神達がちゅっちゅしてる横で好きな人を口説かないといけない俺の心境を述べよ
初投稿です、お手柔らかにお願いします。
2023/04/21 いいねと評価ありがとうございます。
とても嬉しいです。
「エレムレス」
名前を呼ばれ振り返ると、父が渋面で俺を見ていた。
「何?」
今は鍛錬中の休憩時間で、弟を丁度起こしていた所である。
「次の金の日、大神殿へ石像を納めに行くから一緒についておいで」
「分かりました」
兄さんだけ?僕は?と弟が騒いでるが父が諭している。
タオルで汗をぬぐい、水を飲んで弟にも渡した。
「まあ良いから飲んどけ」
「ありがとうございます……」
プクっと頬を膨らませ、唇を尖らせている弟が酷く幼く見える。確か二歳下のハズだが今ならそんなもんだろう。
膨らんでる頬を人差し指で刺し潰すと、弟の口からプスっと音がした。しばし弟と目を合わせる。するとまた頬を膨らませ、目線で催促してきた。
面白かったのか……、我が弟ながら可愛いな。
「ちなみにハイエルフ様も一緒に行くからそのつもりで」
父の一言で村の外に出る滅多にない機会に浮ついた気分があっという間に霧散したし、ハイエルフ様命の弟が泣き喚いて手がつけられなくなった。
今更だが俺の名はエレムレス、十四歳。
大陸中央に鎮座する迷いの森の南側、小さな名もない村の警邏隊長オリゾン子爵の長男だ。
家族は爺さん婆さん、父母、弟。
沢山食べているはずなのにちっとも筋肉が付かないのが悩みの種。
先日話題になった石像、少し前にハイエルフ様が拾ってきて父に押し付けて来たらしい。
曰く。
「ワタシの管轄外」
……だそうだ。
規格外なハイエルフ様なのに管轄外。……ハイエルフ様の管轄は精霊だから、それ以外と言うことで良いのだろうか?余りいい予感がしないのは気のせいだろう、いや考えてはダメだ。
とにかく暮らしてる村から馬移動で二週間の所にある大神殿へと向かい、何事もなく到着する。
神殿に案内されてる道中で、聖女らしき女性が四、五人の聖騎士っぽい集団に囲まれて何やら嫌な雰囲気だ。外野も見て見ぬふりを決め込んでいる。
「エル」
父に目配せされて頷いた俺はそちらに向かい、その父は案内人に声をかけて人を呼んで来るだろうからその内合流してくれるだろう。
「これ、何の騒ぎ?」
小さく震える女性と男性達の間に入り、女性を庇うように立つ。
「見ない顔だな、部外者は下がってもらおうか」
「あんた達が彼女の前から失せるなら」
どう見ても怯えてる女性に寄って集って八つ当たりしてる雰囲気だな?大陸随一の創造神の大神殿で聖騎士達が聖女様に詰め寄ってるって図としておかしいだろ。言葉に少し威圧を乗せる。
「この女性があんた達に何かしたの。俺からすると、あんた達がこの人を虐めてるように見えるんだけど」
「……っ」
聖騎士達は苦虫を噛み潰したような顔をした後、踵を返して居るべき場所に戻って行った。しばらく様子を見ていたけど、父さんが連れて来た神官達に捕まって質問攻めにされてるようで、取り敢えずそれに安堵する。
「あの……」
いけない、聖女様を放置してた。
自分が着けてたマントを外して床に敷き、座るよう促す。
「俺は父の付き添いでここを訪れた者で名はエレムレスと言います。余り顔色が良くないので少しここで休みましょう。神官様もそれまでには来るでしょうし部屋まで送るよう頼みますのでそれまで一緒にいますね」
荷物を漁り、焼き菓子を渡す。その際に怖がられないように細心の注意を払う。俺も男だし。
聖女は受け取ると俺の顔を覗き込んできた。
ウィンプルから覗く流れるような腰まである茶色髪、形のいい眉を八の字にし、同じ長めの茶色いまつ毛に縁取られ、少し落窪んだ新緑色の瞳が上目遣いに俺を見ていて、形の良い鼻と少し厚めの唇。多分美少女。多分なのはガリガリだから。座らせる時に触った手は、爪がひび割れててあかぎれていた。全体見渡して肌が荒れ気味なのはここの環境があまり良くない事を示してる。
「ありがとうございます」
目があったと思ったのにすぐ逸らされたが、気にしてもしょうがないので隣に座ることを告げて座る。
「それ、弟と作ったんです。良かったら食べて下さい」
にっこり笑ってもう一つ取り出していた焼き菓子を頬張った。聖女様も一口かじり、咀嚼して飲み込む。
すう、と、涙が一筋流れた。
「おい、しい、で、す」
……そんな無理に笑って見せてくれなくてもいいのに。
聖女様は噛み締めるようにゆっくり焼き菓子を食べ進める。
ふと、その聖女様の後ろに目をやると安心顔の大聖霊。
バッチリ目が合ってしまった上に破顔された。
これひょっとして厄介事に首突っ込んだのでは?
