61:代表合宿(チェンジ)
61:代表合宿
試合の流れを掴んだ私達はその後も得点を重ねた。
その影ではインサイドの厳しいマークを押しのけてオフェンスリバウンドを死守してくれた歳賀原さんのことを忘れてはいけない。
彼女はきっと世界に通用する選手の一人になるはずだ。
しかしその希望的観測は、レフェリーがついた一息の笛の音で潰えてしまう。
「はぁはぁ、大丈夫ですわ。たった十分間。そのくらいゴール下を守れないでなにがセンターですか!」
強気な言葉とは裏腹に彼女の足元はガクガク震えていた。
ファウルになるほどの危険なプレーこそされていないが、即席チームのバラバラな気持ちをつなぎとめるように無理をしてリバウンドを死守してきたツケが明確にでていた。
レフェリーが試合を一度中断したのもいい判断だと思う。
これ以上のプレーは今後の彼女のためにもならないと思った。
「こんなことでおろされたなんて、快く送り出してくれたチームのみんなに申し訳が立ちません。もう無茶はしませんから試合に出してください! お願いします!」
ここで決定権を持つのは、監督ではなく私だった。
チームのことも考えられないような奴は代表には要らないといことらしいが、中学生の女子に酷な選択をさせると思う。
私の気持ちは変わらず、歳賀原さんは下がった方がいいと思う。
しかし私と同じでチームの責任や期待を背負った人はこんな場面では決して降りないのも分かっている。
どうしようかと迷っていると、リンが力強い言葉を掛けてくれた。
「この試合で決めちゃえば良いんだよ。私の認める新崎が本気になればこんな相手、敵じゃないよ」
「なにいってるの。私はじゅんぶん本気だし、速さも上手さも相手の人の方が上なのは確かだよ」
「でも新崎のパスは一度も止められてない。無駄にドライブとかしないですぐにパスを出しちゃえばいいのに」
リンは平然と言う。
「まずポジションからかえよー」
センターの歳賀原さんはそのまま相手ゴールの近くにいてもらい、競り合いはしないでもらう。
フォワードを後ろよりになっていた二年生コンビに任せる。
自陣のゴールはディフェンス限定のセンターガードとも言えば良いのか、リンが全てのボールを弾き返し、私が外からのシュートをなるべく打たせないようにする。
審判には私から説得をして、試合は再開された。
その前に私はフォーメーションの変更を伝える。
「この五人で試合は再開されるわけだけど。まず歳賀原さんは前にずっといて、フリーの状態でボールを受け取ったらゴールだけ見て打って」
「分かりましたわ。……少し競り合いは難しいですので」
「リンは下がって自陣のゴールを死守。もう攻めなくていい」
「りょーかい」
「悪いけど、これからは片桐さんと岡本さんが得点をしていってくれる? なるべく私がゴールへつながるパスを出すから。無理だったら戻すなりしてくれて良いから」
「「はいっ!」」
「ところで、新崎さんは少し雰囲気が変わりましたか」
「新崎ーは大体いつもこんなだよー。まあ、全国大会でもこんなに集中してるのは見たことないけど」
私は私とバスケをしてくれる人を守ってみせる。
こんな気持ちは先輩とバスケをしていたとき以来だ。