62:代表合宿(集中)
62:代表合宿(集中)
こちらがフォーメーションを変えてきた事で、男子チームはフォワードの枚数を増やしてきた。
リンにディフェンスを頼んだけど、こうも見透かされると嫌気がさす。
二対一の状況になれば、いくら体格に分のあるリンでも攻撃を完全に防ぐことは難しい。
劣勢の状態でも最小失点に止めるために、リンはディフェンスリバウンドを死守してくれた。
興味のないことには本当に興味がないリンでも、前半で頑張ってくれた歳賀原さんに刺激を受けて、多少の無茶をしている。
そうだとしても残り時間を考えれば最後までもつだろう。
リンと歳賀原のエース級のオフェンス陣を使えなくなると、急激に落ちた攻撃面をカバーするのは私の役目となる。
結局のところ、得点がコンスタントに決められなければ、今ある点差はあってないようなものだ。
このままのリードを維持して最後までいけるとは思えない。
「新崎さん!」
前線に残る歳賀原さんに呼ばれて、自分のマーク相手がジャンプシュートを放ったことに気付いた。
それがスリーポイントシュートとなり一気に得点は縮められた。
攻守は切り替わり、こちらの攻撃になる。
ボールを持って前を向くと、後輩達へのパスコースは完全にふさがれていた。
カウンターでもない限り、しっかりマークされていると効果的な飛び出しができないかぎりフリーになんてなれない。
それが分かってる二人は懸命に動くが相手のほうが何枚も上手だ。
そしてパスを出す私にも二人のマークがついている。
ボールを取られはしないが、正直に言うと奪われないように集中するだけで私も精一杯だ。
何も出来ない時間ができると、マークについた男子が話しかけてきた。
「こうなると残念だけど、もう時間の問題だな」
「二人もマークをつけるなんてやりすぎかもしれない。けれど、警戒しすぎてもしたりないくらい君は良い選手だよ」
止まっていた時間を動かし始めるために、一度、横まで来ていたリンにボールを渡す。
しかしリンが攻めないことを分かっているように相手は形ばかりのとりあえずのマークしかつけなかった。
それを見て、一度攻めに行く体勢を見せたリンに、相手の素早いチェックが入る。
それもそのはずだろう。なぜなら前半で一回しかしていないプレーだが、リンは男子相手に一人で五人抜きを達成している。
男女の身体の強さの違いを除けば、身長も速さも負けていないリンに、そのプレーを警戒するのは当然で、私のマークが一人に減ったのも必然のこと。
しれっと私にボールを戻すリンには軽く「サンキュ」と言って、前を見ることなく前線へ鋭いパスを送った。
二年生コンビに合図を送るわけでもなく送られたパスは、相手どころか味方も反応できず、パスを出した方向にいた片桐はその場に足を止めていた。
「そのままゴールだけ見てて!」
私のパスは、よく受ける人の手元で伸びるといわれるが、感覚的にはパスの受けての次の動作に繋がるようなパスを出しているつもりだ。
手首のスナップで鋭く出されたパスは、片桐に届く少し前で失速し、ちょうど彼女の目の前で落ちた。
ゴールを見ていた彼女は、目の前に飛び込んできたボールに反応して、そのまま苦もなくシュートを決める。
その一連の動作があまりにも自然な流れでいかれたため、マークについていたはずの選手も反応が何歩も遅いものだった。
それを皮切りに、パスがポンポン通るようになり二年生コンビはシュートを外すことなく確実に決めていった。
例え、フォワードが無名の選手でも一試合の平均点を三十点以上にすることができる新崎の真骨頂がここへ来てようやく発揮できた。
何をどうしてそういうことが出来るのか、自分ですらよく分かっていないが、もしもパスの受け手が千駄ヶ谷でエース級のひとなら毎試合八十点以上取らせる事だってできたのがここにいる新崎葵なのは間違いないことだった。