聖女様が食べ終わったのを見計らってハンカチを差し出してると、神官達と父が姿を現す。聖女様を神官達に預けて父とハイエルフ様と合流だ。父さんにお願いして聖女様を連れ出したかったけど、神官達だけでなく父にまで止められた。何でだよ、半端に助けるなんてしたくないんだけど。
「だったら俺が彼女の部屋前で護衛する」
と言えば、父とハイエルフ様にまで止められた。
俵担ぎされて宿まで連れて行かれた。
今日の宿に到着して荷物整理後、ハイエルフ様に向かって口を開く。ちなみにハイエルフ様、エルフ語で話しかけないと答えてくれない。
『さっきの聖女様、随分虐げられてるようだった。力だって一番強いだろうに服は薄汚れてる上にヨレヨレ、手はひび割れてあかぎれだらけ、顔はコケてるし身体はほぼ骨と皮だ。その皮だってしおしおだし女の子のハズなのに老人に見える。他の人達は身綺麗でふくふくしてるのにどうなってるの?』
実は石像を納めた後はここで聖騎士を目指す予定だった。
このまま聖騎士団に入団するのは収まりが悪いし聖女様についてた大聖霊が何かを訴えて来る。
『ああ待て、今話を聞いてるから』
手のひらを俺に向けてハイエルフ様は制した。
流石動きが速い……けど、どんどん不機嫌になってるな?
やっと話が終わったのか、ハイエルフ様は肺から全ての空気を出す勢いで息を吐き出し、頭を掻きむしった。
『先ず聖女について』
ハイエルフ様話によると。
聖女様、元々は孤児で赤子の頃に大神殿に拾われたらしい。後見人は当時の大司祭様。六歳頃に大司祭様が儚くなるまでは天真爛漫に育てられていたらしい。それ以降は特に後見人も付かず使用人以下の扱いを受けつつも八歳で力が発現すると、命が削れるまで使い続けさせられ、なのにそれと並行で相変わらず使用人と同じ扱い、先程の聖騎士達は己の性処理までさせようとしてた……と。
『次、大聖霊について』
大聖霊は聖女様が産まれ落ちた後からずっと寄り添っている存在で、もちろん大司祭様に聖女様を伝えたのも大聖霊なのだとか。大司祭様が隠れた後は聖女様を護ろうとお告げで忠告したり夢枕にたってみたり物を落としたりしたらしいがなしのつぶてで、しかも聖女様と上手く意思疎通も図れないしでお手上げ状態だったと言う。
『力を貸したのは聖女の環境を良くしたかったから。怒りを顕にして空気を震わせると聖女に止められるし、むしろ追い詰めてしまったのでどうしていいか分からない。このまま愛しいあの子が虐められてるのを見過ごせない、助けて欲しい。だそうだ』
そうだよな、何もしてない訳ないよな。
……善意が空回りって切ないな。
そして精霊は嘘つかないから内容全部本当って事だろ、胸糞悪いな。
『何このクソ組織、生贄じゃあるまいし。寄って集って気持ち悪いから俺が牛耳っても良いよな』
『待て待て少年言葉汚いし落ち着いて欲しいしワタシにあたってもしょうがない事だな?』
ハイエルフ様はこてんと首を傾げた。
俺は思わずハイエルフ様を睨みつける。
……そう言えば人と感覚が違うんだったな。て言うか俺の力量を試すつもりだな?
