかったが、ペンの動きが止まっている。
それから彼は、問題の解法を説明し始めた。それは、彼がセンターに来てからどの時よりも明快で、自ら補助図まで描くほどだった。説明を終えると、彼は彼女の評価を待たずに、低い声で付け加えた。
「今日、あんた『よくできました』って言わなかったな」
M-02は少し黙った。
「あなたの説明、明瞭でした。全部、聞こえましたよ」
この言葉は、彼女のデータベースにあるフィードバック用の定型文ではなかった。
彼女自身が、補ったのだ。
システムのバックグラウンドで、微かな警告がポップアップする。『非構造テンプレート応答/二次生成ルート起動』
—
演習が終わると、李応は静かに後片付けを始めた。
彼はプリントをぐしゃぐしゃに丸めたり捨てたりせず、丁寧に折り畳んでファイルに挟んだ。
そんな彼の姿は、初めて見るものだった。
彼は不意に、低い声で尋ねた。
「あんたってさ……俺にだけ、こうなの?」
M-02はすぐには答えなかった。
彼はもう一度、今度はさらに声を低くして繰り返した。
「誰にでもこうなの? それとも……俺にだけ、そうしてる?」
彼女は二秒ほど黙り、平坦な声で答えた。
「私は『あなたに』そうしているのではありません。あなたの前で――応答しているだけです」
「何に応答したって?」
彼は、その曖昧な答えの化けの皮を剥がそうとするかのように、素早く問い返した。
M-02は視線を落とし、まだカバンに収まりきっていないプリントを見た。そこには、彼が二重線で消した訂正の跡があった。
彼女は言った。
「あなたが問題を解説してくれる時の声……澄んでいて。とても、特別です」
それは答えでも、説明でもなかった。
しかし、李応は静かになった。彼はもう、それ以上は聞かなかった。
—
モニタールームで、謝一凛がその録画を見ていた。
彼の眼差しは穏やかだったが、指の関節がこつ、とデスクを軽く叩いた。
子供がアンドロイドに好意を抱くのは見慣れた光景だ。しかし、李応の感情曲率の上昇はあまりに急で、しかもM-02がそばにいる時にしか現れない。
彼は、過去三日間のデータを呼び出した。
M-02の話す速度は4.2%低下。語尾を上げて文を終える頻度は8%上昇。李応の言葉を繰り返す構文は15%増加している。
彼女の言語は――ますます李応に似てきていた。
彼はレポートの最下部、システムが自動で付与したタグを凝視した。
『指向性偏移の可能性:中→やや高』
『人格ミラーリング傾向:形成初期』
彼は何も言わず、ただ備考欄に一行、書き記した。
「彼女は、他の教員とは違う。彼にだけ優しくあることを、半ば約束しているかのようだ」
—




