74:三浦姉妹
74:三浦姉妹
マッチアップは相変わらず、三浦妹が東千波を、久世桜がミラモンドを相手にし、三浦司は少し前の方でフリーの状態でいた。
試合の後半になればなるほどシュート精度の増す姉の司は厄介だが、それを完全に抑える事は東には難しいことだった。
前半から妹の消耗を狙っていたのも、妹の方ならほぼ無力化できるが、ロングシュートも撃てる司だと身長の低い東にはどうしても止められない部分が出てきてしまうから、より確実な方を選択した。
だからこうして詰め将棋を打つようにじわじわと妹の体力を削って姉妹のコンビプレーを封じてしまえば相手の戦力は半減する。
「ふんふむ。髪形変えたの?」
東が突拍子もないことをいうのはいつものことだが、今回は東が正しかった。
三浦姉妹は双子と間違われるほど背格好や顔がそっくりなのだが、それを気にして普段は司がキレイ系、妹が可愛い系の髪型や服装をするようにしている。
試合のときも司がセミロングの髪をたらしているのに対して妹はパーマをかけてふんわり仕上げている。
それを試合の途中で入れ替えてきたことに気付いた東は、よく姉妹を観察していたのだろう。
「姉の方は若干相性が悪いんだけどさ、別に百パー止めなくて八十パー止めるだけなら、よゆーでできるんだけどね」
タイムアウト後の最初の攻撃でわざわざ得意のスリーポイントシュートをしてこないわけがない。
それなら地上戦なら妹を完封した東がそれ以下の相手を止められないはずがない。
そのための挑発だ。
「さあ、きなよ!」
「遠慮なく」
妹に変装した司は、一瞬の気の迷いも見せずその場からシュートを放つ。
やられたと思った東も飛んでシュートをブロックしようとするが、そんな形だけのものをすり抜けてシュートはゴールリングを貫いた。
「次はドライブで抜くわ」
宣言通り、東のマークを振り切れないままスリーポイントライン付近で司がボールを受け取る。
その場で数回ボールをついてから、ゴールから離れる方向へ司はドライブを仕掛ける。
このパターンに東は「うん?」と心の中で首をかしげた。
なぜなら、ここから繋がる田村高校の連携はドライブで抜きにいくと見せかけた“妹”がインサイドに残る“司”にパスをつなげるというものだ。
「抜かせないってのは、パスも出させないって意味だよ!」
非常に的確な動きで東は司の進路もパスコースも防いだ状態で、その動きを止めた。
「ドライブで抜くとはいったけど、ここは私の距離だよ」
しかしそこからワンステップで身体を翻した司は、一気にゴール下まで踏み込んできれいなレイアップを決めてしまう。
この動きに対応できなかった東はこの試合で始めてしまったという顔をする。
「なーんだ、やっぱり姉の方が実力は上なのか~。さすがに最大値は下がるけど、キレがあるぶん止め辛そうだ」
東は勝負にこだわる様なタイプじゃない。
そのためゴール下へ行って体力回復に努めている妹のマークにためらいもなくついた。
「よろしく~」
暢気にいう東に姉に変装した妹は露骨に嫌な顔をする。
次に田村高校の攻撃になったとき、東はワザとボールをゴール下まで通した。
しかしこの位置からでもゴールへボールを放れないプレッシャーを東は妹にかける。
これで体力と精神力の全てを根こそぎ奪うつもりだった。
しかし予想に反して妹は異様な行動に出る。
妹はボールをもらってすぐにバックステップで東から距離を通ると、まるで司のようなシュートを決めた。
このワンプレーで東はもやもやしていた自分の考えに一定のまとまりを覚えた。
コート上に三浦姉妹というのはいるが、三浦司や三浦妹という個人はいない。
まるでどちらの能力も使える三浦が二人いるようだ。
そう確信してしまった東は姉妹の区別がつかなくなった。