69:東千波
たむこうVS東千波のいった高校です。
田村高校が練習試合をする相手は、中鏡高校。
三浦司や久世桜が高校一年の去年には、愛知県代表として全国大会に出場し、元チームメイトとして久世桜が良く知る人がいる高校である。
それは最強の中学の黄金期を一緒に戦った中村八重、野田佳澄、上園青空のメンバーの最後の一人であり、一番の問題児でもあった。
プレイスタイルは王道のポイントガードからは大きく外れた変則的なポイントガードで、とにかく粘っこい守備に定評がある気分屋。
一度調子に乗せてしまうと手がつけられないほど厄介でよく後輩のセイラが止められて文句を言っていた。
それにチームのムードメーカーでもある。
***
電車で約三時間半、駅からはバスで三十分。
東千波は、長距離移動の疲れも感じさせず、バスのステップを飛び降りた。
「にひひ。桜に会うのは、OB戦に行ってないから一年ぶりくらいかぁ」
都会の名古屋より空気が澄んでいるため顔を上げて深呼吸し、その空気を体中に浸透させる。
バスを降りてすぐのところで一番最初に降りた人がそんなことをすれば、残りの全員が降りられずに団子状態になっていた。
するとバスの中から片言の日本語で東を注意する声が飛んだ。
「チナミ、なにしてるン? みんな降りれないからどいテ」
「あー、ごめんよ」
東は注意を受けて深呼吸を止めて、バス停の脇に移動する。
バスの運転手さんの迷惑にならないように残りの十数人が一斉に降りていく。
その様子を気にかけながら東は学校までの順路を印刷した紙を広げてみる。
「おー、この道を真っ直ぐ行けばつきそうだ。なんか周りに何もないけどいいところだ」
中鏡高校一同は、二年生で部長を務める東を先頭に歩き出した。
真っ直ぐ向かっていれば時間通り十時過ぎにはついていたはずなのに、中鏡高校が到着したのは十二時前だった。
途中で飲み物が欲しいやらトイレに行きたいやらでコンビニを探してしまったのがいけなかった。
東は昔からみんなの統率を取るのを得意としていないから、全員がバラバラになってしまうと立て直すのが難しかった。なにより、率先して引っ掻き回しているのはトイレと言い出した東に他ならない。
田村高校へ着くと一年生の子に案内されて体育館のそばの小スペースを自由に使っていいということなので、ちょうど試合をしている中の様子を見にいこうと数人を連れて東は体育館の中へ入っていった。
すると試合中の田村高校のベンチから東に気付いた一人が声をかけた。
「もう練習時間はないからな。早めに昼食を取ってアップしといて」
「つれいないなぁ。それより桜は試合の方はいいのかい」
「最終クォータで相手もバテてきてるから、私は下がって三浦姉妹に任せてる。もう点差も開いて、こっちは百点ゲームだから調子は悪くないな」
「そんな地区予選レベルの学校と、僕のいる中鏡高校を同じにしないで欲しいな」
「楽しみにしてるよ」
昔は同じチームで全国制覇をしてきただけあり、久世桜と東千波はそれぞれが負けられない気持ちを持っている。
学校の強さでいえば、全国大会ではベスト十六の田村高校が、マネージャー間で決められる全国ランキングでも中鏡高校より上位にランキングされているが、今年は姉妹が揃った田村高校が、中学時代のように新時代の風になるといわれている。
「一年前と違うのは、自分達だけだとおもうなよぉ――っと」
不敵な笑みを浮かべる東は、片言の日本語しかしゃべれないチームメイトのことを思い浮かべていた。
この話の試合が終わったら、前の続きに取り掛かろうと思います