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「ま、待て!慰謝料はわかる!だがこの件に婚約破棄は関係ないであろう!?」
「何を言っているのですか?当然関係あります。自分の夫となる者が女性に躊躇いもなく暴力を振るう人だなんて、怖くて結婚などできるわけありません」
「うっ……!じゃ、じゃあ今すぐ息子に謝罪させよう!だから婚約破棄だけは」
「父上!?なぜ俺がこの女に」
「うるさい!そもそもお前が余計なことをしなければこんなことにはならなかったのだ!」
「そんな!」
「いいからさっさと謝るんだ!そうすれば心優しいルーシェント嬢は許して」
「許しません」
「……へ?」
「王太子殿下から謝罪されたとしても、絶対に許しません」
「な、なぜだ!そなたは息子と結婚すれば国で一番高貴な女性になれるのだぞ?それなのに婚約破棄するなど、その唯一の機会を自らの手で失くしてもいいのか!?」
「国王陛下。何か勘違いされているのではありませんか?」
「……勘違いだと?」
「ええ。私は先ほど慰謝料と婚約破棄を望みましたが、それはあくまで皇太子殿下に対して私の要望を述べたまでです。本来なら公爵家と王家で話し合うことですが、既にその域は超えてしまっています。なぜなら私はメルトランス皇室の庇護下にある身。ですからこの件は国家間の問題となってしまったのです」
「なんだと!?そんな横暴が許されるとでも思っているのか!」
「許されるに決まっているでしょう?国王陛下は学ばなかったのですか?私は王太子妃教育で学びましたよ。帝国に歯向かえば待っているのは滅びだけだと。最初からあなた方が婚約破棄を拒否することは、不可能だったということです」
「く、くそっ……」
私さえ言いくるめればこの状況から逃れられると思ったのは大きな勘違いで、謝罪をすればと考えたようだが、そんなものは今さらだ。
もっと早くに息子を諭し、妻を諌め、自身が誠実な対応をしていれば、違う結末が待っていたかもしれない。だけどもう遅いのだ。
「私がこの場で婚約破棄を望んだ時点で、婚約破棄は決定事項です」




