15 父視点
結婚とは家同士の契約だ。だから貴族の結婚はほとんどが政略結婚だが、ごく稀に恋愛結婚をする貴族もいる。
私と妻は政略結婚だったが、婚約する以前から私は妻に恋をしていた。だから妻との婚約が決まった時、必ず幸せにすると決意した。
しかし妻を幸せにすることはできなかった。
なぜなら妻は国一番の高貴な女性になることを望んでいたが、私との結婚で望みが決して叶わぬものとなってしまったから。
妻が私に心を開くことはなかったが、貴族の義務として月に一度寝床を共にし、結婚して一年が過ぎた頃妻は妊娠した。元々身体があまり強くない妻は悪阻もひどく、歩くことも食べることもままならず、一日をベッドの上で過ごすことも少なくなかった。
妻は国王、当時の王太子の婚約者候補として身分も教養も相応しい令嬢であったが、体調面を不安視され婚約者に選ばれなかった。だから私は妻との子どもは考えていなかったが、妻から子を生みたいと願われたのだ。きっと妻は子を無事に生むことで、自分を選ばなかった王家に自分の本来の価値を証明したかったのだろう。私には弟がいるから後継者は弟の子どもにすればいいと思っていたが、愛する女性から涙ながらに願われては断ることなどできなかったのだ。
そして妻は自身の命と引き替えに子を生んだのだった。