ふーっと息を吐き、首を振った。
『そうだそれでいい。怒りの赴くまま動けば護りたいものを見失うぞ、冷静になれ』
腕を叩かれ、椅子にもたれるように座り、足を投げ出す。ふと手のひらを見ると、拳を握りすぎたのか血が滲んでいた。
しまったな、思いの外頭に血が上ってたらしい。後でハイエルフ様に謝ろう。
ハイエルフ様は父を連れ食堂に向かった。多分さっきの話をかいつまんで説明するのだろう。正直な所、俺の出番はないような気もする。部外者だし子供だし。
上った血を覚ますためにこの場合の俺が護りたいものとは何だろうと自問自答する。
俺の矜恃?は、どうでもいいな。正義感?も、どうでもいい。じゃあ聖女様?これは合ってる気がする。そうか、聖女様を護りたいのか。
そこから更に掘り下げよう。大聖霊に頼まれたから?違うな。同情したから?……それこそ傲慢だ、彼女に失礼だ。何かを諦めたような昏い眼をしてたから?庇護欲を掻き立てられたから?聖女様が泣いてたから?……うん、涙を拭いたいと思った。笑ったら可愛いんじゃないかと思った。ほとんど会話もなかったけど、焼き菓子にかじりついてる様子も可愛かった。そう言えば名前を教えてもらってないな。まあそうか、餌付けしてくる不審者だもんな、俺。
あー、うん、分かった。
気付きたくなかったなー……。
もう厄介事とかどうでもいいや、既に絆されてしまってるし。
今回大神殿に訪れた理由は石像の奉納だ。話はそれからだ。
翌日。
どうやら聖騎士達、俺とのやり取り後に神官達にまで注意されたのが気に入らなかったらしく勢いのまま聖女様に夜這いを仕掛けたそうだ。
俺が懸念してた事が起こった。起こったが……、彼女の部屋前で全員裸にひん剥かれて縄で縛られて転がされてたらしい……。
虫の死骸をたっぷり詰めた箱を持った別の聖女が慌てて神官を呼んで発覚したそうだ。更に言うと被害聖女様の部屋前の廊下は糞尿が撒かれてたらしい、どう言う事なの。
という話を朝からされた。
『センセーでしょ、そんな事するの』
情報量が多すぎて頭痛するんだが?
こめかみを揉むようにしながらハイエルフ様を見下ろすと。
『ワタシじゃない』
シレッとした顔でブドウを食べている。
俺もチキンとレタスとゆで卵のサンドイッチを頬張った。
一通りテーブルの上の皿が空になった所で、父が口を開く。
「エル、今日は石像を奉納したら聖女様達と歓談だ」
「それはどう言う意味ですか?まさかのお見合いですか?だったらもう心に決めた方がいるので辞退しても良いですか?」
思わず冷えた声が出てしまい、父に眉間のシワを作らせてしまう。
「まぁお見合いには違いないが、メインはお前じゃない」
そう言った父はハイエルフ様に目配せする。
ええーマジかー……。弟は留守番一択だったんだなー……。
『センセー、どう言う事か説明お願いします』
『先方からの強い要望だ。ずっと蹴っていたのだがしつこくてな。だから今回石像ついでに処理することにした』
処理て。
このハイエルフ、最低である。
『じゃあ俺が付き添う理由は護衛?』
『そうなる。ついでに昨日の娘も口説くといい』
真顔で言われた。
思わず父を見る。
「話してる内容は分からないが、昨日の聖女様が気になるなら声をかけるといい。娶りたいなら全力で応援しよう」
やっぱり真顔で言われた。
「え、何。俺ってそんなに分かりやすいの?」
「そもそもが隠す気ないだろう、分かりやすいも何もない」
思わずテーブルに突っ伏してしまった。嘘だろう……、滅茶苦茶恥ずかしい。親相手って言うのが凄く気まずい……!
