28
「久しぶり」
卒業式まであと三日と迫った今日、ラルフ様が私の家を訪ねてきた。数日前、彼から会いたいので家に行っていいかと連絡が来たのだ。
なぜ彼がわざわざ家に訪ねてきたかと言うと、私はあれから一度も学園に行けていない。あの日できた傷が思いの外深かったため、治るのに時間がかかってしまったのだ。
さすがに顔に傷がある状態で外に出るわけにはいかず、幸い学園は卒業するのに必要な単位は全て取ってあったので大事をとって休むことにした。
傷のせいで学園に行けなくなった私は、王城にも行かなかった。当然仕事が溜まり、シェザート殿下と王妃から仕事をするようにと毎日のように伝令が来たが、父が追い返し国王に強く抗議してくれた。この事態を招いたのはシェザート殿下でありながら、謝罪の言葉もなく仕事を押し付けるなど言語道断だと強く非難したのだ。今までは一度も口を出してこなかった父が、ここに来て突然抗議したことで国王はこれはまずいと思ったのだろう。二人には厳重に注意をしたので、しっかりと傷を治すようにとの国王の印が捺された手紙が届けられた。
それを見た私はどの口が言ってるんだかと呆れたが、王城に行かなくて済むのならそれに越したことはないと、久しぶりに時間に余裕のある生活を送っていたのだ。
家にいる間は読書をしたりお菓子を作ったりと、普段できなかったことしてみたりもしたが、ほとんどの時間はメルトランス帝国について調べていた。国が違えばマナーや作法も違うことがあるので、一つでも多く覚えていた方がいいと思ったからだ。
そうしてなんだかんだと忙しく過ごしていた中で、ふとした時にラルフ様のことを思い出していた。
思えば私は彼がどこに住んでいるかも知らないため、手紙を送ることができずにいたのだ。卒業式までは学園に行くことができないので、もしかしたら彼とはこのまま会えずにお別れすることになるかもしれない。そう思うとなぜだか胸が痛んだが、仕方ないと諦めていたところに彼からの手紙が届いたのだった。




