75:孤独のパサー
75:孤独のパサー
三浦姉妹が取った奇策というのは、二人の髪形とユニフォームを入れ替えるという単純なものだ。
しかしそれがいつのことかといえば、試合開始前から入れ替わっていた。
その理由は、東には悪いと思っているが、司と妹のポジションを入れ替え、そうだと気付かせないプレーをすることで二人の底力アップをするために、この試合は利用させてもらっていた。
三浦姉妹が全国区というのは広く知られていることだが、その中学時代とは違い、高校生になってからはお互いがお互いをカバーできるようにプレーを真似合うこともしていた。
司は妹のような中へ入れるような鋭いドライブを。
妹は司の精密射撃のようなロングシュートを。
しかし格下だと思っていた中鏡高校にリードを許し、ポジションを戻したため面白いことが起こっている。
司だった妹はゴール下で鋭いドライブをし、妹だった司は試合の後半で精度を増したシュートを決める。
そのためか東には同じスペックの三浦が二人いるように映ったのだ。
それがこの試合の決め手になり、最後の切り札である“三浦ドライブ”は全国大会前に使わずに済んだ。
試合後に東は人懐っこそうに姉妹に絡んできた。
試合に負けた悔しさなんて微塵も感じさせず、姉妹を抱くように後から飛びかかってきた。
「いやー、今世紀最大の奇策だったなぁ」
「負け犬とは思えないほどすがすがしい反応ね」
「うんうん」
「全国で勝てる目途はたったから、まあいいかなって感じかな」
「適当なのね」
「ところで東さんって久世先輩の同級生ですよね」
「はいね♪」
「久世先輩に百合っ気があるのは中学時代に目覚めたからだと思うんですけど、そこん所どうなんですか!」
「その通りだよ!」
妹の必死な言葉もよく聞かないで東は適当に問題発言をしてしまったが、そんなことになっているとは知らない久世桜はミラモンドと話していた。
「あんたって千波のことどう思ってるの?」
「スキですよ。試合に勝つには必要デス」
「ならせめて、千波の本気のパスを引き出してやんなきゃね。時間はかかるだろうけど、まあ頑張れば」
「がんばりまス」
田村高校に投下されたのは、久世桜“百合疑惑”という爆弾。
中鏡高校は優秀な選手を集めるだけでなく、それぞれが全力を出せるためのより強い意志をそれぞれ得ることができた。
それが彼女たちのこれからにどのように関わってくるのかわからないが、一先ずここから三週間ほど女生徒から熱烈な手紙を受け取ることになってしまった人が一人いた。
ご愁傷さまである。