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「国母はユランのように心優しく王に癒しを与えられる者でなくてはな!間違ってもお前のような女には勤まらない!よって俺はこの場でユラン・アンバー男爵令嬢との婚約を発表する!」
「シェザくん……!」
「ユラン、どうか俺の妃になってくれないか?」
「うん!喜んでっ!」
突然始まった茶番に会場にいる参加者たちは呆然とするしかない。婚約発表にプロポーズと、私たちは一体何を見せられているのだろうか。二人で勝手に盛り上がるのは構わないが、私との婚約はどうするつもりなのか。
王太子妃の座に彼女を望んでおきながら、私との婚約を破棄しない理由は何かと考えた時、一つだけあの馬鹿が考えそうな可能性が頭をよぎった。本当に考えたくないが、おそらくそれしか考えられない。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、私との婚約はどうされるおつもりですか?彼女を王太子妃にしたいのであれば私は不要では?」
「はっ!たしかにお前は不要だが、俺は寛大な男だからな。お前が今ここで跪いて謝るのなら、側妃にしてやってもいいぞ?」
「側妃、ですか」
「ああ。婚約がなくなれば困るのはお前だろう?だから側妃になれば俺がお前を有効活用してやるよ」
「……アンバー男爵令嬢は王妃になりたいのかしら?」
「え、私?うーん、私は王妃でも側妃でもどっちでもいいかなぁ。だってどっちでもシェザくんとリリアナさんと仲良く暮らせるじゃない!」
「そう……」
「くくくっ。考えなくてもどうするべきかわかってるだろう?王妃にも側妃にもなれなければお前の価値なんてないんだからな!さぁどうする?」
シェザート殿下はニヤニヤした顔で私を見下している。私が跪くと確信しているようだ。
たしかにこの年齢で婚約がなくなれば結婚するのはかなり難しくなる。たとえ結婚できたとしても、傷ありの令嬢には後妻か、親ほど年の離れた相手の妻くらいしかない。だからシェザート殿下は私が謝罪して側妃になる道しかないと思っているのだろう。
(はぁ、もう始めるしかないわね)
予定ではパーティーが終わった後に当事者だけでと考えていたが、このまま始めるしかないようだ。卒業生の門出を祝うパーティーなので他の人の迷惑にならないようにしたかったが、ここまで騒ぎが大きくなってしまったのならば仕方がない。
(……大丈夫、絶対にうまくいくわ。私には最強の味方がついているもの)
私は胸に手を充て、会場中に聞こえるように宣言をした。
「お断りいたします」
「は?」
「そして私はあなたとの婚約を破棄します!」




