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ランダムワーク+10分間のエース  作者: 橘西名
ランダムワーク
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09:試合開始!!

「09:試合開始!!」



 一服も済み、本気の証である試合用のスパイクに結城は履き変え。

 若干の疲労を残しながらも十人全員で混成チームと引き分けに持ち込み、とうとう三年生チームとの対決になる。途中で一チームが棄権したため俺たちは不戦勝が決まり、ここを勝てば優勝も夢じゃないところまでいった。

 後はやるだけだ、と信じて潜在能力の高かった彼方と結城をトップにあげ、中盤までその二人が動く範囲にし、吹目と金武宇だけ中盤に残して守りを徹底的に固めることにした。これなら素人集団でもどうにか失点を少なくできると考えたベストな布陣。結城と彼方の二人にどうにか点を多く獲ってもらう。それにつきたのだ。

 DFリーダーの弓矢がジャンケンで勝ち、最初のボールを結城が持って試合は始まる。

 結城は巧みなフェイントをチームメイト相手に披露し、いつの間にか仲の良くなった彼方と息のあったコンビプレーを見せ一気に敵陣の最奥部。ゴール前まで飛びだす。

 そこは冷静に正ゴールキーパーを避けきり、十一人を突破して先制点を獲得した。

 チームの雰囲気は底なしに良い方向なる。

 続けざまに相手の隙をつき弓矢のカットしたボールをロングシュートで彼方が決めて二点目をとることができた。

 残り十二分間。それさえ乗り越えれば俺たちの優勝がきまる。



 試合が大きく動いたのはそれから五分経ってからだった。

 試合全体の動きが重苦しくどんよりしていて、素人集団の俺たちの動きは明らかに悪くなっている。決定的にこちらが不足していたのは体力だった。

 前半から飛ばしてた全員のなかでまだ走る力が残っているのは、結城と野球部三人、それとかけっこの得意な吹目、金武宇の両名。俺を含めた残り四人はバテテしまい、途中からキーパーも弓矢が担当している。ジャンプする気力もない弓矢は運がいいことにシュートを全て正面で受けて失点だけは何とかせずにやり過ごせている。

 時間の問題なのは明白で、結城まで下がってきてしまっているから得点も期待できない。

 絶体絶命のピンチはもうすぐそこまで迫ってきているようだった。

「ひより、ちょっとした提案がある。こっちにこい」

「はーい」

 中盤に残された二人組はこそこそ隅で作戦会議を悪だくみを始め、三人と一人でゴールを絶タ死守。それが三分続き、普通の運動靴で健闘していた三人も足腰に来て動きが極端に悪くなっていった。スパイクのように出っ張りのないシューズではざらざらしたグランドの上で氷上のアイススケーターのように滑ってしまい、体への負担は大きい。

 傍観者にずいぶん前からなっているグループの一員として、時間が早く進むことを望んだ。

 そのとき、自陣のゴール前で展開されている戦場の中に閃光が走った。

「なんだっ!」

 試合に関係のない奇声を発しないでいた三年のチームリーダーらしき人がボールを一瞬で盗られていた。その指示を出したのは絶妙なタイミングを見極めた吹目空。

 知力体力兼ね備えた一家全員探偵家族の二代目が本領発揮のようだ。

 遅すぎるだろ。

「ひより、そのままキープだ。キープっていうのは鬼ごっこで捕まらないこと。この狭いフィール内で逃げ切ることだ!」

「はーい」

 軽く返事をして金武宇は長方形のフィールド内をめちゃくちゃに走り回る。非常に大きな幅のあるドリブルだったが、ここへ来て凄まじいスピードの旋回能力を持った金武宇に三年チームも追いつけないで時間は経過していく。

 その様子を見ながら吹目は勝負を決める一手を出す。

 風に乗るように走り、フィールド内をでたらめに駆け回る金武宇を撫でるようにそのボールを味方ながらにカットする結城は最後の力を振り絞って敵陣に切りかかった。

 金武宇がめちゃくちゃする間に体力を一時的に回復したからこの状況を作り出せる。すべては吹目空の思い通りに進んでいる。あとは、この物語の主役の実力を試すような形でこの舞台は幕を下ろすことになるだろう。

 ほとんど自陣の一番奥からドリブルを始めた結城は一対二なら完璧い相手を抜き去ることができすぐに四人の敵をかわしていく。

 敵陣の最奥部にいるサッカー部現キャプテンの指示で三人が一度に結城に襲いかかり、絶体絶命のように思えたが、それも難なく結城はかわしていった。三人以上は余裕ではなくなるが不可能なレベルではないといっているように堂々とした面持ちでずかずか結城は敵陣に切り込んでいく。

 残りは両チームのエース対決だ。

「結城! 試合に負けても勝負に勝つのはこの俺だ!」

「うざいっすよ、先輩。あんたたちの時代は今年までなんだよっ」

 風は人一人の壁など容易に吹き抜けダメ押しの三点目を入れた所で試合終了の笛が鳴った。

 最後に結城は敵チームのエースに何かを言ってこちらへ戻ってきた。



 一日目の一位も決まり、すべてが終わった後で結城に聞いてみた。おとなりさんのよしみプラス幼馴染の能力でそれくらい教えてくれるだろう。

「んあ? ああ、ああ、それね。ほらあれだよ、あんたらは今年が最後なんだから今年までだろって。絶対最後まで勝ち抜いて一緒にやっていきましょうってな。だからこの結城を中心に使って勝ち進めバカどもって、ははは」

 それほど変なことを言っていなくて安心した。

 それにしても先輩に対してその態度はひんしゅく買うか、嫌われ者になっちゃうだろ、とはいえなかった。言っても聞きそうにないな。

 そして一日目の最終結果はと言うと、棄権したチームが結果に関係なく五位、失点十二の一年生チームが勝ち点も零で四位、失点九の三年生チームが三位、勝ち点でトップになり、失点ニの我がチームはニ位。優勝は俺らと同じ勝ち点で失点が零だった一・二年混成チームになった。もうひとりのサッカー部二年生エースが空中戦を制して一人で十六得点を上げて優勝していた。よく俺らがそのチームに引き分けたな、と俺は思う。

 結城の捕捉によると、

「俺が下、もう一人の上下が上を制しているからサッカー部は今のところ負けなしさ。ユースチームとやる時もこの布陣でやれば結果も違ったかもしれないな。もともと陸上部からコンバートした上下はジャンプ力がとにかく凄くてな空中戦なら誰にも負けない。そうゆう結城様も地上では敵なしだけどな、ははは」

 自慢話を聞いている暇があるなら早く帰って寝たいものだ。

 二日目はグランド整備のため、すこし先に延期され、ゆっくり休めるようで一安心。

 疲れることは一息ついてからまたやってみてもいいかもしれない。



 ***

 過去よりもまず先を見ていこう。

 積極的で前向きな生徒のいる学校の生徒たちは今日も元気に日進月歩していく。

 住む世界はみな同じ、生きる形は多種多様。

 こうしていることはごくごく自然なこと。

 仲良しが増えればできることも増え、世界は無限大に広がっていく。




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