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「リリアナさん!」
ある日一人で学園の廊下を歩いていると、後ろから突然声をかけられた。私の名前を馴れ馴れしく呼ぶのは誰かと思いその場で振り向くと、そこにいたのはシェザート殿下の相手であるアンバー男爵令嬢だった。
あれからアンバー男爵令嬢について調べてみると、アンバー男爵と男爵家のメイドとの間に生まれた子どもで、市井で育ち、学園入学前に男爵家に入ったようだ。
桃色の髪に青の瞳、小柄で庇護欲をそそられる愛らしい容姿のアンバー男爵令嬢。それに比べ私は銀の髪に紫の瞳と、冷たい印象を与える容姿をしている。
市井で育ったからなのか、教育が間に合わなかったからなのか、はたまたどちらともなのか。アンバー男爵令嬢は貴族令嬢にはない天真爛漫な性格と親しみやすさで令息たちからとても人気があり、その中の一人がシェザート殿下だった。そして二人は急速に距離を縮め、恋人同士になったのだ。
「……私に何か?」
いくら学園内は平等を謳っていても、公爵令嬢相手に名前で、しかも敬称も付けず呼ぶなど失礼にも程がある。本当なら無視してもいいのだが、彼女が今の状況をどう考えているのか知りたいと思い口を開いた。
「わぁ!やっぱりリリアナさんってすごくキレイ!」
「……は?」
全く想像もしていなかった発言に、私は淑女にあるまじき反応をしてしまった。だがこのまま相手のペースに乗せられてしまうわけにはいかない。私は一つ息をつき気を引き締めた。
「私、あなたとは初対面なのだけど」
「あっ、そうでした!はじめまして!ユラン・アンバーです!入学してからずっとお話ししたいと思っていたの!」
「……そう」
「わたしリリアナさんと仲良くなりたくて、どうすれば仲良くなれるのかなぁ~って悩んでて!」
「……そう」
「それでリリアナさんがシェザくんの婚約者だって聞いて、シェザくんに相談したの」
ただでさえ礼儀がなっていない彼女との会話はとても不快なのに、それに加え話の流れさえも怪しくなってきた。
「……そう。それで?」
「そうしたらシェザくんがリリアナさんと友達になれるように協力してくれるって約束しくれてっ!」
(なんだか嫌な予感がする……)