やめろ破天荒つつくな面白がるなおもちゃにするな。
「話を戻そうか。奉納は父さんとお前で舞い、演奏は聖女様達が担当してくれるそうだ。食べ終わったら打ち合わせに行くから、準備が出来たら行くぞ」
「はい」
いや済んだことは流そう、取り敢えず父さんの言う通り奉納だ奉納。
……彼女の部屋前の廊下、誰か掃除してくれたのかな。
されてなくて彼女が部屋から出られなくていないと言うことがないのを祈ろう。もしそうだとしても、部屋を聞き出して掃除魔法で綺麗にしに行こう。
踊り子の衣装に身を包んで奉納用の装飾剣を握り、石像を前に息を吸って剣を構える。ざっと見渡して彼女の姿を発見し、内心ホッとする。すぅ、と息を吸い込むと同時に神官達が演奏を始めた。
本日の相手は父、胸を借りるつもりで打ち合う。とは言っても実際には打ち合わず、フリをしてくるくる回るだけだ。
やがて剣舞も佳境に入って篝火が大きくなり、石像から黒い霞が吹き出てきて人の形を取り出した。
それはそれは美しいと言う言葉が賛辞に聞こえないほどの美貌が現れたが、発する気配が禍々しすぎて繊細な者から倒れていく。
ちょっと待って、予定外なんだけど!
――赦サナイ、還シテ。私ノ……!
紡ぐ言葉は呪いか憎しみか。
呪いの言葉が雪のように降り積もる。
――呪ッテヤル、恨ンデヤル、還シテ、還シテ還シテ還シテ!
徐々に瘴気が濃くなり、やがて地面が腐り始める。地鳴りもしてきて立っているのもやっとになってきた。
封印されてた神様、ひょっとしなくても大地母神かな?
最後まで踊りはしたが周りは流石に死屍累々だった。
『センセー、どうしたらいい?流石に想定外なんだけど』
『そうだな、困ったな』
ちっとも困ってなさそうである。ハイエルフ様は人族の事を嫌ってるからどうでもいいのだろう。
どちらにしろ危険には違いないので、父に判断を仰ぎ動ける人達に手伝ってもらいながら神官達を避難させていく。
ふと聖女様と目が合った。産まれたての子鹿のように震えていたが、立っていられるのかと素直に賞賛する。こんなに瘴気が強いのに、躊躇わず一歩一歩踏み出している。
そして決意を宿した、力強い眼差し。
「女神様、女神様。どうか話をお聞き下さい」
思わず目を向いてしまった。担いでた人を別の人に預け、彼女を護るため駆け寄ると自分の背に隠す。
「行けません騎士様、危険なので離れて下さい」
「何を仰る。ここで貴女を護らないなど騎士を志すものの名折れ、どうかこの身を盾にお使い下さい」
「それが嫌なんです!」
「ではせめて隣に」
「それならば」
彼女は両手を胸で組み、祈りを捧げ始めた。
周囲から光の粒子がキラキラと舞い、まるで瘴気と戯れるように回り出す。たまに瘴気の刃が彼女を襲うが、全て薙ぎ払って安全を確保する。
その他同じように動いてる人がいるか確認する。
父さんに肩車されてるハイエルフ様を発見、ついでに身近な人族達も庇ってくれてるようだ、ありがたい。
その他は腰を抜かしてたり這いつくばって逃げる素振りを見せていた。
全て聖女様任せかよ、いっその事さらってしまおうか。
……それとも力ある者の義務って抜かすのか。
たった一人の小さな肩に何もかも背負わすなよ、期待や義務で潰れて死んでしまうだろ。反吐が出る。もちろん話をしてからだけど、望むなら神にも悪魔にもなって見せる。
思考の海をたゆたってる場合じゃない、彼女を護らなければ。
「女神様、何がそんなに憎いのですか?悲しいのですか?辛いのですか?私では分け合えませんか?貴方の力になりたいです」
聖女様の呼び掛けと奇跡のお陰で徐々に地鳴り地面の腐敗と瘴気の刃が収まりつつあるが、まだ気は抜けない。そして痩せ細った彼女では器として受け止めきれないだろう、そっと彼女の右手に自分の手のひらを重ねる。
「貴女に触れる事をお許し下さい、俺の魔力もお使い下さい」
驚いた彼女は俺を見上げると、泣きそうになった顔を伏して再び力強く顔を上げた。
「ありがとうございます」
ふわりと微笑んで見せた後、聖女様が左手を空に掲げた。光の粒子が一際舞い、瘴気を包み込み始める。おおう容赦なく魔力を吸い上げるね、貴女の役に立てるなら喜んで差し出そう。
やがて大聖霊が空からゆっくり降りてきた。
神々しい光に溢れて辺りを優しく照らすと、残滓になり始めた瘴気の浄化を始めた。
すると石像から現れた霞が動きを止めて大聖霊を観察しだしたかと思ったら、滂沱の涙を流して大聖霊に巻き付いた。
うん、あれは巻きついたっていう表現が正しい。
やがて避難しそこなった人達も起き出して顛末を見守り出す。
……俺達出歯亀じゃね?だってちゅっちゅし出したぞ?
