66:ちょっと昔のこと
66:ちょっと昔のこと
司が高校へ入学して二度目の夏がくる少し前。
そんな一時の話。
桜が十有二月学園にいて一学年下の天野のことを知っているのは、三浦姉妹と同じく天野が碧南中学出身だからだ。
彼女のプレイスタイルや実力は平凡なものだが、同じガードとして尊敬できる人だと桜は姉妹から聞いて思っている。
碧南中学は毎年のように部員不足に悩まされて存続の危機を迎えるような女子バスケ部だったが、ある時期のバスケ部は愛知県内なら知らない人がいるほど強かったことがある。
最高学年の三浦司はスロースターターだが、決めるところではちゃんと決めるシューティングガード。
一学年下には司の妹であるマイがスモールフォワードとして姉をサポート。
さらにマイと同じ学年の天野箕五子は平凡ながらに全国のエースガードを相手に一歩も引かない強い精神力を持っていた。
この三人を中心に碧南中は勝負できる強い学校に育っていた。
そんな昔のことを思い出していた司は、マイと一緒に買物へ来ていた。
買いたいものは特になかったが、今日は部活も早く終わりそういう気分だったからこうして町へ着ている。
格好は部活帰りのジャージ姿だが、問題はないだろう。
「みぃは元気かなぁ」
司のつぶやきにマイは反応する。
『みぃ』とは、中学時代一緒だった天野箕五子の愛称である。
「元気なんじゃない?」
短く区切った言葉には色々な意味が含まれていると司は思う。
卒業してしまったあの一年間は、妹と天野にしか分からない。
部外者の司が知っているのは、彼女達の最後の大会があまりよい結果でなかった。
進路は別れ、一人は姉と同じ道に進み、もう一人はその力を必要とした無名の高校へ。
「ならいいけど。もう一年以上も会ってないと不安になるわ」
「司の言葉とは思えない」
「なによそれ。私は純粋に、昔のチームメイトとまた勝負をして今度はどっちが上かはっきりしたいだけよ」
「みぃと? そういえば全国大会はシード校の赤坂高校と二回戦であたって早々に負けたんだっけ」
「そう。だから去年は対戦する機会がなかったし、私たちもあまり勝ち進めなかった」
「でも今年は」
「そうね。今年は私たち姉妹が揃ってる」
「負けられないね」
「そうね」
目標は――全国制覇。
姉妹は夢を語り合った。
次は日曜日(23日)に投稿できたらと思います。
順不同で申し訳ないですが、三浦姉妹がそろった夏の大会直後の代表戦の話になると思います。
そこでいろいろと名前の出てきた十有二月学園や赤坂高校、高円寺高校の選手が出てくるかもしれないです。