19 ?視点
「こちらが最終選考に残った者です」
「ああ、ご苦労」
部下から書類を受け取った男は、一番上からその書類に目を通していく。
「まず一人目はレットウ国のシュウ・ムラサメ」
「ほう。あの東の島国の」
「はい。その国の有力家門の子息です」
「あの国にはめずらしい物がたくさんあるからな。もっと国交を深めたいと思っていたところだ」
男はそう言いながら次の書類を手にする。
「二人目はフェルネス王国のノエル」
「北の大国だな」
「ええ。彼女は孤児院出身ですが非常に優秀で、貴族から養女にと声がかかっているようです」
「そうか。ではその貴族の動向に注意するように」
「かしこまりました」
「次で最後か」
男は最後の書類に目を通した。
「三人目はウィストリア王国のリリアナ・ルーシェント」
「ウィストリア……。西の小国か」
「はい。ルーシェント公爵家の娘で、現ウィストリア王国王太子の婚約者です」
「輝かしい将来が約束されているのに、なぜ皇宮文官になろうと思ったんだ?」
「情報員からの報告によれば彼女は婚約者としてまともな待遇を受けておらず、さらに王太子には恋人がいるとのことです」
「そういった馬鹿が本当に実在するとは……。彼女はさぞかし苦労しただろうな」
男は呆れた表情を見せた。国は違えど同じく上に立つ者として信じられない気持ちなのだろう。
「ええ。彼女がいなければ国政が滞るレベルだと聞いています」
「それだけ優秀だということか」
「はい」
男はすべての書類を机の上に広げ、何か考えているようにトントン、と指で机を叩く。少しして男が口を開いた。
「よし。ではこの三名の最終審査を行う」
「かしこまりました。それでは最終審査が終わり次第報告いたしま『待て』……殿下?」
「その最終審査に私も参加する」
「……はい?今なんと?」
「私も審査に参加すると言ったんだ」
「じょ、冗談はやめてください!最終審査は時間をかけて行いますから、最低でも二ヶ月はかかります!殿下が参加するなど不可能です!」
「おい、何を言ってるんだ?私にはとても優秀な副官殿がいるじゃないか。それくらいなら私がいなくてもなんとかなるだろう?」
「……あなた様の副官は一人しかいないはずですが、まさか私のことではないですよね……?」
「ああ、もちろんお前のことだぞ」
「い、嫌だー!過労で倒れる未来しか見えない!」
「どれだけ騒いでもこれは決定事項だから諦めろ。なに、ちゃんと手当てはつけてやるさ」
「うぅ……、わかりましたよ!どうせ殿下は言い出したら止まりませんもんね!」
「よくわかってるな」
「ええ、長い付き合いですからね!それで?尊い存在であらせられるあなた様は、一体どの国に行くつもりなのですか?」
「ん?ああ。私が行くのは……」