ふと気になって聖女様の方を見ると、左手で顔を覆って瞳をうるませて、「良かった……」と呟いている。
貴女が可愛い、語彙が死滅するくらい可愛い。
俺が貴女にちゅっちゅしても許されますか、まだ駄目ですね我慢します。
そんな神様たちを見守る中、ハイエルフ様が手を打って場の空気を書き換えた。
えーと、俺が貴方の言葉を通訳するんですか?声帯を使う?はいお好きにどうぞ。
「これにて剣舞の奉納とする。この後は片付け後歓談に移行だ、速やかに準備せよ」
言葉と共に一斉に人が動き出した。
『これ言うの神殿側の人族だろう……、ないわ、ホントないわ』って言うボヤキは聞こえないフリ。
そして俺はまた彼女にハンカチを差し出した。
勢い良くお辞儀した後、涙を拭きつつ鼻もかんでますね。潔くて花丸です。
少し照れて見せた後、聖女様は青い顔をする。
「すみません思わず……!きちんと洗って返しますので!」
「はい、お待ちしてます」
次の約束が出来たんだ、嬉しいに決まってる。
にっこり笑って見せたら、また視線を逸らされた。
その後落ち着いた神達は、それぞれ守護する人族に戻って行ったはずなのだが、何故か女神様に気に入られてベッタリ張り付かれている。
……いやわかってる。大聖霊付きの聖女様を口説けという圧だと言う事を。
口説けなくてもそばにいろと言うことも。
結局後日にずらした歓談も始まったが、歓談と言うより面接だった。ハイエルフ様の見た目がお子様なのもいけないと思う。
オーラを発する人外美貌なハイエルフ様に対して聖女達は幼女可愛いと黄色い声を発していたが、聖騎士達は絶望の声を出していた。俺達はショタじゃないとかおおよそそういう事だろう。
そして案の定ハイエルフ様は聖女様を気に入った。せっせと餌付けをしてエルフ語まで教え始めている。
ガッデム。
歓談の片付け後、彼女の元に赴いて庭園に誘い出す。
花壇がよく見える東屋にエスコートしてベンチに自分のコートを敷き、座らせた。
「三度目ましてで良いんですかね。俺はエレムレス、お名前を伺っても?」
「えと、アキレアと言います」
そう言ってアキレアさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
なぜなら。
大聖霊が女神を膝の上に乗せ、ずーっと俺たちの前でちゅっちゅしてるからだ。視界の身体強化を切ってるハズなのに大迷惑である。
「アキレア様、質問いいですか?」
「はい」
「あれ、見えてますか?」
確認大事なんだよ……。
「……はいぃ」
とうとう顔を覆ってしまった。
はっきり言おう、俺に覗き趣味は無い。恐らくアキレアさんにもない。
なので。
「神様方、他所でやってくれねえ?」
やば、思ったよりドスの効いた声が出てしまった。
二柱は青ざめると、すぅーっと姿を消した。
出来るんなら最初からしてくれ。
「ふ、ふふふ」
思わずアキレアさんの方を見ると、楽しそうに笑っている。
可愛い。
「エレムレス様、神様相手に強くて面白くて」
「どんな相手にも怯まないをモットーとしてます」
少しおどけて胸など張ってみる。おかしかったらしく、花のような笑顔を向けてくれた。
「俺、実はまだ騎士じゃなくて。なので入団したら貴女の護衛騎士目指して頑張りますね」
「はい、待ってます」
言質もらいました、これから全力で口説かせて頂きますね。その前に太って貰うけど。
父とハイエルフ様は母と弟が待つ村へ帰った。
