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「……一体何が言いたいんだ?」
叔父と父は仲がいいはずなのに、なぜかどんどん険悪な雰囲気になっていく。
「叔父様、私は平気ですから……」
「平気なわけないだろう?あんな仕打ちをされたというのに……」
「ちょっと待て。あんな仕打ちとはなんのことだ?」
「……私もリリアナから話を聞くまでは知りませんでしたが、その様子だと父親である兄上も知らないようですね」
「なにを……」
「リリアナはいまだに王太子から婚約者として扱われず、王太子と王妃からは仕事を押し付けられ、国王はそれを傍観するだけ。そして王太子はどこぞの娘と恋仲になり、その娘を側妃にと望んでいるそうですよ」
「なん、だと?」
「これが兄上がリリアナに望んだ幸せだったのですよね?」
「そんな……。ち、ちがう……」
父の顔は青ざめ、激しく動揺しているのがわかる。
(なんだか思っていた反応とは違うわ)
父は私の現状を知っても無関心だろうと思っていたのに、こんなにも動揺するなど予想外だ。演技なのではとも思ったが、この反応は明らかに演技とは違う。ではなぜ父がこんなにも動揺するのだろうかと考えてみた時、ふと先ほどの違和感を思い出した。
今までは父の望みが娘を王妃にすることだと思ってきたが、叔父に言っていたという言葉を知った今、なんだか違うように思えてくる。なぜかどちらの言葉も誰かに言い聞かせているように聞こえるのだ。
では誰に?と考えた時、私の予想が正しければ思い当たる人物は一人しかいない。
(……あれはきっと父が自分自身に言い聞かせていた言葉なんだわ)
しかしそう仮定した場合、なぜ父がそのような考えに至ったのかがわからない。自分自身に言い聞かせるほどなのに、私の現状を知ろうとしなかったのはなぜだろうか。知ろうと思えばいつでも知ることができたはずなのに。
「兄上。婚約の話は私が首を突っ込むことではないと思って今まで黙っていましたが、どうしてリリアナが国一番の存在になれば絶対に幸せになれると思ったのですか?」
「……」
「兄上」
「……ジュリアが、言っていたんだ」
「!……そういうことですか」
「えっと、どういうことですか?ジュリアってお母様のことですよね?」
ジュリアとは私の母の名だ。私を生んですぐに亡くなっているので私に母の記憶はない。それになぜか屋敷には肖像画が一枚もないので、私は母がどんな顔をしているのかすら知らないのだ。
「そうだよ」
「ではお母様が私に王妃になることを望んでいたのですか?」
「……リリアナには知る権利があります。だから兄上からきちんと説明してください」
「だが……」
「これ以上リリアナの人生を振り回すのはやめてください」
「っ!」
「お父様」
「……わかった。だが少しだけ頭を整理する時間をもらえないだろうか」
「わかりました」
それから数時間後、父の口からあの言葉の真意を聞くことになる。




