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「それで?一体いつからお二人は結託していたのですか?」
卒業パーティーの翌日、タウンハウスの応接室で私が向かい合うのは父と皇太子殿下だ。
「あの人たちは国庫を横領した罪で、準備ができ次第退位してもらう予定でしたよね?それなのにどうしてもう新しい王が即位したのですかね?」
婚約破棄の準備をするなかで、元国王らによる国庫の横領が発覚し、さらには横領によって国庫にお金がなくなり税を上げたのだ。当然国民の不満は日に日に高まっていった。このままでは国が乱れてしまうと危惧した私たちは、国王を退位させ新たな王を即位させようと計画していたのだ。
計画では新たな王に元国王の弟を擁立しようと考えたのだが、弟は兄である元国王と幼少期から不仲で、元国王が即位するなり国を追われてしまっていた。国を追われた後は色んな国を転々として、最後にたどり着いたのがメルトランス帝国。父に連絡を取ってもらったが、元国王の弟からはいい返事をもらうことができなかった。
ウィストリア王家以外の血筋の者を王にすることもできる。だが緩やかに交代していく方が国は混乱が少なく済むので、ひとまずは元国王の弟に王位に就いてもらおうと考えていた。しかし本人からこのまま帝国に永住するとの返事があり、このまま王位を空席にするのは様々な事情から避けるべきだと判断し、元国王の弟の説得を続けつつ、それまでは形だけであるが元国王を玉座に座らせておく予定であったのだ。
「この計画は私とお父様と叔父様しか知らないはずですが、こうもタイミングよくメルトランス帝国に永住したいと言っていた人をすんなりと説得できるなんて、誰か他の人の手が入ったとしか考えられません。あの方はおそらくお金で動くような人ではないでしょうから。そして今、私の目の前にはメルトランス帝国の皇太子殿下がいらっしゃる。これは偶然なんかではないですよね?」
私はジトッと二人を見据えると、父は一言「すまない」と言い、皇太子殿下は苦笑いをしていた。
「私が君の力になりたくて公爵に頼んだんだ。公爵は私に頼まれたら断れないだろう?だから怒るなら私だけにしてくれ」
「お、怒ってなんていません!私だけが知らなかったのが嫌だったんです。なんだか仲間外れにされた気分で……」
「そんなつもりはなかったんだが、結果的には君に悲しい思いをさせてしまったな。すまない」
皇太子殿下は謝罪の言葉を口にしながら頭を下げた。
「あ、頭をあげてください!」
「いや、君を悲しませたのだから謝るのは当然のことさ」
悲しい気持ちになったのはたしかだが、それくらいのことで帝国の皇太子に頭を下げさせるなどあってはならない。たとえ数日前までは友人であったとしてもだ。
「あなた様は皇太子殿下です。私のような者に頭を下げる必要はありません。お願いですからどうか頭を上げてください!」
「……」
「皇太子殿下!」
「……公爵、すまないが少し二人きりにさせてもらえないだろうか」
「わかりました。何かございましたらお呼びください」
「ありがとう」
父が席を外し部屋には私と皇太子殿下の二人きりになると、ようやく頭を上げてくれた。
「……君に近づいたのは最終審査のためだったんだ」




