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そしてあっという間に月日が過ぎ、卒業まで一ヶ月を切った。婚約破棄の準備は大方整ったが、肝心の合否の連絡がいまだないことに私は焦りを感じていた。
「はぁ……」
「リリアナ嬢?」
「あ……。ごめんなさい。恥ずかしいところを見せちゃったわね」
授業が終わり私が今いるのは図書室だ。最近はラルフ様と図書室で本を読みながら、合間に会話をするのがお決まりとなっていた。
「僕は気にしてないよ。それよりもリリアナ嬢がため息をつくなんて、僕でよかったら話を聞くよ?」
「……」
いくら仲良くなったからと言っても、軽々しく婚約破棄のことを口にするわけにはいかない。
(だけどため息をついてるところを見られてるから、何でもないとは言いにくいわね……)
それになぜだか彼には嘘をつきたくないと思った。仲良くなったからなのか、それとも彼とはもう少しでお別れだからなのか。どうしてそう思ってしまったのかは自分でもよくわからなかった。
「もしかして言いづらいことだった?ごめん。迷惑だったよね」
「迷惑じゃないわ!ラルフ様は私のことを心配してくれたのでしょう?その気持ちはとても嬉しいわ」
「それならよかった」
「……ちょっと不安になっていたの」
「不安?」
「ええ。実はね、ずっと返事を待っている手紙があるのだけど、その手紙がなかなか来ないものだから不安になっちゃって」
「その手紙の相手はずいぶんと失礼なやつなんだね。リリアナ嬢からの手紙に返事を返さないなんて」
「……ふふっ」
(失礼な奴って……)
「ん?僕何か変なこと言った?」
「ふふふっ。いえ、そうね。手紙の相手は失礼な奴なのかも?」
私の言う手紙の相手とはもちろんメルトランス帝国のことだが、彼はそんなこと知らないのだから仕方ない。だけど真面目に話す彼を見ていたらなんだか可笑しくなってしまった。
「なんで疑問形なの?……あ!でもほら、どこかの国に“噂をすれば何とやら”って言葉があるだろう?だからきっとすぐに返事が来るはずさ」
「それってたしかレットウ国の言葉だったかしら?そうね。そう言われればそんな気がしてきたわ」
「だろう?」
「ええ。お陰で気持ちが楽になったわ。どうもありがとう」
「どういたしまして。少しでもリリアナ嬢の役に立てたのならよかった」
悩みが解決したわけではないが、こうして話を聞いて一緒に考えてくれる人が側にいるのはとても心強く思えた。
「話していたら遅くなっちゃったわね。それじゃあそろそろ帰りま」
―――バンッ!
「リリアナさん!」
嵐は何の前触れもなく突然やって来た。