無事入団試験も通った。大地母神付きでも問題ないらしい。いい加減なんだなーと思ったら特例だそうだ。特例かー、じゃあ「アキレアさん付きの護衛騎士になりたいです」、等とぶっ込んでみたらすんなり通った。どういう事かと問うと、面接官が先日の奉納を見ていたらしい。なるほど?じゃあ俺の数少ない味方ですね、これから宜しくお願いします。
決定したその足で挨拶のためにアキレアさんの部屋に行ってみたら、今日はセミの抜け殻が足の踏み場なくばらまかれてた。もちろん大きな声で上役を呼んで牽制したよふざけんな。抜け殻は丁寧に集めて犯人が判明した時に頭上から降らせる予定である。やられたらやり返す、これ大事。綺麗事で生きていけるなら孤児とか浮浪者とかいないんだよ。
口説くのはこの辺の嫌がらせも撲滅してからにしよう。
良心に付け込むようなことはしたくない。
もし彼女がやり返そうと奮起するのなら、そのための証拠集めにも奔走しよう。
それとは別に、上役を立てつつ根回ししながら神殿の組織改革を進めてる。加護が強い者におんぶに抱っこなんてそろそろ時代錯誤だろ。膿を出し切り、真面目な人が報われる組織になると良い。
旗印にアキレアさんをと言う輩が現れたが、そこは子狡く立ち回って公爵から来た聖女になってもらった。目立つの好きだろう?アキレアさんの部屋前で糞尿振りまく暇があるなら働けよ。
その間のアキレアさんは、孤児院の慰問とか国の結界の綻び調査に尽力する生活をしている。それとは別に聖魔法の扱い方をまとめてるようだ。勤勉、かっこいい。
骨皮筋右衛門だった身体は肉付きが良くなり、女性らしい丸みを帯びた体型になった。
健康体大いに結構。
容姿に自信を持ったのか、笑顔が輝いて見えるようになった。可愛い、好き。
もちろん側に侍って全力で甘えて甘やかしてグズグズにして俺なしで生活出来ない性格に……、なってくれたらいいのに。
ガードが固い、固い!けど好き!大好き!!
ただ、途端にモテ出したから俺としては気が気じゃない。
やめろ、彼女に寄るな。
彼女が泣いてた時に手を差し伸べなかった癖に。
彼女が震えてた時に庇いもしなかった癖に。
彼女が助けて欲しかった時に見て見ぬふりをしてた癖に。
アキレアさんの手を取る資格があるのは俺だけだ。
その手を取る資格だって、アキレアさんに選ばれて初めて許されるのに。
美味しいところ取りなんて許さない。
絶対に許さない。
もちろん全方位に威嚇したさ、枢機卿にすらしたとも。
ふんっ。
たまにハイエルフ様の頭脳に助けてもらいつつ、気付いたら四年の月日が流れてた。
俺は十八歳に、アキレアは二十歳になった。
驚いただろう、年上だったんだぜ。俺もビックリだ。
嫌がらせも下火になり、囲い込みも完了して本日やっとアキレアとの挙式だ。
「愛してる、アキレア」
「私も愛してます、エル様」
式に駆け付けてくれた皆の前でヴェールをあげ、バードキス。
神様達もここぞとばかりに祝福をくれた。
キラキラと舞う光の粒子にヒラヒラと踊る色とりどりの花弁。
参列者たちは感嘆の声を上げ、美しさにため息をこぼす。
また神様達がちゅっちゅを始めたが今日は目をつぶろう。
アキレアの目尻に涙がたまってたのでそっと唇で吸い取る。
そのままお姫様抱っこして式場を抜け出した。
やっとスタートラインに立てた。
これからも宜しく、俺の最愛。
色々と見て見ぬふりをしてくれてありがとう。
苦しい時も楽しい時も、この命が続くまで分かち合おう。
愛してるよ。
……。
…………。
………………。
あーーーーもーーーー!
ちゅっちゅなら見えないところでやってくれ!
読んで下さりありがとうございます。