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父が落ち着いたところで今後について話をすることになった。
「やっぱり私は皇宮文官を目指そうと思います」
あの話の後、父は私の意思を尊重すると約束してくれた。だから改めてこれからどうしたいかと考えた時、私はやはり皇宮文官になりたいと思ったのだ。
「だがリリアナ。さっきも言ったが絶対に皇宮文官になれる保証はないだろう?兄上も賛成してくれたのだから、今すぐ婚約破棄をした方がいいんじゃないか?皇宮文官になれてもなれなくても婚約破棄はするのだから、それなら少しでも早い方がいいと思うんだが……」
叔父の言うことはごもっともだ。父が婚約破棄に賛成してくれた今、婚約破棄はしようと思えばすぐにできる。だけどいくら父が味方になったとは言え、こちらから婚約破棄を申し出ても損しかない。あの国王のことだから婚約破棄を受け入れるのに、膨大な額の金を要求してくるだろう。婚約解消だとしても同じはずだ。
「金のことなら心配いらない」
「そうだよ。兄上がなんとかするからリリアナは気にしなくても大丈夫だ」
父と叔父は金を払ってでも早く婚約破棄するべきだと言ってくれているが、私が嫌なのだ。あの人たちが喜ぶことは絶対にしたくない。
「……実は私、王太子殿下から一度も贈り物を貰ったことがないんです。信じられます?私は王太子殿下と国王陛下、それに王妃様に毎年贈り物をしていたのにも関わらずですよ。もしも私が贈り物をしないものなら、間違いなく王太子殿下と王妃様から叱責されていたでしょうね」
「なっ!?」
「信じられん……」
「ですからお二人の気持ちはありがたいのですが、私はあの人たちに銅貨一枚ですら払いたくありません」
贈り物を購入するために婚約者に充てられている予算からなんとか捻出していたが、それだって元はルーシェント公爵家の金だ。財政が厳しいからと結婚もまだなのに、すでに持参金の一部を事前に支払っている。それにも関わらず婚約者である私には一度も贈り物をせず、王家の人たちはお茶会やパーティー、買い物など散財し放題だったのだ。
「くそっ!私はそんなことにも気づかないなんて……」
「お父様?」
「どうかしたのか?」
「……以前、何度か王太子殿下からリリアナに贈り物をしたいが金がないから助けてくれと……」
私と父の関係をうまく利用されたようだ。今まで私のことを気にかけてこなかった父が相手ならば、簡単に騙せると考えたのだろう。どうやらあの馬鹿はそういうことには頭が回るらしい。
「それなら尚更、今は婚約破棄しない方がいいですね」
「だが!」
「私の意思を尊重してくれるのであれば、合否がわかるまでは待たせてください」
「……もちろんリリアナの意思は尊重するが、そこまで待つ理由を教えてくれないか?」
理由、それは皇宮文官になろうと決めた時から考えていたこと。もし今回選ばれなくても私は自分の価値を証明するために、諦めるつもりはない。だから……
「私は貴族籍を抜けます」




