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「王太子殿下に一度もエスコートをされたことがないこと」
「な……」
「王太子殿下から贈り物を貰ったことがないこと。私は毎年贈り物を贈っていましたのに……」
「そ、そんなわけ」
「それに王太子殿下が私に贈り物をすると嘘をつき、公爵家からお金を騙しとっていたこと」
「なっ……!」
まさかお金のことがバレているとは思わなかったようで目が泳いでいる。私は続けて国王と王妃に視線を向けた。
「それから王太子殿下と王妃様から国の仕事を押し付けられたこと」
「そ、それがなんだって言うの!」
「そのことを知りながら国王陛下が見て見ぬふりをしたこと」
「それは……!」
そして再びシェザート殿下とその隣にいるアンバー男爵令嬢を見据えた。
「王太子殿下が浮気をしたこと。その浮気相手を王妃にすると宣言したこと」
「私たちは浮気じゃないわ」
「そ、そうだ!俺とユランは真実の愛で……」
「そんなの私には関係ないわ。真実の愛だろうがなんだろうが、婚約者がいる時点でただの浮気よ」
「うっ……」
「そして王太子殿下が暴力を振るったこと……。どうですか?これでもまだすべての理由を申し上げたわけではないのですが、なぜ私が婚約破棄をしたいと思ったのか少しは理解していただけました?」
自分で言っていてもなかなかだなと思う。当然周囲の人たちは四人に対して冷たい視線を送っていた。さすがに国王はその視線に気づいたようで口を噤んでいたが、他の三人は気づいていないようだ。
「そ、それがなんだって言うんだ!理由があったからと言って公爵令嬢であるお前が俺に婚約破棄などできるわけないんだよ!」
「それくらいあなたが我慢すればいいだけじゃない!」
「お友達なのに……」
一人論点がずれている人もこの件の関係者ではあるが、相手にしても労力の無駄になりそうなのでこれ以上は無視する方がよさそうだと思った。




