16 父視点
妻の命と引き替えに生まれたのがリリアナだ。
妻の身体は出産に耐えられず、命懸けで生んだ娘を胸に抱くことなく、この世を去ってしまった。
私はひどく後悔した。あの時妻の願いを断っていれば、妻が死ぬことはなかったのだと。私の欲が妻を死なせてしまったのだ。
正直娘が生まれた喜びよりも、妻を失った悲しみの方が大きかった。それに娘は妻によく似ていて、娘を見る度に妻を思い出してしまう私は、自然と娘の元に足を運ぶことが減っていった。
領地にいるとどうしても妻を思い出してしまうからと、領地のことを弟に任せ、私は商会を立ち上げ各地を飛び回った。商会の経営は私に向いていたようで、あっという間に大商会へと成長していった。
ただその頃になると妻を失った悲しみは少しずつ薄れていったが、娘への罪悪感に苛まれるようになった。愛の証とは言えないだろうが、娘は間違いなく私と妻が望んで生まれてきた子。それなのに私の心の弱さのせいで、娘から逃げてしまったのだとようやく気がついたのだ。
しかし気づいた頃には、娘とは年に数回顔を合わせる程度しか関わりがなくなっていた。おそらくリリアナは私のことを父親だと思っていないだろう。今まで一度も父親らしいことなどしてこなかったのだからそう思われても仕方がない。だけどリリアナは大切な娘だ。娘には幸せになってほしい。だが今まで関わることを避けてきた私は、娘の好きな食べ物や好きな色すら何も知らなかった。
そんな私が一体どうすれば娘の人生を幸せなものにしてあげられるかと悩んでいた時、ふと生前妻が言っていたことを思い出した。
『どうかあなたは私の代わりに国一番の存在になって……』
ベッドの上で青白い顔をしながら自身の腹を撫で涙を流す妻。その様子を扉から見守ることしかできなかった私。
生前は叶えてあげられなかったが、今なら妻の願いを叶えてあげられるかもしれない。それに娘も国一番の存在になれば幸せになれるはずだ。
「リリアナを国一番の存在に……」
そうして私は愚かな選択をしてしまうことになる。
この時にきちんと娘と向き合っていれば、娘を不幸にすることなどなかったのに……




