35
「公爵令嬢が王太子殿下に婚約破棄を申し出ても、拒否されることはわかっていました」
「それならなんで婚約破棄なんて言ったんだ!そうか、やっぱりお前は馬鹿なんだな。少し勉強ができるからって調子に乗ったんだろう?はっ!だけど残念だったな!お前の言う通り俺は婚約破棄を拒否する!そしてお前はこのまま側妃になって俺のために一生働いてもらうぞ!」
「……ではその公爵令嬢がとある国の庇護下にある身だとすればどうでしょう?」
「は?お前は何を言ってるんだ?とある国だと?そんなもん知ったことか!それよりさっさと謝罪でもするんだな!」
シェザート殿下相手では話にならないと判断し、私は国王へと語りかける。
「王太子殿下では話になりませんね。国王陛下。例えばそのとある国と言うのが、この世界の覇者だとしたらどうですか?」
「世界の覇者だと……?」
私は懐から一通の封筒を取り出した。そして一歩ずつ国王に近づいていく。
「今から半年前のことです。私はその頃にはすでに婚約破棄を決意していましたが、身分の壁にぶつかり身動きが取れず悩んでいました。どうにかして婚約破棄する方法はないかと焦っていた私の元に一枚のチラシが舞い込んで来たのです」
「チラシ?ルーシェント嬢は一体何を……」
「実はそのチラシ、とある職業の募集のチラシだったのですが何の職業だと思います?」
「そんなの知らん!ち、近寄るな!」
「ではヒントを教えて差し上げましょう。つい先日、私はとある国の皇宮に登用されましたの。これはご存知ですか?この世界で皇宮と呼ばれる場所がある国はたった一つだけだということを」
「こ、皇宮……」
国王の目の前にたどり着いた私は歩みを止め、封筒の中身を目の前に掲げた。
「……メルトランス帝国」
誰かが呟いた言葉が静かに会場中に響き渡る。
「『この日をもってリリアナ・ルーシェントを皇宮文官に登用する』。ふふっ、いかがですか?」
「皇宮文官だと……?」
「ええ。どうやら私は相当運がよかったみたいです。だって皇宮文官になった瞬間からメルトランス皇室の庇護下に入ることができたのですから」
「な……!」
「メルトランス皇室の庇護下に入るということがどういうことか、国王陛下なら当然ご存知ですよね?」
「そ、そんな馬鹿な……」
国王に封筒の中身を見せたのは、掲げた書類が間違いなく本物であることを確認させるためだ。書類にはメルトランス皇室の印が押されていて、国王ともなれば印を見ればこれが本物の印かどうかわかるはず。そして印が本物だと理解してしまった国王は、これ以上何も言うことができずにいた。




